第48話
だらりと、舌を伸ばしながら俺を睨むツインヘッド。
その迫力はなかなかだが、しかし奴はもうまともに動けないはずだ。
「グ、グワォッ!」
回復魔法〖レスト〗だ。
右の頭が鳴くと、ツインヘッドの傷がいくらかはマシになる。
が、受けた毒は消えはしない。
息は荒げられたまま、目の怪我も癒えぬまま。
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種族:ツインヘッド
状態:毒α(大)
Lv :39/45
HP :141/155
MP :112/221
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勝敗はすでに決した感があった。
やっぱり黒蜥蜴の毒はヤバイ。
いくら回復魔法で延命しようが、本体の精神が持たないだろう。
右の頭とか、目の傷を中心に毛が抜け落ち始めている。
ぶっちゃけこれ以上は闘わずとも、俺と黒蜥蜴が一緒に〖転がる〗で逃げてツインヘッドが毒に倒れた後で様子を窺いに来ても問題はないかもしれない。
ただ俺の身体に毒が回って死ぬ恐れがあるので、その前に解毒して欲しいが。
「……グォウ」「クゥン」
ツインヘッドは二つの顔を見合わせ、寂しげに鳴く。
その後、前足が自らの右の頭を叩き落とした。
「ッ!?」
毒が身体中に回らないよう、まともに毒爪を受けた右頭部を切り離したのだ。
そのことは理解できるが、なかなかにショッキングな図だ。
もしも進化の方向間違えて俺の首が二つになったとしても、あれだけは絶対やりたくねぇわ。
「グオウッ!」
ツインヘッドが俺を睨みながら吠える。
つっても片割れなくした今、ちょっとデカイ火を吹くブルドックなんだが。
ツインヘッドが毒に侵された頭を切り捨てたところで、こっちの優位は何ら揺るがない。
右頭部は濃く毒を受けていたというだけで、身体や左頭部にも大分毒をくらっている。
その上、ツインヘッドはもう回復魔法も重力魔法も使えない。
しかしツインヘッドには今更逃げるつもりなどないらしい。
まぁ、あの毒じゃ逃げられるとは思ってねぇだろうし、諦めるつもりなら仲間切り離したりはせんよな。
ツインヘッドは、闘って俺と黒蜥蜴を突破するつもりでいるようだ。
勝ったところでちっと休んだくらいじゃ黒蜥蜴の毒は癒えんけどな。
つっても、だったらどうやって俺と黒蜥蜴を倒すつもりだ?
ヤケクソか?
ヤケクソにしても、なんで黒蜥蜴が姿を見せた今も尚、俺にしか注意を払わないんだ?
正直今回の戦い、黒蜥蜴が隠れていられるようにツインヘッドの気を引き続ける以外やってねぇぞ。
今は姿も見せてるんだし……頭が一つしかない今、黒蜥蜴にもうちっと注意すべきだと思うけどな。
アイツのスキルは……。
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〖レスト:Lv4〗〖グラビティ:Lv2〗〖グラビドン:Lv3〗
〖噛みつき:Lv3〗〖ビーストタックル:Lv4〗〖灼熱の息:Lv3〗
〖マーキング:Lv3〗〖道連れ:Lv--〗
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表示が消えたわけではねぇんだな。
上三つの魔法は、もう使えねぇはずだけど。
……ん、〖道連れ〗?
「ガァッ!」
おい、一旦逃げろ!
今狙われてんの、お前の方だぞ黒蜥蜴!
俺は大声で鳴き、黒蜥蜴に警戒を促す。
黒蜥蜴は死角からツインヘッドに襲いかかるタイミングを計っていた。
俺の鳴き声を聞いて不思議そうに首を傾けるものの、逃げる様子がない。
地面に落ちたツインヘッドの右の頭部の目が、カッと見開かれる。
地を喰らうかのように牙を突き立て、顎の力で生首だけで地を這って黒蜥蜴を追う。
そのあまりにおぞましい光景に黒蜥蜴は面喰ったようだったが、事前に俺の鳴き声から不穏なものは感じ取って警戒はしていたらしく、素早く〖転がる〗を用いて距離を取る。
心構えができていなければ、あんなもんに急に襲われたら腰が抜けて動けなくなっていただろう。
が、生首も速い。多分ツインヘッドの本体より速い。
恐らくこれが〖道連れ〗のスキルなのだろう。
捕まったらどうなるかわかったものではないが、毒のせいか〖道連れ〗の効果なのか、動く度に顔が欠けて肉が剥がれ、血が流れ落ち、骨が露出する。
そう長持ちはしないはずだ……と、信じたい。
今更追い付けるはずもないとわかっていながらも、俺は地を駆ける右生首を追おうと走り出した。
だがツインヘッドの本体がその道を阻み、俺の前に立ち塞がる。
「バウッ!」
毒に侵され、右頭部を失ってなお、ツインヘッドの戦意が削がれる様子はない。
よくもこの期に及んでまだ、あんな力強い目ができるものだ。
俺だって〖毒α(小)〗でも充分身体がキツいんだぞ。
精神タフ過ぎんだろ。
「ガァッ!」
そういう意地は嫌いじゃねぇが、今はコイツに構っている場合ではない。
悪いが『勝手に毒で力尽きてくれ』というのが本音だ。
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