第140話
左右に分かれた赤蟻が走ってくる。
赤蟻は微妙に速度をずらし、更に前後に分かれる。
二体にステータスの差はほとんどなかったため、個体差によるものではないだろう。
同時には飛び掛からず、一体目が作った隙を二体目が突いてくるつもりか。
狙いはわかったが、それを崩せるかどうかはまた別の話だ。
やっぱしステータス通り速い。
両方に気を配り、的確に対処しなければならない。
頭の中でシミュレーションを行う。
俺が一番傷を負うパターンを想定し、最悪を回避できる動きを模索する。
怯んだらボコボコにされる。攻撃を確実に受け流すのが大事だ。
とりあえずは〖灼熱の息〗から入らせてもらうかな。
玉兎を口から出しておいてよかった。
射程も長いし、範囲も広い。狭いこの通路ではまず避けきれない。
二体の赤蟻が炎に包まれる。
だが、これだけじゃあ終わらないはずだ。
アイツらの体力から考えて、まだまだピンピンしてやがることだろう。
俺は翼を羽ばたかせ、炎の中へと〖鎌鼬〗を数発撃ち込む。
丁度、炎を突っ切って顔を出した赤蟻に風の刃が命中する。
「グゥッ!」
前方の赤蟻の頭部に綺麗な切り傷ができ、動きを止める。
後方の赤蟻が、動きの止まった赤蟻を追い越して前へと出る。
「クチャッ!」
前に出た赤蟻が鳴くと宙に砂の弾丸が数個現れ、俺へと直進してくる。
ステータスで見た〖クレイガン〗だな。
懐かしい。確か、黒蜥蜴も持っていたスキルだ。
ただ、なぜか砂の弾丸の色が赤い。本体の身体の色に合わせていやがるみたいだ。
俺は砂の弾丸を爪で弾き落としながら、赤蟻の姿を目で追う。
後ろで動きを止めていた赤蟻も、再び動き出していた。
頭部にできていた切り傷が、すでに完治している。
〖自己再生〗を使ったらしい。
「クチャッ!」
前方の赤蟻が、地を蹴って跳ね、大口を開けて飛び掛かってくる。
チッ、肉弾戦に持ち込まれたか。
外ならいざ知らず、ここは狭いからデカイ俺の方が動きづらいんだよな。
悔しいが、殴り合いだと向こうに分がある。
「グルァッ!」
宙にいる赤蟻へと俺は腕を振るう。
いける、当たれ、当たるはずだ。
赤蟻は空中で大きく首を後ろに退く。
俺の爪が、空振った。
赤蟻は、空振って前に突き出すことになった俺の腕へガブリと噛みついてきた。
みしり、腕を覆っている鱗が軋む。
俺はそのまま腕を持ち上げ、天井に赤蟻を打ち付けてやる。
赤蟻が口を開け、床へと落ちる。
が、気を緩めている余裕はない。
もう一体の赤蟻が俺の腹部に噛みついてやろうと迫ってきていた。
上に気が向いた俺の隙を突いたつもりだったのだろう。
だが俺は、最初から一体目の作った隙を二体目が突くつもりで上下に分かれるフォーメーションを組んだことはわかっていた。
そんな安易な策が通ると思うなよっ!
俺は一歩後ろに下がって距離を取りながら、腹部に飛び込んできた赤蟻を蹴り上げる。
無防備に宙に浮いた赤蟻を〖ドラゴンパンチ〗でぶん殴り、一気に遠くまでブッ飛ばす。
赤蟻は空中で体勢を整えて足から上手く着地していた。
思ったよりタフだな。
だが、遠くにやることには成功した。
これでアイツがこっちに戻ってくるまでの数秒の間、片割れとの一騎打ちができる。
「グルァッ!」
叫び声を上げながら、もう一体の方を探す。
あれ、どこに行った?
もう片方の方も、俺が殴り飛ばした赤蟻を追って退却していた。
なんだ? 力の差がわかったのか?
二体の赤蟻は顔を合わせた後こくりと頷き合い、再度俺へと突進して来る。
……ああ、単体じゃ攻撃できないと踏んで一旦下がっただけか。
意外と頭が回るじゃねぇかアイツら。
とはいえ、遠距離だったら俺の方が有利なんだけどな。
また〖灼熱の息〗からの〖鎌鼬〗でHPを削ってやれる。
赤蟻は炎の中をそのまま突っ込んでこそきやがったが、それなりにダメージを追っていたはずだ。
遠距離技ならば向こうにも〖クレイガン〗があるが、この狭い通路のせいで完全に一方向からしか飛ばしてこないため、爪で簡単に弾き落とすことができる。
MPはさして高くなかったし、〖自己再生〗もそこまでしつこくは使えない。
どの程度削れてるのか、赤蟻のステータスを確認しておくかな。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:レッドオーガアント
状態:普通
Lv :29/55
HP :132/246
MP :21/78
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種族:レッドオーガアント
状態:普通
Lv :27/55
HP :86/239
MP :56/75
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
うし、結構削れてんな。
状況は俺の方が有利だ。
また先程同様〖灼熱の息〗で先制をくらわせてやればいい。
すぅっと息を吸い込み、飛び込んでくる赤蟻に通路いっぱいの炎を浴びせてやる。
逃げ場がねぇから、これはまず回避できないだろう。確実に削らせてもらうぜ。
赤蟻は、二体同時に足を止める。
HPが減って来たら、さすがにさっきまでみたいに果敢に突っ込む勇気はなくなったか。
とはいえ、止まったってそこまで来ちまったらもう避けられねぇだろう。
回避しようと思ってんのなら、俺が息を吸った瞬間に全力で後ろへ逃げるべきだったな。
そんな中途半端な対処じゃダメージ負う上に攻め時失くすだけだろうに。
炎が俺の視界を覆い尽くす。
先ほど同様、更に炎に向けて〖鎌鼬〗を放つ。
ガツンッと、炎に飛び込んだ風の刃が硬質な音を鳴らす。
あれ、何にぶつかったんだ?
炎が止むと、赤い砂の壁が通路を塞いでいた。
〖クレイ〗で壁を作って炎をやり過ごしたのか。
俺がそう気づいたのと同時に、壁が崩れて大量の石礫、〖クレイガン〗が飛んでくる。
二体掛かりで撃ってきてやがる。
この通路だと狭くて避けられないため、弾き落とすしかない。
そう思って両手で必死に弾くも、追いつかない。
段々とこっちが崩されてきている。
翼でガードしたいところだが、その隙に突進して来るのは目に見えている。
爪で弾けなかった分が、身体へと向かってくる。
俺は右肩を前に突き出し、石礫を身体で受け止める。
それを合図にしたように、二体の赤蟻が同時に飛び込んでくる。
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