第47話
黒蜥蜴の放った毒煙が視界を覆う。
全身が炙られるような熱を持ち、吐き気が込み上げてくる。
だがそれは、ツインヘッドとて同じこと。
〖噛みつき〗の弱まった左の頭をぶん殴って外させ、大きく後方に飛んで毒煙から逃れる。
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種族:厄病子竜
状態:毒α(小)
Lv :33/40
HP :69/149
MP :135/143
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状態異常、〖毒α(小)〗か。
牙じゃなくて広範囲目的の煙じゃあこんなもんか。
後は隙を見てなんとか黒蜥蜴に毒を治してもらい、ツインヘッドがまともに動けなくなるまで粘らなくてはならない。
まだまだ勝ったとは言い難い。
左腕を持ち上げてみようとしたが、震えるばかりで上がらなかった。
喰い込まされていた牙が深すぎる。
おまけに傷口から体内にいくらか毒煙が入り込んだようだ。
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種族:ツインヘッド
状態:憤怒・脅え・毒α
Lv :39/45
HP :113/155
MP :190/221
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あれ、〖(小)〗の表記がないな。
俺は〖毒耐性〗があるから軽減されたのか。
ダメージは与えたけど……コイツ、回復魔法〖レスト〗持ちだったな。
ステでは全負けしてるし、あんまり能動的に攻めづらいんだよな。
「クゥオーンッ!」
右の頭が鳴き声を上げる。
俺が殴って潰してやった顔面が、みるみるうちに回復していく。
この隙を突いて一気にぶん殴って仕留めたいところだが、左の頭がしっかりこっちを睨んで牽制している。
表情の印象通り、左の頭が攻撃係で、右の頭が魔法係って感じだな。
〖グラビティ〗を使って来たのも右の頭だ。
とりあえず片割れの動きが止まっていることには違いないし、放置っつうのは勿体なさ過ぎる。
ダメージを稼いでおこうと思い、〖ベビーブレス〗をツインヘッドへと放つ。
左の頭がすぅっと息を吸い込み、豪炎を口から吐き出してきた。
〖ベビーブレス〗はあっさりと勢いに掻き消され、ばかりか炎が俺の身体に襲いかかってくる。
コイツ、ちょっと万能過ぎんだろ!
俺は翼を広げながら後方に跳び、距離を取る。
「バオウッ!」
俺を追撃しようとツインヘッドが間合いを詰めてくる。
その身体を狙い、〖クレイガン〗がまた草むらから飛んでくる。
ツインヘッドは速度を上げるも避けきれず、後ろ足に石礫を受けてバランスを失い、転びそうになってその場で一度止まる。
ナイス黒蜥蜴、ファインプレー。
ツインヘッドは〖嗅覚〗の特性スキルで匂いで大まかには黒蜥蜴の位置を掴めているはずだが、アイツがかなりすばしっこいので正確な位置を絞るのに苦労しているようだ。
加えて〖クレイガン〗の出始めが見えないので軌道を予想できないというのも大きいだろう。
俺が逃げ回り、ひたすら黒蜥蜴に陰から攻撃してもらう作戦は結構ありかもしれない。
ツインヘッドの合計の四つの目が俺を睨む。
向こうもようやく焦り始めてきたように見える。
激しく動いたため、毒の回りが速くなったのかもしれない。
「ヴォーン!」
右の頭が吠えながら大口を開く。
口内へと黒い光が集まっていく。
なんだあれは。
俺はアイツの所持スキルを再び確認する。
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〖レスト:Lv4〗〖グラビティ:Lv2〗〖グラビドン:Lv3〗
〖噛みつき:Lv3〗〖ビーストタックル:Lv4〗〖灼熱の息:Lv3〗
〖マーキング:Lv3〗〖道連れ:Lv--〗
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消去法的に考え、〖グラビドン〗とやらだろうか。
タメが長いところから見て、〖グラビティ〗以上に厄介な魔法であることが予測できた。
本来ならこんな戦闘真っ只中にあんな悠長な溜め技を使っても的にしかならないのだろうが、ツインヘッドは頭が二つある。
魔力を溜めながらもしっかりと周囲を確認し、攻撃に備えることができる。〖灼熱の息〗で迎撃することだってできるということか。
しかし周囲の把握能力も、常時なら倍のアドバンテージを捨てていることには変わりない。
右頭が動かず、注意力が減少して〖グラビティ〗が使えない今が好機だ。
この隙に決定的なダメージを与えない手はない。
ピンチではあるが、同時にチャンスだ。
「ガアッ!」
とりあえず俺は〖ベビーブレス〗を放つ。
これでさっき通り〖灼熱の息〗で応戦してくれれば、二つの頭が固定される。
その隙を黒蜥蜴に突いてもらえばいい。
ツインヘッドの左の頭の口許がぴくりと反応したが、結局普通に跳んで回避された。
さすがに釣られちゃくれないか。
俺はツインヘッドの右側から回り込み、接近する。
ツインヘッドは左の頭で対応すべく、身体の向きをこちらに回す。
俺は耐性あるからマシだけど、あの毒くらってよくもここまで動けるなコイツ。
やっぱ俺がくらったときみたいに、〖毒牙〗で直接体内にぶち込まれないとそこまで行動に影響は出ないのか。
「キシィッ!」
再び黒蜥蜴が草むらから姿を現し、ツインヘッドを挟み撃ちにする。
やっぱ二対一で頭ひとつ使えなくするのは悪手だったなこのブルドック野郎が。
黒蜥蜴は口いっぱいに溜めていた毒を、霧状にしてツインヘッドに吹き付ける。
二発目の〖毒毒〗だ。
「グォウッ!」「ッ!」
右の頭は声を上げない。
恐らく、下手に口を動かすと〖グラビドン〗の溜めが解除されるのだろう。
俺は毒の煙の中に突撃し、一秒でも早く煙から逃れようと慌てているツインヘッドの胴体を〖ドラゴンパンチ〗でぶん殴る。
俺に続いて煙の中に飛び込んできた黒蜥蜴が、さっと飛び上がる姿が見えた。
「ヒキャインッ!」
ツインヘッドの右の頭が鳴き叫び、その口許で黒い光が弾けるのが見えた。
すっと煙が引いていき、ツインヘッドの姿が視認できるようになる。
ツインヘッドは両頭とも息を荒げて舌を垂らし、されど剣呑な目で俺と黒蜥蜴を凝視する。
どこか人間味のある怒り顔と脅え顔だったのが、今ではどちらも等しく手負いの獣の目だ。
毒のせいか、目が真っ赤に充血しているのもその印象を手伝った。
右の頭は〖グラビドン〗のキャンセルのせいか、牙がボロボロになっていて口周りも剥げて血に濡れている。
おまけに片目瞼に大きな引っ掻き傷ができており、固く閉ざされている。
恐らく黒蜥蜴に毒煙の中でもらった一撃だろう。
あれは絶対痛いわ。
ついにまともに傷口に擦り込まれる形で毒くらいやがったな。
俺だって黒蜥蜴と闘ったときは、肩ごとすぐに縛らなかったら身体中に毒が回って死ぬところだったからな。
あの毒を抑えるためには、首をキツく絞めるしかねぇぞ。
もっとも、それをすると息の根も止まるだろうが。
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