第35話
俺は数回に渡ってクレイベアの粘土を全て洞穴の前へと運び出した。
絶対こんなにいらねぇよなって量だったけど、せっかくだからもらっていくことにした。
いくらあっても困ることはないし、余裕ができたら埴輪的なのも作りたい。
どうせ暇だしな。
例の干し肉を干している木の下にクレイベアの粘土を集める。
ここで作業するとしようか。
とりあえず粘土を捏ね、大きな釜のようなものを一つ作る。
そこに水と土、他の粘土を入れて混ぜる。
量が多いだけに超重労働だった。
人間の身体だったら、こんなこと絶対できなかったな。
しんどいのなんのって。
土を混ぜこぜしている間にどんどん量が増えて行く。
俺、壺をいくつ作るつもりなんだ?
いや、洞穴内部の壁に塗るとかありかもしれねぇな。
これ普通の粘土に比べて馬鹿みたいに粘性強いし、どんどん土で薄めるか。
土との混ぜ合わせが終わってからは、捏ねて壺の形を作っていく。
何度も何度も、何度も失敗を重ねた。
ドラゴンのゴワゴワした腕と長い爪では、なかなか綺麗なものが出来上がらない。
せっかく作るんだからもっとこう、本格的な感じにしたいんだけどなぁ……。
なんどもなんどもやっている内に日が暮れたが、半ば意地になっている俺はそれでも壺を作り続けた。
クレイベアとの死闘の後だったので疲れてはいたのだが、不思議と眠たいとは思わなかった。
瞼が重かったが、気にはならなかった。
捏ねては崩し、崩しては捏ねた。
途中でついに邪魔な爪を噛み千切った。
やがて日が登ってくる。
試行錯誤の末、底と側面を別々に作ってから組み合わせることで、綺麗な壺を作ることができた。
完璧だ。これはもう、マジで完璧。
よし、これと同じものを量産すっぞ。
【称号スキル〖陶芸職人:Lv1〗を得ました。】
ふっふ、そう褒めるなって。
ふと遠くを見ると、憎き赤猿、猩々共がこちらを見ていた。
恐らく、前回と同じ集団だ。
キッと睨み返すと、さっと森奥に消えて行った。
干し肉を狙っていたのだろう。
壺の数。
とりあえず必要なのは香辛料用と肉用、塩用の三つだな。
後々もっと必要になるかもしれないし、10個くらい作っとくか。
腹の音を堪え、ひたすら壺を捏ね続けた。
ひとつ作る度、どんどん自分の技術が磨かれていくのがわかる。
おいおい、これ、俺の天職かもしれねぇな。滅茶苦茶楽しいぞ。
10個作り終えたところで、〖陶芸職人〗の称号スキルがLv2になった。
ひと段落ついたところで、木に刺している干し肉を取って喰う。
超うめぇ。やっぱ塩って大事だな。
ヒトクイ花様様だわ。
食事中に視線を感じたので振り返ると、またあの猩々共がいた。
アイツら、完全に干し肉の味を覚えやがったな。
ペッペッ! どっか行きやがれ!
俺が睨むと、すぐ猩々共は森奥へと消えて行く。
今はお前らに構ってやる暇はねぇんだよ。
今度暇なときに、たらふく喰わせてやるよ。ただし、毒塗りだがな。
さて、飯を終えたら次は鍋作りだな。
普通の鍋用と、後毒調合用も用意しとくか。
予備も必要だな。
とりあえず多目に5個くらい作っとくか。焼くときに失敗するかもしれんからな。
鍋を作り終えると、〖陶芸職人〗がLv3になった。
俺、前世で陶芸家か何かだったのかもしれんな。
自分の才能が怖いぞ。
枯れた薪を集めてきて、土粘土で作った大釜を被せる。
大釜に小さな穴を開け、そこから〖ベビーブレス〗で熱風を送り込む。
密閉状態で加熱すると、薪は炭化する。
何度も繰り返して炭の山を作り、作った壺や鍋をそこに埋め、〖ベビーブレス〗で加熱する。
加減がわからなかったので幾つか割ってしまうかと思ったが、不思議と全然割れなかった。
クレイベアの粘土の力もあるのかもしれない。
壺や鍋が白く変色してきたところで〖ベビーブレス〗を止め、砂を掛けて鎮火させる。
冷めた頃に炭の山から引き摺り出し、川で煤や砂を落とした。
うむうむ、満足の行く出来栄えだ。
素晴らしい、ここまで上手く行くとは思っていなかった。
洞穴に戻り、毛皮で包んでいた塩や香辛料、干し肉を壺の中へと移していく。
壺と鍋を並べただけで、洞穴の中が随分と賑やかになった。
いい感じだ。
まだまだ土は残っているし、次は像とかも作ってみるかな。
後は洞穴内の壁を削って綺麗にしてから、煉瓦を押し込んで内装を整えてみるか。
レンガ間の接着は、あの粘土を流し込んでベビーブレスで充分だろう。
なかなか骨の折れる作業になりそうだが、その分達成感はありそうだ。
また数日ほど洞穴に籠る日々が続きそうだな。
食糧は、干し肉があるからどうとでもなるか。
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