第101話

 口の中で、先ほど倒したサソリの甲羅を噛み砕く。

 なんつーか乾燥した海老みたいな味がする。

 そんで硬くて苦い。


 あんまし美味しくはねぇな、これ。

 毒持ってたけど、帯毒のスキルLvもそこまで高くなかったし、ちっと痺れる程度だ。

 耐性も上がらなかった。もうちっと毒性強いもん喰っても大丈夫かもしれねぇな。



 サソリを無事完食し、甲殻の破片を地面の上に吐き出す。

 ご馳走様でした。


 味はあれだけど、一応腹は膨れたな。

 美味くはねぇけど珍しい味だっから貴重な体験だったと思おう。

 柔らかい部分だけ抽出してソースに使ったら意外とアリかもしれねぇ。

 毒耐性ないと喰えねぇけど、黒蜥蜴なら大喜びでがっつきそう。


 俺は玉兎を頭に乗せながら、砂漠を進む。


 なんか前みたいな洞穴的なのがあったら助かるんだが、辺りを見るにそういうのは期待できねぇな。

 まさか玉兎に俺が入れるサイズの巣を掘らせることなんかできねぇだろうし。


「ぺふっ」


 俺の頭上で、玉兎がもぞもぞと動く。

 めっちゃこそばゆい。


 とりあえず〖灯火〗とやらを見せてほしいんだけど、言葉が通じねぇからな。

 暗いところまで連れて行くのが先だ。

 真っ暗闇に入れば、本能的に使ってくれそうな気がする。


 しっかし、一度助けたとはいえ、信用するの早すぎねぇかこいつ。

 よく質量100倍以上ある相手に平然と乗っかれるな。

 チワワだってここまで懐っこくなかったぞ。



 慎重に歩き、砂漠を移動する。

 落としたりしたら、その場で死んじまいそうだからな。

 こいつHP5しかないからな。


 玉兎を進化させるにしても、何を倒せばいいんだろ。

 Fランク以外なら何倒してもLvアップさせられそうだけど、玉兎がトドメを刺せる相手に限定されっからな。


 さっきのサソリが一番丁度いいか?

 いや、でも……あいつ、俺がいたら多分地の中から出てこねぇよなぁ。

 玉兎を囮に使えばチャンスはあるかもしれねぇが、こうやって行動を共にした以上、そんな危険な手使うのも気が引けるし……。


 〖気配感知〗にはビンビンに引っ掛かってんだよな。

 ただなんつうか、薄っすらとしかわかんねぇっつうか。

 多分、地面の中埋まってんだろうな。ちっと炙り出してみっか。


 俺は身体を倒し、腹と顎を地に着ける。


「ぺふぅ?」


 間延びしたような、玉兎の声が俺の頭上から聞こえてくる。


 俺はすぅっと息を吸い、地面に向けて吠える。


「グゥルグゥオガァァァァァアアアアアッ!」


 音の振動が、地表を撫でて砂を飛ばす。


【通常スキル〖咆哮〗のLvが1から2へと上がりました。】


 俺の声にビビったのか、あっちからこっちからと、砂を破って多くのモンスターが飛び出してくる。

 人くらいでけぇ虫やら、犬くらいのサイズをしたモグラまで。

 三十体くらいはいるが、F~E+間のモンスターばかりだ。

 あの馬鹿デカイムカデが特別だっただけで、この砂漠も森とそこまで大差ねぇのかもしれねぇな。


 俺はその中でも一番近くから出てきていた、さっき喰ったのと同じ、サソリへと目をつける。

 余裕を持って追いかけ、サソリの尻尾先に爪を立てて動きを封じる。

 それから逆の手で〖痺れ毒爪〗を振い、掠らせることで甚振る。

 鋏を砕き、足を千切り、背中の甲殻を裂く。

 最初はのたうち回って暴れていたサソリだが、じょじょにその動きが弱々しくなっていく。

 すまんなサソリ。きっちり喰うから許してくれ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ベビースコーピオン

状態:麻痺(大)

Lv :6/22

HP :4/30

MP :8/15

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 うし、これだけ麻痺入ったら大丈夫だろ。

 こいつの持ってるスキルは〖毒牙〗と〖毒爪〗、〖毒鋏〗だ。

 鋏も歯も尻尾も砕いてるし、なんも反撃できそうにない。

 これで玉兎に攻撃させ、サソリのステータス見て麻痺が解けそうになったら中断させて玉兎を逃がせば、安全に経験値を稼がせることができるはずだ。


 俺は玉兎を手のひらに乗せ、ゆっくりと地に降ろす。

 玉兎はキョトンとしたように、俺とサソリを見比べる。

 状況が理解できていないらしい。


 早く戦ってくれねぇかな。


 俺が目で急かすと、恐る恐るといったふうに玉兎はサソリへと近づく。

 相変わらず、垂れた耳が地を擦っている。

 あれ大丈夫なのかな。血とか出ねぇのかな。


 玉兎が、サソリへとタックルする。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ベビースコーピオン

状態:麻痺(大)

Lv :6/22

HP :4/30

MP :8/15

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 うわ、1ダメージも入ってねぇ……。

 FランクのLv2とEランクのLv6じゃ、こんくらい差があるのは仕方ねぇか。


 玉兎は続けて体当たりする。

 いいぞ、頑張れ、その調子だ。


 更に再度体当たりする。

 いい当たりだ! 今の、いい当たりだったぞ!


 最後に、長い垂れた耳を鞭のように扱い、サソリへと乱撃を仕掛ける。

 こんなこともできんのか! すげぇ!

 お、俺が砕いた欠損部位に当たったぞ! サソリも今のは効いただろ、多分。


 玉兎はサソリに一通り攻撃を仕掛けてから、俺へと顔を上げる。

 散々動いた後で疲れたのか、しんどそうに息を吐きながら俺を見る。

 やるだけやったけど駄目でしたみたいな、そんな感じだった。


 サソリのHPは、1も減っていなかった。

 これ、このまま俺が倒しても、玉兎に経験値入らないんじゃねぇのか。


 もうちょっとだけ頑張ってみるよう目線で促す。

 玉兎は渋々といったふうに、またサソリへと向き直る。


「ぷへぇっ!」


 玉兎の前に、米粒サイズの小さな火の玉が現れる。

 火の玉はくるくると玉兎の周囲を回る。

 あれが〖灯火〗のスキルか。

 長時間使えるのなら、森で電球代わりにしていたヒカリダケのように使えるかもしれない。


 火の玉は玉兎の周囲を三周した後、サソリへと飛んでいく。

 ぱぁんと軽快な音と共に弾け、サソリの甲殻を一部焦がす。


 通った!

 サソリのHPが、1減少した。

 後四発撃ち込めば倒せるぞ……と思ったのだが、玉兎は、疲れたのかその場に蹲る。

 どうやら今の一発でMPを全部吐き出したらしい。Fランクだから、仕方ねぇか。


 麻痺が解け掛けてきたらしく、サソリが僅かに身体を動かす。

 俺はその頭部を、爪で破壊した。


【ランク差が開きすぎているため、経験値を得ることができませんでした。】


 俺に入らねぇのはわかってたからいいとして、玉兎に入ってくれればそれでいいんだがな。

 これであいつを進化まで持っていけりゃいいんだけど。

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