第90話

「そっちの蜥蜴ちゃん、舐めすぎちゃってたかな……」


 スライムは、怒気の籠った声で言う。

 俺は黒蜥蜴の許へと走りながら、スライムのステータスをチェックする。


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譁�カ:フォルテ・スライム

隱マ縺:毒α

N曚 :27/35

隆モ゜:144/148

玄d\ :24/67

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 うし、状態異常入ってる。

 HPの異常なほど速かった回復速度が、かなり遅くなっている。

 今なら連続攻撃で倒せるかもしれねぇ。


 後は黒蜥蜴に遠くまで逃げてもらって、そっから俺がトドメを刺してやる。


「ガァッ!」


 俺の声を聞き、黒蜥蜴が逃げようとする。


「逃がすかぁっ! 〖クレイ〗! 〖スロウ〗!」


 紫と黄、二つの光が黒蜥蜴へと飛ぶ。

 紫の光は遅いが、黄色の光は速い。

 さっき鎌の攻撃を受けたせいか、黒蜥蜴がふらつき、体勢を崩した。

 その隙に、黄色の光が黒蜥蜴へと追い付く。


 黄色の光はそのまま、黒蜥蜴の足許へと吸い込まれていく。

 カッと地面が光ったかと思えば、黒蜥蜴の足場の土が変形し、針の形になって盛り上がる。

 黒蜥蜴はそれに刺さりはしなかったものの、回避するために後ろに跳ね退いた。

 その背に、紫の光が当たる。


 あれは、散々俺がツボガメに苦しめられた、素早さ低下の魔法だ。

 スライムが、動きの遅くなった黒蜥蜴へと襲いかかる。


 俺はスライムと黒蜥蜴の間に滑り込み、爪でスライムの身体を肩から腹へ、斜めに切り付ける。

 スライムは俺の攻撃などお構いなしで、そのまま俺を無視して舌を伸ばし、黒蜥蜴の身体を締めつける。

 俺は伸びた舌を切断してやろうと爪を振るうが、その瞬間、スライムの口から放たれた黒い霧により、辺りがまた暗闇に包まれる。

 避けられたらしく、爪が宙を切る。


「グルガァァッ!」


 俺は勘や音を頼りに当てをつけ、辺りに爪を振るう。

 ブレスをかましてやりたいが、この闇の中で無暗に範囲攻撃を使えば、黒蜥蜴にトドメを刺すことに繋がりかねない。


 なんだ?

 向こうは、止まって気配を殺しているのか?

 黒霧のせいか、〖気配感知〗にも引っ掛からねぇ。


 俺も焦る気持ちを抑え、動きを止めて神経を研ぎ澄ます。

 黒い霧が薄まってきたことと合わさって、薄っすらとながらスライムのいる位置が掴めてきた。


「グゥルガァァッ!」


 俺はスライムの気配が濃いところへと飛び掛かり、鉤爪を突き立てる。

 当たったが、俺の爪は弾かれた。

 また〖亀の甲羅〗か?


 黒霧が晴れてきて、スライムの姿が見え始めてくる。

 スライムの輪郭はさっきと比べ角張っており、身体の緑の色も、わずかながらに澄んだ色へと変わっていた。

 スライムは、ぴくりとも動かない。

 どのスキルかはわからないが、移動を放棄し、防御力を引き上げる技か。


 黒い霧が完全に消え去る。

 硬質化したスライムの身体、下半身の蜘蛛の中央部に、黒蜥蜴が入り込んでいるのが目に見えた。

 ステータスを見ると、HPとMPが減少していくのが目に見える。

 〖ライフドレイン〗と、〖マナドレイン〗か!


