第128話

 続々と穴から湧き出してくる、無数の子ナメクジ。

 駄目だ。こんなの相手してたらキリがねぇ。

 子ナメクジを掻き分けながら進んで、穴の中に〖灼熱の息〗ぶっ放してやるしかねぇ。

 ステータス差あるから、纏わりつかれてもさしたダメージにはならんし、大丈夫だろう。


 問題は、あの大ナメクジがどの程度穴を掘ったか、だが。

 炎が届いたらいいけど、あんまし奥に潜られてたら穿り出すのに苦労するぞ。

 砂の壁が厚いせいか、上手く気配が拾えねぇんだよな。

 海水流し込むか?


 つーか繁殖能力高すぎんだろ。

 大ナメクジ、なんで一体しかいねぇんだ。

 この勢いで増えてったら、大ナメクジで砂漠が埋まりそうだぞ。

 食糧不足で自滅するから控えてんのかな。


 尻尾と翼で子ナメクジを弾きながら、大ナメクジのいる穴へと近づく。

 突如、〖気配感知〗が真下から反応を拾った。


 アイツ、俺に子ナメクジの大群嗾けて、隙を窺ってやがったな。

 だが残念だったな。

 〖気配感知〗がある以上、俺に不意打ちなんて通じるかっつうの。


 カッと地を蹴り、翼を使って高く跳ね上がる。

 上空でくるりと回転し、腕を下に伸ばして地中の気配へと向けて急降下する。

 俺の想定通り、大ナメクジが砂の中から頭を覗かせる。


 気配アリ、実体確認!

 もらった!

 へいへい、不意打ちのつもりだったんだろうが、万全の体勢で迎撃されて残念だったなぁ!


 今度こそ、確かに首許へと爪を突き立てる。

 落下の勢いを乗せ、頭を切り飛ばした。


 大ナメクジの頭の部分が宙を舞い、四散した。

 残った胴体も急に破裂を始め、その肉片を俺へと飛ばす。

 いや、これ、ただの肉片じゃねぇぞ。

 1ピース1ピースが、全部子ナメクジじゃねぇか!?


 やられた。

 これ、大ナメクジじゃねぇわ。

 子ナメクジの集合体に〖蜃気楼〗で幻覚掛けて、疑似分身体を作ってやがった。

 〖気配感知〗の裏を突いてきやがった。

 本体は、もっと地下深くに潜んでやがったんだな。


 襲いかかってきた子ナメクジが、俺の身体中に纏わりつく。

 うげぇ! めっちゃヌメヌメする!

 やめろ、やめろ、マジでやめろ! ごめんなさいやめてください!

 肉体ダメージなくても精神ダメージヤバいから!

 つーかこいつら、血吸おうとしてねぇか?

 鱗、頼むぞ。仕事してくれ。

 ナメクジに集られて血吸われるとか地獄過ぎる。


 爪で潰しててもキリがねぇわ。

 一旦〖転がる〗で全部弾き飛ばすか。

 いや、それはまだだ。


 こんだけ手の込んだことしといて、ただの嫌がらせってことはねぇだろう。

 チビじゃあ時間稼ぎにしかならないことは向こうさんもわかってるはずだ。

 となれば逃げる時間を稼いでるか、今度こそ俺の隙を作ったと踏んで襲いかかってくるかのどっちかだ。


 だったら今は、堪えるしかねぇ。

 地中に引っ込んでいる奴をおびき出すチャンスだ。

 例えどれだけ身体をヌメヌメにされようと、血を吸われようと、今は我慢だ。


 俺は身体を僅かに屈めて息を荒くし、必要以上に弱っているように見せかける。


 せいぜい今は味を噛みしめときやがれナメクジ共。

 ドラゴンの血吸うなんて滅多にできることじゃねぇからな。


 俺の尾の下から〖気配感知〗の反応があった。

 今度こそ大ナメクジだ。

 いいぞ、飛び込んできやがれ。

 その瞬間に仕留めてやんよ。


「シャァァァァァアッ!」


 大ナメクジの鳴き声と共に、俺の尾に何かが吸い付いてくる。

 うし、今だぁっ!


 俺は尻尾で大ナメクジを宙へと掬い上げ、地面から引き離す。

 そのまま手足を丸め、身体の浮いた大ナメクジへと〖転がる〗でタックルをぶち当てる。


「ジャァァァァアアアッ!!」


 俺は大ナメクジを撥ね飛ばし、引っ付いていた子ナメクジも散らしていく。

 仕留めきれてねぇのか。

 が、このままでは終わらせねぇ。

 俺は目を瞑り、〖気配感知〗だけを頼りに大ナメクジへと〖転がる〗タックルを繰り返す。

 浮上した大ナメクジが地に落ちるよりも先に追いかけ、的確にタックルを決める。


 地面につかせたらまた穴掘って逃げられちまうからな。

 そうはさせるかよ!

 三回目のお手玉タックルで、ついに大ナメクジが力尽きた。


【経験値を416得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を416得ました。】


 さすがCランクモンスター。

 がっつり経験値くれるじゃねぇか。


【〖厄病竜〗のLvが30から36へと上がりました。】


 お、ガッツリ上がったんじゃん。

 つっても、もうナメクジと闘うのはゴメンだけどな。


 最大Lvが75だから、ようやく折り返し地点ってところか。

 そろそろ善行積まなきゃ。

 玉兎先生からも回復魔法を伝授してもらわなければ。


【特性スキル〖気配感知〗のLvが3から4へと上がりました。】


 お、また上がったか。

 今回使い倒したからな。

 狩る側のときも逃げる側のときも大事だから、しっかりと上げていきてぇところだ。


 さて、まだ子ナメクジがいっぱいいるんだけど……玉兎に処分、手伝ってもらおうかな。

 すぐ終わるだろうし、ニーナにはちょっと離れたところで待っておいてもらったら大丈夫かな。


 改めて、オアシスへと目を向け直す。

 ぐにゃりと、目前の光景が歪みだす。

 あれ? なんだ、なにがあった。


 カラフルな花畑は目に見えて色を失っていき、澄んだ水もさぁっとドブ色へと変色していく。

 つうか、最初見たときよりも明らかに浅い。

 あっという間に華やかな楽園は姿を消し、浅いドブ沼と、そこから水を奪い合う地味で小汚い雑草だけが残る。

 そこに這い回る子ナメクジの残党が、一層とこの場を貧相に見せていた。


 ちょっと、ちょっとこれ、どういうこと。

 詐欺だろ、おい。

 スイマセン、話が違うんですが。

 返して! 俺のオアシス返して!

 ナメクジの体液塗れになりながら必死に手に入れた俺のオアシス返して!


【耐性スキル〖幻影耐性〗のLvが1から2へと上がりました。】


 遅いって!

 俺、いいように騙された後なんだけど!


 ちょっと、マジでなんでだよ!

 あのオアシス、幻覚かよ!

 いくらなんでも酷すぎんだろオイ! ただの浅いドブ沼だってわかってたら争ってまで手に入れようと思ってなかったよ俺!

 あの大ナメクジ、俺に何の恨みがあってこんなことしやがった!

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