第65話
猩々は意外と役に立つ。
いつの間にか四体揃って外に出ていて、適当な魔獣を狩って戻ってきてくれた。
大猩々も普段の狩りにはあんまり付き添ってないみたいだったしな。
「アー!」
猩々は軽く頭を下げ、俺の目前に今日の収穫を置く。
グレーウルフや大兎、木の実なんかがいっぱいある。
なんだよこいつら超優秀じゃねぇか。
「アー、アオ」
木の実の詳細を調べていると、猩々の一体が嬉しそうにすっと手を伸ばしてくる。
手でも握ってほしいのかと一瞬思ったが、視線が洞穴の外へと向いていた。
ああ、干し肉か。
こいつらどれだけあれ好きなんだよ。
「ガァッ」
許可を出すと、四体の猩々が我先にと駆け出して行った。
なんか不安になってきたぞ。
あいつら、喰い尽くしたりしないよな?
獲った分より多く喰ってたら追い出すぞ。
俺は猩々の獲ってきた肉を爪で解体し、廃棄用の大壺に内臓やら骨を入れていく。
最近すっかり慣れてきた感がある。
干し肉用の壺に塩とピペリスを足し、中に肉をぶち込んで揉み込む。
「アア?」
一体の猩々が干し肉を手に持ちながら近づいてきた。
左手に二枚、右手に一枚。
右手の干し肉に喰らいつき、くっちゃくっちゃと音を立てて咀嚼する。
まぁ……三枚くらいなら許す。
俺が何をやっているのか、興味を持ったらしい。
これを機に干し肉作りを叩き込んでおくか。
雑用はじゃんじゃん猩々に叩き込んで行こう。
俺は身振り手振りで説明し、肉に塩を揉み込んで干す作業であることを猩々に伝える。
塩とピペリスの壺を教え、手順を説明する。
一通り理解したのを確認した後、実際に目の前で肉を切り、壺に塩とピペリスを足し、肉を入れて揉み込む工程をやってみせる。
それから俺は肉から離れ、手で指示を出す。
「アオ」
猩々が早速干し肉作りに取り掛かり始める。
壺の扱いが雑だったので、ブレスを吐く振りをしたら改めるようになった。
うむ、この方法で今後猩々を教育していくことにしよう。
壺が生肉と胡椒でいっぱいになったら、洞穴の隅へと置く。
吊るす前に、少し寝かせておく必要がある。
うし、これで干し肉の作り方の前半は教え込んだ。
とはいっても、後半は塩払って吊るすだけだけどな。
その部分を教え込んだら干し肉作りは押し付けられるか。
……あれ、狩りも干し肉作りも任せちまったら、俺やることなくね。
なんだ? 〖猿笛〗聞いたときに駆けつけるくらいか?
いや、楽なのはいいんだけどさ。
ボスって案外暇なもんなんだな。
なんもしなくとも食材が手に入って、ほっといたら料理もできあがるのか。
ま、HPを持て余したら黒蜥蜴と一緒にレベリング重視の狩りにでも行くとするか。
俺のサバイバル生活も随分と安定したものだな。
とりあえず今日はHPも万全ではないし、久し振りにクレイベアの魔土を使って壺でも作っとくかな。
一気に住人が四体も増えたんだから、食糧も多く保存しておく必要がある。
そのためにはまず壺の数を増やさねばならん。
俺が外に魔土を運び出して必死に捏ねていると、また一体の猩々が近づいてきた。
手にしている干し肉は一枚だが、身体の毛に干し肉の破片が絡まっている。
こいつ、結構がっつり喰ってたんじゃねぇだろうな。
ま、いいか。
干し肉作りも楽になったことだし、ちょっと多目に喰われたくらい許そう。
それよりも、こいつが陶芸に興味を持った、ということの方が重要だ。
猩々には特性スキル〖器用〗があり、おまけに細く長い指を持つ。
鱗に覆われゴワゴワした手の俺よりも、よっぽど芸術方面の才能があるに違いねぇ。
悔しいが、俺の手では陶芸界の頂上に届かない。
未練はあるが、俺の夢を猩々に託すとしよう。
俺は猩々の前でクレイベアの魔土と普通の土を混ぜて捏ね、壺の形を捏ねる。
形が整ったら洞穴から炭を取ってきて、壺の周囲を覆って〖ベビーブレス〗でしばらく加熱する。
壺が白く変色したところで砂を掛けて熱を冷まし、炭の中から出来上がった壺を出す。
制作工程を一通り見せたところで、猩々にもやってみるように促す。
なかなか形を作るのが上手く行かないようだった。
ポイントポイントをアドバイスはしたが、それでもあまり見栄えがよろしくない。
とりあえず今回は工程を覚えるところに意味があるため、汚い形で妥協させる。
中に物は入れられるし、安定性もあるから使う分には問題ない。
「アオ……」
俺の作った壺と見比べながら、猩々は目から涙を零す。
おいおい、泣くなって。
俺だって寝る間も惜しんで練習したんだぞ。
最初の内はそんなもんさ。
お前の手と〖器用〗の特性スキルがあれば、俺なんかすぐに超えられるって。
猩々に洞穴から炭を持ってこさせ、それに壺を埋めさせる
俺が〖ベビーブレス〗で熱する。
猩々は砂を掛けて火を消し、冷めた頃に炭を掻き分けて壺を取り出す。
二体で各々の壺を持ち、川まで移動した。
到着したところで妙な視線を感じ、モンスターかと思い振り返る。
木の端から頭を覗かせている黒蜥蜴が、恨めしそうな目で猩々を睨んでいる。
俺が振り返ったのに気が付くと、さっと草むらに消えて行った。
どうしたんだあいつ?
いや、ひょっとしたら同種族の別蜥蜴……は、ねぇな。
身体の大きさが完全に同じだし。
あれだけ一緒にいたんだから、さすがに見分けが付く自信はある。
まぁ、今はとにかく壺を洗うか。
川の流れで、壺に付着している砂や煤を落とす。
俺の様子を見て、猩々も同様に壺を川につける。
猩々が作った壺の形状こそ歪だが、焼き終えて汚れを落とせば、色は綺麗なので案外まともに見える。
それが嬉しかったようで、猩々は完成した壺をペタペタと触り、頬擦りし、その側面を撫でている。
よし、こいつは俺の代わりに陶芸道を極めさせよう。
こいつはきっといい陶芸家になれる。
洞穴前に戻ったら、壺を数作らせて慣れさせよう。
とりあえずこれで料理担当猩と、陶芸担当猩が決まった。
こうなってくれば、他の二人にも何か担当を持たせたいところだ。
洞穴内を近々増築させようと思ってたし、残りの二人にはそれを手伝わせるか。
あ、後、絵描かせるとかもいいかもしれん。
壁画とかあったらカッチョいいし、俺が笑ってるドラゴンの顔描いた看板でも持ち歩いてたら人間も襲ってこないかもしれねぇ。
洞穴前まで戻る。
壺作るついでに、今日中に洞穴増築用の煉瓦も作っとくか。
クレイベアの魔土の塊に手を触れると、その反対側で黒蜥蜴が必死に前足でクレイベアの魔土と普通の土を混ぜている姿が見えた。
何やってんだ? 遊んでるのか?
二足歩行が主な俺と違い、黒蜥蜴はあくまでも前足だ。
何かが作れるとも思えんが……。
「ガァ……」
声を掛けると黒蜥蜴は飛び上がり、捏ねていた土を置いて森の方へとさっと走って行った。
なんだ?
あいつも陶芸に興味があったのか?
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