「グゥルグァァァアッ!」


 俺は叫びながら、鉤爪をスライムの身体に打ち付ける。

 表面に傷がつきはするが、決定的なダメージは入らない。


 落ち着け俺、確かに防御力は上がっている。

 だが、硬質化している今の状態なら、変形して避けたり、ダメージを受け流して最小限に抑えるなどの芸当はできないはずだ。

 〖くるみ割り〗が一番強力な打撃技だが、あれだと黒蜥蜴にまでダメージが通りかねねぇ。


 俺は地を蹴って翼を広げて飛び、近くの木の上へと乗る。

 そこからしっかりスライムの首へと狙いを定め、木を蹴っ飛ばす。

 折れた木が、倒れる音が後ろからする。


 滑空し、その勢い、俺の全体重を爪に掛ける。

 スライムの首に引っ掛けた瞬間、俺の爪が音を立てて割れる。

 そのまま俺はスライムの真横を通り抜け、着地する。


 割れた俺の爪が、地面に深々と刺さっていた。

 そして俺が強引に砕いて弾き飛ばしたスライムの頭部が、その横に転がった。


 残されたスライムの首から下の硬質化が解け、どろりと形を失くしていく。


 俺は素早く引き返し、スライムの身体の中に手を突っ込み、黒蜥蜴をスライムの中から取り出す。


 無事助け出したと思った瞬間、スライムの一部が幾多もの針に変形し、俺に向けて伸びてきた。

 数カ所刺されたものの、黒蜥蜴を抱えたまま宙に飛び、また木の上へと逃げ切ることに成功する。


 あいつ、攻撃力低い癖に、鱗貫通してきやがるんだよな。

 〖鎧破り〗のスキルか。

 ほんっとうに厄介な奴だ。


「キ……キシィ……」


 黒蜥蜴が弱々しく鳴く。

 黒蜥蜴のステータスを確認すると、HPがもうほとんどない。


 俺は遠くに目をやり、「ガァッ」と小さく鳴く。

 黒蜥蜴は悔し気に顔を背けるが、これ以上は足手纏いになるだけだと判断したらしく、身体を丸めて〖転がる〗を使ってスライムから反対側へと飛び降り、そのまま遠くまで駆け抜けて行った。


 スライムがまた変形する。

 伸びた針が引っ込んで行き、狼の身体から人間の上半身が生え、ケンタウロスのような姿になった。

 人間の身体は先ほど同様の中性的な容姿のものだが、その額には第三の目が瞬きをしている。

 恐らく三つ目の狼、マハーウルフを模した姿なのだろう。


「いや、危ない。ちょっとだけ驚かされたよ。知らない特性スキルを相手取るときは、もっと注意すべきだったね。あそこまで危険な能力だとは思わなかった。僕にはもう、通らないけどさ」


 俺を見上げていた目を閉じ、首を小さく左右に揺らし、余裕の様子。

 それに嫌な予感を覚え、俺はステータスを見る。


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譁�カ:フォルテ・スライム

隱マ縺:通*

N曚 :27/35

隆モ゜:148/148

玄d\ :67/67

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 毒が、回復してやがる!?


 俺は思わず、黒蜥蜴を逃がした方向へと目をやる。

 このままじゃ、スライムを突破するのは無理だ。

 場合によっては、あいつを再び呼び戻す必要があるかもしれねぇ。


「おいおい、もっとしっかり見た方がいいんじゃないの? 情報は命だよ?」


 言われた通りにするのも癪だったが、確かめない理由にはならない。

 まさか、とは思ったが、あり得ないことではない。

 俺は、スライムのスキルを確認する。


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*****:

〖変*:Lv--〗〖スキル*イク:Lv--〗〖噛*つく:Lv--〗

〖衝*波:Lv--〗〖*炎斬:Lv--〗〖恫喝:Lv--〗

〖蜘**糸:Lv--〗〖*痺舌:Lv--〗〖毒毒:Lv--〗

〖硬化:Lv--〗〖受け流*:Lv--〗〖地獄鋏:Lv--〗

〖ス*ータ**覧:Lv--〗〖殻に**:Lv--〗〖ア**ンタックル:Lv--〗

〖スロウ:Lv--〗〖レスト:Lv--〗〖ライフド*イン:Lv--〗

〖膨張:Lv--〗〖自*再生:Lv--〗〖マナ*レ*ン:Lv--〗

〖転*る:Lv--〗〖黒霧:Lv--〗〖宝石の檻:Lv--〗

〖死の針:Lv--〗〖水*砲:Lv--〗〖鎧破り:Lv--〗

〖解毒:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 一番下に一つ、スライムのスキルが増えていた。

 間違いなく、黒蜥蜴のものだったはずのスキルだ。

 さっき黒蜥蜴を捕まえたときにスキルを奪って、自分で解毒しやがったのか。


 もう、特殊毒さえもこのスライムには効かねぇっていうのかよ。

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