第155話

 俺とニーナの前には、一体ずつハゲタカが置かれている。


 どちらも全長1メートル近くあり、凶暴そうな爪を持っている。

 目は鳥にしては大きいのだが、極端な斜視寄りになっていて不気味だ。

 とはいっても、大怪我を負っていてまともに動けないはずなので、危険性はないが。

 一応両翼も毛皮で縛ってある。


 どちらもさっき、俺が〖鎌鼬〗で仕留めたのだ。

 なんか変な鳥が飛んでるなぁーと思って眺めていたら、玉兎目掛けて急降下してきたので容赦なく返り討ちにさせてもらった。

 どちらもざっくりと翼の根元付近の肉が抉れている。


【〖ハレナエコンドル〗:E+ランクモンスター】

【ハレナエ砂漠にのみ生息するコンドル。】

【非力ではあるが狡猾で、旅人の荷物を奪って逃げるため注意が必要である。】

【卵をあちこちに産み、子供をほったらかしにしてつがいで狩りをすることが多い。】


 巣ほっぽって夫婦で狩りってロクでもねぇ鳥だな……。

 この魔窟の砂漠でそんなアバウトな育て方で何パーセントが成体になれるんだよ。

 その内滅びるぞ。

 そんなのだからハレナエ以外に生息地が広がらねぇんだよ。

 どこの世界でも育児放棄は問題だな。


 しかしまさか、俺よりずっと小さい鳥なのに、俺の傍にいる玉兎を誘拐するほどアクティブだとは思わなんだ。

 特にハゲタカってもっと卑屈っつうか、死体漁ってばっかりなイメージがあったんだがな。

 ハゲタカの頭部が禿げてるのは、腐肉喰うときに毛に菌がついて繁殖するのを防ぐためって話も聞いたことあるし。

 いや、あれは否定されて体温調節説が有力何だったっけ?

 ま、んなことはどうでもいいか。


 こうして俺とニーナの前にハゲタカを置いている目的は、〖レスト〗の練習のためだ。

 俺が以前〖レスト〗を習得しかけたときは、ミリアの治療を試みているときだった。

 あのときは傷を治そうというイメージが上手く行ったのではないだろうか。

 何もないところで漠然とレストレストと念じていても上達はしないと思うんだよな。


 かといってわざわざ自傷するわけにはいかんし……ということで、上手く生け捕りにできたハゲタカを〖レスト〗の練習台にしようということになったのだ。

 ちょっと残酷だが仕方ない。


 俺は自分の前に置いたハゲタカのステータスを確認する。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ハレナエコンドル

状態:流血

Lv :8/15

HP :5/24

MP :12/16

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 次はニーナの前に置いたハゲタカのステータスを確認する。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ハレナエコンドル

状態:流血

Lv :7/15

HP :5/22

MP :8/14

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 どっちも残りHPが5か。

 わかりやすくて丁度いいな。


「ぺふっ」

『光デ、傷口ヲ治療スル感覚。雑念、払ウ。余計ナコト考エナイ』


 玉兎先生のありがたい指導を聞き、俺はハゲタカの傷口へと意識を向ける。

 大丈夫だ。一回、紛い物なら成功した記憶がある。

 あの感じを思い出せば行けるはずだ。


 ここで〖レスト〗を習得すれば、次の進化にも関わってくるはずだ。

 邪竜に回復魔法って似合わねぇし。


 ジャバウォックルートはなんとしても回避せねばならん。

 ちらっとスキルの説明で名前を見た限り、ちょっと移動するだけで死体の山が築ける歩く大災害扱いだったからな。

 あんなの絶対なりたくねぇ。

 今がBランクだし、次くらいで名前が出てきてもおかしくねぇ。

 そのとき進化先が一択だったらマジで詰む。

 何としても善寄りの称号を集めなければ。


「グゥッ」


 俺は〖レスト〗と強く念じながら、鳴き声を上げる。

 わずかながらにハゲタカの傷口が光るが、相変わらず血は流れ続けている。

 ステータスを確認してみるが、ハゲタカのHPは6へと上がっていた。


 たった1の変化か……。

 ベビードラゴン時分でも3は回復させられたと思うんだが、やっぱし種族のせいなんだろうか。

 いや、MPはまだまだある。


 初めて〖レスト〗を使ったときのことを思い出せ。

 森の中で、気を失ってぐったりとしたミリアを背から降ろして必死に〖レスト〗を使おうとしたときのことを。


 目を瞑り、ベビードラゴンだったときの自分を思い返す。

 目を開けてから、ハゲタカにミリアの姿を重ね……。


「ピヒャァッ! ピヒヒヒハヒャアッ!」


 ハゲタカが目をぐるぐる回しながら、縛られた両翼を振って甲高い声で鳴く。

 やっぱこれとミリアを重ねるのは無理だな。なんか本人に怒られそうな気もするし。

 でも昔を思い返すと、薄っすらと感覚を掴めてきたような気がする。


「グゥアッ!」


 再び〖レスト〗を使う。

 目の前にいるのはウザったい声で喚いているハゲタカではなく、死にかけの子供だと必死に自分を騙す。

 すぅっと光が、ハゲタカの身体に染み込んで行く。

 ハゲタカの傷口から血が流れなくなり、塞がって行く。


「……ピヒャッ?」


 ハゲタカがもがいていた動きを止める。

 お、これ、行けたんじゃね?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ハレナエコンドル

状態:通常

Lv :8/15

HP :16/24

MP :12/16

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 やった!

 流血が治った上に、HPが一気に10も回復した。


【通常スキル〖レスト:Lv1〗を得ました。】 


 スキル認定もされた。

 俺にとって初の魔法スキルだ。

 なんとかスキルLvを上げて行きたい。


【称号スキル〖救護精神〗のLvが7から8へと上がりました。】


 ついにLv8まで上がっちまったよ。

 〖救護精神〗のお蔭で〖レスト〗が習得しやすくなって、〖レスト〗を習得したおかげで〖救護精神〗が上がるわけか。

 なにその無限ループ。

 これもう聖竜ルートもらったも同然だな。

 多分進化先にまともで強い奴が一個は出てくるはずだ。


 ちらりと横に目をやれば、ニーナが嬉しそうな顔で俺を見ていた。


「ちょっと、心なしか出血が治まってきたみたいです!」


 横で指導していた玉兎も、得意気な表情で俺を見ている。

 魔法の教師までできるとか、玉兎の有能っぷりにどんどん磨きが掛かっていく。

 どれどれ、ハゲタカのステータスをちょっと見てみるか。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ハレナエコンドル

状態:流血

Lv :7/15

HP :2/22

MP :8/14

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 順調に死にかけじゃねぇか!

 血の流れが治まってきたって、それもう血出尽くしてきてるからじゃね。

 よく見たらハゲタカの顔色が現在進行形で悪くなってきている。顔の毛がほとんどないからよくわかる。

 嘴をパクパクさせ、物悲し気な掠れ声で鳴いている。

 確実に死に向かってんぞ。


 玉兎も満足気にハゲタカを見ている。

 何やりきったみたいな顔してんだ。

 駄目だコレ、ステータス見えねぇとやっぱわかんねぇもんなんだな。

 俺はもう〖レスト〗を習得できたし、ニーナを教える側に回った方が良さそうだ。

 玉兎がコーチする横でハゲタカのHPを確認しよう。

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