第46話
「クゥ~ン、クゥン、クゥ~ン!」
「バウッバウバウッ!」
右の頭が逃げたそうにしていて、左の頭はそれに喝を入れているようだった。
なんだこの独り芝居みたいな魔獣は。
とりあえず後ろに退いて間合いから外れ、ステータスをチェックする。
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種族:ツインヘッド
状態:憤怒・脅え
Lv :39/45
HP :155/155
MP :210/221
攻撃力:135
防御力:94
魔法力:135
素早さ:138
ランク:D+
特性スキル:
〖嗅覚:Lv4〗〖酸性の涎:Lv5〗〖忍び足:Lv4〗
〖双頭:Lv--〗〖精神分裂:Lv--〗
耐性スキル:
〖混乱耐性:Lv3〗〖飢餓耐性:Lv5〗
通常スキル:
〖レスト:Lv4〗〖グラビティ:Lv2〗〖グラビドン:Lv3〗
〖噛みつき:Lv3〗〖ビーストタックル:Lv4〗〖灼熱の息:Lv3〗
〖マーキング:Lv3〗〖道連れ:Lv--〗
称号スキル:
〖役割分担:Lv5〗〖重力使い:Lv3〗〖執念:Lv5〗
〖インファイター:Lv3〗〖大喰らい:Lv4〗〖チェイサー:Lv2〗
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怒り顔と泣き顔が並んでいる様がユーモラスな魔獣だが、ステータスが割りかしえげつねぇ。
下手に遠出なんかしてみるもんじゃねぇな。
リトルロックドラゴンばりに危ない奴が出てきたって不思議じゃない。
最近振り切れる程度のモンスターばっかりだったし、低Lv帯を脱したこともあって少し気が緩んでいたのかもしれない。
遠目からステータス確認して勝てそうになかったら逃走、そんな戦法がまかり通るのはこっちが先に向こうを発見できたときだけだ。
獲物を察知して先に見つけるスキル、気配を消して確実に先制を取るスキル、獲物を逃がさないためのスピード。
この三つがある相手には通じねぇし、そもそもこの三つは自然界を捕食者として生きていくには基本なんだよな。
グレーウルフはそれを数と度胸で補ってて、俺はそんなグレーウルフを喰いものにすることで食には困ってねぇわけだけど。
おまけに〖執念〗の称号スキル、あれには見覚えがある。
確か、大蜘蛛タラン・ルージュが持っていた。
奴にどれだけ追いかけ回されたことか。
逃げるにしても、簡単に逃げ切れそうな相手ではないな。
〖マーキング〗とか確実に追跡用のスキルだろアレ。
俺だけなら〖転がる〗で逃げられるかもしれんが、黒蜥蜴の〖転がる〗は複雑な森の中ではタイムロスが大きい。
〖嗅覚〗もあるから、最悪洞穴まで追って来かねない。
ここは素直に戦って、次からはこの辺りまで来ないようにしよう。
あっちへこっちへと変わった植物に釣られて森の奥まで来てしまったが、この辺りはかなり危険なようだ。
まだ勝てる見込みのあるモンスターであっただけありがたいのかもしれない。
好戦的で素早いCランクドラゴンとかだったら出会っただけで詰むからな。
この難を凌いだら、今後どう動くかしっかり考えた方がよさそうだ。
ツインヘッドのステータスは全体的に馬鹿高い上、スキルもロクでもなさそうなものが揃っている。
スキルは目新しいものが多いため名称からだけの大雑把な判断だが、中距離に接近、回復とキッチリバランスが取れている。
ちらりと黒蜥蜴を見る。
ほとんど同時に黒蜥蜴も俺へと顔を向けていた。
「ガァッ」「キシッ」
声の調子から、黒蜥蜴も俺と同意見だと判断する。
両者無事で逃げ切るのは難しい。
だったら、二体掛かりでぶっ倒すまでだ。
黒蜥蜴が〖転がる〗でツインヘッドの真横を一直線に駆け抜け、草むらへと飛び込んで行く。
黒蜥蜴の最高速度だ。
複雑な地形なら制御しきれずまともに走れないだろうが、短い距離を真っ直ぐ進むだけなら問題はない。
唐突だったこともあり、ツインヘッドは黒蜥蜴を見失ってからようやくその軌道を目で追う。
黒蜥蜴は逃げたわけではない。
一旦隠れ、そこから攻撃の機会を窺うためだろう。
黒蜥蜴の毒さえ決めれば、後は勝負を引き伸ばすだけで勝てるのだから。
そしてそのための隙を作るのは、俺の役目だ。
左の頭は、黒蜥蜴の消えて行った草むらを睨んでいる。
こっちを見ているのは、あの頼りなさげな面をしている方だけだ。
あの魔獣の性質はわからないが、今が恐らく好機だろう。
俺はツインヘッドへと殴り掛かる。
接近戦でガンガン攻めて、アイツらの隙を引き出す。
「フワウッ!」
右の頭が口を開いて吠えると、ツインヘッドを中心に黒い光が広がる。
範囲が広く、速い。躱せない。
光を受けた瞬間、身体が一気に重くなるのを感じる。
アイツの持っていたスキル、〖グラビティ〗か。
ぐぉんと奇怪な音が鳴り、光の範囲にあった土が全体的に沈下する。
身体にのしかかる負荷に負け、俺はツインヘッドの目前で前傾に倒れ、地に膝を着く。
「バウッ!」「クゥン!」
ツインヘッドの双頭が俺に向き、無防備状態の俺へと飛び掛かってくる。
ヤベェ。コイツら、やっぱし滅茶苦茶強いじゃねぇか。
なんとか身体を起こして迎え撃つ体勢を取ろうとするも、出遅れた感が否めない。
「キシッ!」
草むらから黒蜥蜴の〖クレイガン〗がツインヘッドへと向けて飛ばされる。
ツインヘッドの片割れがそちらへ顔を向け、目で見てあっさりと回避する。
もう片方の頭、好戦的そうな左の頭が、大きく口を開けて近づいてくる。
やっぱり素早さ138はヤバい。不完全な体勢では対処しきれない。
迷った末、半端に避けるよりも左肩を前に突き出して噛ませることにした。
肩に走る激痛。
攻撃力が高いので覚悟していたが、予想を遥かに上回る痛みが俺を襲う。
このまま左腕を喰い千切るつもりのようだ。
一刻も早く、どうにか振り落とさねばならない。
だからこそ俺は、ソイツを意識から外した。
「バウ?」
「ガァッ!」
俺は右の拳で、黒蜥蜴の動向を探っている方の頭をぶん殴る。
〖ドラゴンパンチ〗がまともにヒットし、ミシリと頬骨が軋む音が聞こえる。
「キャインッ!」
左の頭が攻撃されると踏んでいたようで、右の頭は俺に対して完全に無防備だった。
ツインヘッドの身体も、左の頭を守ることに意識を向けていたはずだ。
俺は依然肩に噛みついている左の頭を無視し、右の頭を爪を立ててガッチリと掴む。
これで両方の頭は押さえた。
ツインヘッドの背後から、頬を大きく膨らました黒蜥蜴が姿を見せる。
「ガゥアッ!」
行け、黒蜥蜴!
俺ごとやって、後で解毒してくれ!
黒蜥蜴の口から毒煙が吐き出される。
煙は一瞬で俺とツインヘッドを包み込んだ。
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