第43話
結局というか何というか、黒蜥蜴は俺についてきた。
ひょっとして住処が近いのかとか考えたりもしたが、コレ完全に俺の家まで来る気だわ。
俺の〖転がる〗によほど感銘を受けたと見える。
ふふん、仕方ねぇな。
ま、悪い気はしねぇよ。蜥蜴と竜だし、ある意味俺が兄貴分みたいなもんか。
「キシ、キシシィッ!」
……にしても、ちっとくっ付き過ぎじゃねぇかな。
並行して歩きながらも、めっちゃ身体擦り寄せてくるんだけど。
猛毒蜥蜴だから、油断したらなんかなりそうで怖いんだけど。
大丈夫なんだよな、なぁ?
なんだ? 鱗の質でも確かめて、俺の〖転がる〗の癖でも見抜こうっつうのか?
マイホームへの道中、グレーウルフの群れからの襲撃に遭った。
俺は黒蜥蜴に目配せする。
黒蜥蜴は俺の意図を汲んでくれたらしく、俺からさっと離れた。
二手に分かれて逃げるためではない。
分が悪いと気付いたグレーウルフ達が逃げないよう、囲むためだ。
干し肉のストックが切れた今、逃がすわけにはいかねぇ。
経験値的にも美味しいからな。確実に全員仕留める。
グレーウルフ達との睨み合いが続く。
群れの中の一番大きいボス格の狼が、訝しげにすんすんと鼻を鳴らす。
俺達がまったく逃げる気配のない様子を見て、実力差に気付いたのか?
いやそれより、標的の内の一体が毒の塊であることに気付いたのかもしれない。
黒蜥蜴、〖帯毒〗の特性スキル持ってたはずだしな。
喰ったらまず死ぬ。
毒耐性ある俺でも噛まれただけで死にかけたんだから。
撤退されるより先に仕掛けるべきだな。
「ガァッ!」
「キシィッ!」
俺が吠えたのに対し、黒蜥蜴が返事をする。
それを合図に、俺はグレーウルフの群れへと飛び掛かる。
黒蜥蜴も俺とほぼ同時のタイミングで、グレーウルフに向けて〖クレイガン〗を放つ。
一気に両サイドから猛攻撃を受けたグレーウルフ達は、なすすべなく一体、また一体と倒れて行く。
「ガルァッ!」
敵わないのはすでに向こうもわかっているだろうが、プライドがあるのだろう。
ボス狼が俺へと飛び掛かってくる。
俺は身体を逸らし、〖噛みつき〗攻撃を回避する。
空振ったばかりで防御が緩くなった首許を、〖ドラゴンパンチ〗で強打する。
ごきり、拳が骨を砕く感触。
ボス狼の身体が軽く宙に浮き、その後力なく地に崩れる。
「キャインッ!」「キャインキャインッ!」
ボスを失い、生き残った二匹の狼が左右に逃げる。
俺がチラリと黒蜥蜴を見ると、こくりとわずかに頷いて返してくれた。
うしうし、なんだコンビネーション抜群じゃん。
俺は右の狼へと飛び掛かり、黒蜥蜴が放った〖クレイガン〗が左の……いや、左右に分かれた二体のグレーウルフを両方とも撃ち抜いた。
片っぽでよかったんだけど……あ、いや、多い分にはいいんだけどさ。
頭部にまともに石礫をくらったグレーウルフはその場に沈み、ぴくぴくと身体を痙攣させる。
俺はその片割れのグレーウルフに跨り、腕を伸ばしてきゅっと首を絞める。
もう片方は、黒蜥蜴が〖クレイガン〗を滅多打ちして息の根を止めていた。
グレーウルフは身体中に打撲傷を作り、毛皮があちこち抉れて剥げていた。えげつねぇ。
あの技、雑魚狩りに便利そうだな。
【経験値を114得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を114得ました。】
あっという間に七体のグレーウルフがただの肉と化す。
アイツら集団によほど強固なアドバンテージを感じてんのか、出くわす度に襲ってくるんだよな。
肉もそこそこ美味いし、経験値も数考えれば結構お得な量になるし、毛皮も使い道があるからこっちとしてはありがたいんだが、その内滅びそうで怖いわ。
でもリトルロックドラゴンと遭遇して逃げてるところは遠巻きに見たことがあるんだよな。
次進化したくらいで俺見ただけで逃げるようになるんだと思うと、ちょっと寂しいというか、面倒臭いというか。
俺が一番多く倒した魔物は、間違いなくグレーウルフ。
俺は爪でグレーウルフを解体し、運びやすくするために不要な部分を削ぎ落していく。
毛皮を剥いで内臓を捨て、頭部や手足を落とす。
なんとかこれで二回に分ければ運び切れそうだ。
黒蜥蜴も、小さな身体の上に一体分の肉塊を乗せ、頑張って運んでくれた。
でもふらついてて不安になるし、そもそも別に往復回数変わんないから無理すんなよ。
そんなんやっても別に〖転がる〗修行にはならんと思うぞ。
「キシ、キシーッ!」
運びたいっつうなら止めはしねぇけどさ。
こっちの負担が減るのには違いねぇんだしよ。
しかし、丁度いいタイミングでグレーウルフが襲いかかってきてくれてよかったな。
干し肉きれてると割と困るんだよな。あれ、小腹が空いたときに軽い気持ちで喰えるし。
それにせっかくだから黒蜥蜴にも干し肉を味わって欲しい。
赤猿猩々共にも一泡吹かせてやらねばならんしな。
タイミングよく毒のスペシャリスト黒蜥蜴が来てくれたことだし、いくらかお手製の毒を回収させてもらおう。
あの強烈な毒に干し肉を漬け込んで、クソ猿に御馳走してやんよ。
これが成功すれば、二度と干し肉泥棒には来ないはずだ。
俺も絶対黒蜥蜴の毒はくらいたくない。
いつも俺が干し肉を吊るすのに使っている裸の木の横を通ると、マイホームが見えてくる。
玄関に聳える二体の勇猛な像が俺達を出迎えてくれた。
「キシ?」
俺に身体を擦りつけるように歩いていた黒蜥蜴が、ぴたりと足を止める。
像を初めて見て驚いているのかもしれない。
俺が先を歩くと、慌てて後をついてくる。
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