第88話
「言葉がわかるんだろう? 退いてくれないかな? 大人しく道を開けてくれさえすれば、もう、そっちに何かをする気はないんだけど」
スライムが面倒臭そうに言う。
俺に興味はないと、そういわんがばかりの態度だった。
「君も、僕の中身を見られるんだから、大方わかっているだろう? 僕はね、安全にスキルさえ集められればそれでいいんだ。あの岩竜と、死んだ村人のスキルを回収しに行きたい。それだけだよ」
口振りからしても、やっぱし村に小岩竜を嗾けたのはこいつらしい。
いや、ひょっとしたらマハーウルフにミリアを襲わせ、俺を村に誘導したのだって、こいつの仕業かもしれない。
ミリアの叫び声が聞こえてから俺が到着するまで、そこそこの時間があった。
俺も間に合ったのが奇跡だと思っていたが、ひょっとしてあれは、俺が来るのを待っていたのか?
あれだけのスキルがあれば村を襲うくらい容易いと思うが、冒険者の討伐対象にされることを恐れているのだろうか。
「ねぇ、下手に戦っても、お互いいいことないと思うけど、見逃してくれないかなぁ」
確かに俺にはメリットなんかない。
ないが、今から村に行って死体を弄びますね、なんてほざいてる奴を見逃す気はねぇ。
村人に危害を加えねぇって保証はねぇし、人里に平然とリトルロックドラゴンを誘導しやがったこいつを許すつもりはない。
あの村を守ると、グレゴリーともそう約束した。
「グゥルガァッ!」
俺は吠え、スライムの和解案を蹴る。
次にスライムがまた口を開こうとするが、それよりも先に〖ベビーブレス〗から変化した〖灼熱の息〗をスライム目掛けて吐く。
豪炎が、スライムの身体を包む。
こいつ、ダメージを受け流したり変形で回避する能力はあるけど、範囲攻撃には対処しきれねぇみたいだな。
耐性スキルと回復スキルがあるからトドメは刺しきれねぇだろうが、足止めにはなる。
俺は自分の吐いた炎の後を追い、炎の中にいるスライムに飛び掛かる。
スライムの身体に深く爪を喰い込ませ、抱えるようにして宙に飛ぶ。
〖痺れ毒爪〗を使ったから、こんだけ刺したら多少耐性があってもちっとは動きが止まってくれるはずだ。
俺はスライムを抱えたまま、〖飛行〗で崖の方まで移動する。
多少しぶとくとも、崖の真下に叩き込んでやればさすがに死ぬだろう。
万が一生き延びても、崖底の川に流されてここまで戻ってこれなくなるはずだ。
崖の上まで飛んでから〖転がる〗で素早く回転する。
投げるとき、スライムに手にくっ付かれたら敵わない。
散々使って慣れている俺ならともかく、常人なら止まってからしばらくはまともに動けなくなるはずだ。
俺は〖転がる〗を止めてスライムを刺した両手を高く振り上げ、崖真下へとブン投げる。
【通常スキル〖星落とし〗のLvが1から2へと上がりました。】
スライムはまるで崖底に吸い込まれるように、一直線に真下へと落ちていく。
俺は翼を羽ばたかせて引き返し、崖淵に着地する。
「キシィッ!」
黒蜥蜴が俺を追い掛けてくる。
俺を見て安心そうに一息吐き、その後警戒気に左右を見回す。
あのスライムならもう倒した……と言いたいところだが、経験値表示が来ない。
あいつ、あの距離から落とされても平気なのかよ。
だったらもう、本当に黒蜥蜴の特殊毒頼みになるぞ。
他に何も手段が浮かばねぇ。
カツ、カツ、と崖側から音が鳴った。
俺と黒蜥蜴はその音に反応し、ほぼ同時にびくりと身体を震わせた。
崖に向かって一歩退いて固まるが、姿を見せたのは巨大な蜘蛛だった。
以前俺が見たことのあるタラン・ルージュとは違う。また別種だ。
「キシィ……」
出てきたのがスライムでなく安堵したのか、黒蜥蜴が小さく鳴き声を漏らす。
俺もそれにつられて安心しかけたが、すぐに気持ちを持ち直す。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
譁�カ:フォルテ・スライム
隱マ縺:通*
N曚 :27/35
隆モ゜:148/148
玄d\ :67/67
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
違う!
こいつ、蜘蛛じゃねぇぞ、スライムだ!
崖下ど真ん中にぶち込んでやったのに、あっさりと這い上がってきやがった!
黒蜥蜴も俺の様子を見て勘付いたらしく、すぐさま〖クレイガン〗で石礫を蜘蛛型スライムへと撃ちこんでくれた。
蜘蛛型スライムはくちゃくちゃと口を鳴らしたかと思えば、網状の糸を吐き出して石礫を撃ち落とす。
ひとつだけ網目をすり抜けた石礫が蜘蛛型スライムの身体を掠める。
血は出ず、緑のスライムの破片が飛び散った。
そういえばこいつ、糸云々のスキルを持っていやがったな。
落ちる途中に壁に糸を吐き出すことで、底に落ちることなく這い上がってくることができたのか。
ほんっとに何でもありかよ。
蜘蛛の身体から色素が抜け落ちて行き、黒から緑の半透明へと変わる。
それから上体も変形し、人の形を作っていく。
蜘蛛の身体に、先ほどの中性的な容姿の人間がくっつく形になった。
「鬱陶しいなぁ。僕は、あれこれ考えてたことを邪魔されるのが、一番嫌いなんだよ」
スライムが腕を伸ばすと、指が溶けて手に呑まれていき、腕の太さが増していく。
スライムの両腕の先端が尖って鋭利になり、蟷螂の鎌のような形へと変わる。
下半身は蜘蛛、上半身は人間、両腕は鎌、身体はスライム。
混ぜりゃいいってもんじゃねえぞこの化け物が。
スライムは手の大鎌を振り回し、その空を切る音を聞いて満足そうに目を細める。
それから大鎌を打ち付け、地表を抉り飛ばす。
「そろそろ退いてくれなきゃ、弱い方から狙っちゃおうかな。僕、あんまり性格よくないらしいからさぁ」
スライムはぺろりと舌舐めずりし、黒蜥蜴を睨む。
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