第66話

「キシッ! キシーッ! キシィーッ!!」


 黒蜥蜴の鳴き声で目が覚めた。

 もう朝か。

 にしても黒蜥蜴が妙に興奮してるな。

 ひょっとして洞穴内に魔物でも入り込んでいるのか?


 俺は起き上がろうとするが、重くて動けなかった。


 つうか、なんか暑苦しい。

 獣臭い。


 …………おん?


 俺の身体の周囲にくっつき、猩々四体が雑魚寝していた。

 こいつら、もっとバラけろよ……つーか黒蜥蜴にしても猩々にしても、なんで俺の周りに集まってくるんだよ。


 四体ともまだ起きる気配なく、鼾を掻いている。

 さっさと起きろ。

 身体に纏わりつかれてて動くことすらままならん。


「ァ……ァ、ォ……」「ァォ…………」


 ああ、これ起きねぇな。

 諦めてもう一眠りすっか。


「キシィッ!」


 俺が瞼を再度閉じたところで、黒蜥蜴が一体の猩々に噛みついた。


「アォッ!?」


 一体が飛び起き、連鎖するように全員が起きる。

 うわ、猩々のステータスに〖毒α〗入ってんじゃん……がっつりやりやがった。



 渋る黒蜥蜴を説得し、なんとか猩々の〖解毒〗を行わせる。

 やっぱり黒蜥蜴はあまり猩々をよく思っていないらしい。

 なんとか改善したい問題だが、突破口は見えない。


 今更猩々共を追い出すわけにもいかんしなぁ……。

 あいつを陶芸王にすると約束しちまったわけだし。



 早朝、料理担当の猩々と共に塩に漬け込んで寝かせておいた生肉を壺から出す。

 ある程度塩を叩き落とし、二体で外まで運び、葉のない木にぶっ刺して吊るす。


 肉で埋まって枝が足りなかったので、隣の木も〖ベビーブレス〗でハゲの木に変える。

 葉っぱの燃えカスを散らし、小さな枝を取り除き、猩々と協力して肉をぶっ刺しておく。

 食糧の問題はしばらく大丈夫そうだな。



 陶芸担当の猩々は、何も言わずに黙々と外で壺を捏ねていた。

 うむ、その意気込みだ。

 俺を超える日を楽しみにしているぞ。


 さて洞穴内の増築に当たろうとしたのだが、掘る手段がねぇ。

 爪で土の壁弄ってられねぇし、下手な衝撃加えたら崩れる可能性もあるし、道具が必要だな。


 スコップも何もないが、なければ作るまでだ。

 俺は必死に壺を捏ねている陶芸担当の猩々の横に並び、魔土でスコップを作る。

 本当は鉄とかのがいいんだろうが、簡単に見つかるとも加工できるとも思えねぇ。


 未だに壺や壁には傷ひとつ入ってねぇし、多分スコップとして使ってもそうそう壊れやしねぇだろう。

 先を薄く尖らせとけば、スコップとして機能するはずだ。

 陶芸担当の猩々も壺が上手く行っていないようで、気分転換を兼ねて手伝ってくれた。


 スコップ五本と、ついでにハンマーを一本作ってみた。

 獣娘にぶん殴られたのが記憶に鮮明に残っていたので、あれを思い返しながら作った。

 木炭に埋め、〖ベビーブレス〗で加熱する。


 ……そろそろ木炭もなくなってきたな。

 また作らねぇと。



 スコップ等が完成してから洞穴内の絨毯を一旦剥がして外に出し、壁の煉瓦を一部分外した。

 壁を加減しながらハンマーで叩いて罅を入れ、猩々四体と共に協力してスコップで掘り進めていく。


 なんか……妙に掘り辛いぞ。

 

 作業が進むにつれ、俺だけどんどん猩々達のスピードから引き離されていく。

 やっぱり俺の手は、道具を使い熟すのには向いていないようだ。

 道具は霊長類の得意分野か。


 疲労ばかりが溜まって効率が悪いので、俺は土を外に運び出す係に徹することにした。



 黒蜥蜴は不貞腐れたように洞穴の隅で身体を丸めて眠っていた。

 いや、たまに薄目開けてるから寝てはいねぇな。


 すまんな黒蜥蜴。

 この増築が終わったら、また狩りに行こうぜ。

 森の中でインクに使えそうなものを探したいし。



 洞穴内部の拡張が終わる。

 ついでに端の天井を掘って、上に貫通させるよう指示を出す。

 使っていない壺をひっくり返して重ね、それを足場にして猩々達は掘り進めていく。

 やがて、頭上から光が差し込んでくる。


 うむうむ、いい感じだ。

 これで煉瓦で調理用暖炉と煙突を作れば、洞穴の中で遠慮なく肉が焼ける。

 それになんか見栄え的にカッコイイ。


 すぐさま掘った分に煉瓦を当て嵌めて行き、魔土を隙間に流し込んで〖ベビーブレス〗で固めていく。

 グレーウルフの毛皮も余っていたので、絨毯には問題ない。


 煉瓦を積み立てて煙突と暖炉を作って、洞穴の拡張は終了した。


 さすが猩々、人間の手とモンスターの身体能力はえぐいな。

 技術さえ揃えばプロの大工でも敵わねぇだろ。

 この調子でどんどん技術を高めていってもらいたい。



 作業が終わったのを知ると、さすがに疲れたらしく、三体の猩々はその場で胡坐を掻いて汗を拭っていた。

 お疲れお疲れ。

 結局力仕事は全部投げちまったからな。

 好きなだけ干し肉喰っていいぞ。

 今となっては加工するのは料理担当の仕事だから、俺が許可を出すのもなんだが。


 陶芸担当の猩々だけ、作業が終わったのを悟るとすぐに洞穴を出て行った。

 干し肉を取りに行ったのかと思いきや、また黙々と壺を作り始めていた。

 あいつ、ちょっと職人気質過ぎるだろ。

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