第38話

 一目散に逃げて行った黒蜥蜴を思うと、どうにも不安が募る。

 腫れあがった自分の肩を見ていると、どうにも自然回復に任せていいレベルを超えているように思う。


 えっと……こういうときは、肩を縛って毒が回らないようにして、傷口に口を着けて毒を吸い出せばいいんだっけ?

 俺の口だと齧りつくことしかできないんだけど。

 誰か柔らかい唇と頬肉をくれ。


 ……とりあえず、自分のステータスチェックだな。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:厄病子竜

状態:毒α(大)

Lv :33/40

HP :140/149

MP :143/143

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 状態〖毒α〗!?


 お、おい! なんだよこれ!


【特性スキル〖神の声:Lv3〗では、その説明を行うことができません。】


 チッ! 役立たずが!


 どうにか、どうにかしねぇと!

 解毒できる薬草を捜すか?

 いやでも、今まで毒に効く~みたいな詳細はまるで見つからなかったぞ。

 つっても他に方法がねぇもんなぁ……。


 いや、考えろ。

 植物の詳細表示に毒系統の情報はなかった。

 〖神の声〗も〖毒α〗の説明に関しては答えてくれない。

 でもまだ、情報を引っ張りだせるところがあるはずだ。


 〖ステータス閲覧〗による種族詳細の確認で、あの黒蜥蜴の情報を引き摺りだす!

 黒蜥蜴の情報に毒に関する説明もあるはずだ。

 それに賭けるしかない。

 あれならば視界の端にでも入ればセーフ……いや、種族が判別できれば使えるという説明だったから、一度ステータスを見たことがあれば、いつでも確認できるかもしれない。



 ベネム・プリンセスレチェルタの詳細情報をくれ!

 できるんじゃねぇのか! おい!


【〖ベネム・プリンセスレチェルタ〗:D-ランクモンスター】

【毒を放って逃げ回り、獲物が力尽きたところでその肉を回収する狡猾なモンスター。】

【また毒性の強いものを喰らい、体内で強力な毒を調合する性質がある。】

【体液で自身を解毒する力も持っており、捕まったときは治療を条件に命乞いをすることがある。】


 ……出たはいいけど、卑劣極まりねぇ。

 トンデモないのと遭遇しちまったな。蜥蜴が交渉持ち掛けて命乞いってどうよ。


 とりあえず、解決策はわかった。

 奴を見つけ出してひっとらえ、力量差を教え込み、解毒させればいいんだな。


 かなり素早い相手だし、相手もどうやら〖転がる〗逃走の使い手のようだったし、なかなか苦労しそうだ。

 つってもこっちだって、ドラゴンになってから何回も逃走と闘争を繰り返してきた。 

 逃げる側の心理なら自信があんぞ、絶対ひっ捕まえて解毒させてやる。


 近くに疲労回復効果のある〖レストグラス:価値E-〗という草があったため、引き千切って肩に巻き付けておいた。

 これで毒が回ってくるのをいくらか遅らせられるはずだ。



 とはいえ現状、今すぐ黒蜥蜴を追いかけるというのは難しい。

 俺は別に嗅覚や聴覚に自信はない。見失った相手をノーヒントで捕まえるのは不可能だ。


 アイツの移動速度は本当にヤバい。

 おまけに、ほぼ無音だ。


 黒蜥蜴の毒をくらったときのことを思い返す。

 最初に、岩の塊が飛んできた。

 恐らく、あれはアイツの〖クレイガン〗というスキルだろう。


 俺は岩の塊をつい目で追ってしまい、それから発射された場所へと意識を向けた。

 しかしアイツは発射だけして俺の気を引いておいて、無音で反対側まで回り込んで俺に攻撃を仕掛けてきた。


 どうせ単調な攻撃は当たらないと踏んで、わざと〖クレイガン〗を外したのだ。

 もしも俺に向けられたものであれば、俺は素早く回避し、すぐに意識を発射元へと向かわせることができただろう。

 だが俺とはまるで見当外れな方向へ飛んで行ったため、黒蜥蜴が移動したのかと錯覚させられ、その結果必要以上に岩に気を取られることになってしまった。


 ただの蜥蜴にできる駆け引きじゃねぇ。

 命乞いのことといい、下手したら俺より賢いんじゃねぇのか?


 ……まぁ寂しいことを考えるのは止め、黒蜥蜴を見つける算段から考えるとするか。

 見つけたら〖転がる〗でレースに持ち込み、崖に追い込んで捕まえる。そのことは確定だ。


 俺が大蜘蛛から逃げるために越え、オオツボガメを叩き落としたあの崖だ。

 どうにも俺、あそこと縁があるなぁ……。

 まぁ変わった地形っつうのは、戦略の要になるもんか。


 普通に見つけるのは難しい。

 というか、不可能だ。

 アイツ速すぎ。

 追い掛けて捕まえるかって決心した頃にはもう影も形もなかったし。


 だから、賭けに出る。

 賭けが失敗したら、アイツを見つけるのは恐らく不可能だ。

 死に物狂いで解毒薬を自作するか、腕を切り離すしかない。


 村に行けば解毒してもらえる、という可能性もゼロではない。

 十中八九殺されるが、他に手がなかったら選択肢としてはありだ。


 腕を切り離すのも、俺の中では割と有力な案だ。

 絶対痛いし、生理的な嫌悪があるし、変な称号まで背負い込みかねない。

 それでも次善策としては悪くない。

 進化も近い。進化の度にあれだけ形態が変化するのだから、腕が再生する可能性もある。

 最悪の場合としては、想定しておいてもいい。



 俺は、黒蜥蜴が逃げて行ったのとは正反対の方向へと走りだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る