第34話

 土煙が晴れる。

 一瞬、目を疑った。

 背中から大量の土の針を伸ばす、クレイベアがいた。


 なんだアレ、アイツあんなこともできんのかよ!

 かんっぜんに〖転がる〗対策だよな? ピンポイント過ぎんだろ。

 動きづらそうだけど、死角取られても攻撃されなきゃどうでもいいってことかよ。


 実際これで背中小突き回す作戦は使えないわけで、正面から突っ込むしかねぇのか。

 アイツのMPは残りいくらだ?


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種族:クレイベア

状態:憤怒

Lv :25/40

HP :137/178

MP :34/100

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 あれ? MPめっちゃ減ってね?

 HPが余裕あるのは、さっき土煙の中で〖自己再生〗使ったからなんだろうけど……そう考えても絶対減りすぎだろ。


 〖自己再生〗を二回で消費が18×2回の36。

 〖砂嵐〗と〖変形〗でMPが30も持ってかれたのか。


 なるほど、これ以上は〖変形〗はそうそう簡単には使ってこないし、〖自己再生〗も一回しか残ってねぇってことか。

 状況はこっちの優位に変わったな。


 つっても、攻撃し辛いのが難点だな。

 自己再生は残り一回か。

 正面からの接近戦でも悪くないけど、殴り難いよなぁ。


 背中は土の針、正面は牙だらけの口。

 熊の頭くらいなら吹っ飛ばせるだろうけど、あれ完全に乗ってるだけだもんな。

 向こうもあの形態、胴体以外への攻撃を明らかに警戒してねぇ。


 正面から攻めるなら、速さがあっても単純な攻撃しかできない〖転がる〗は危険だな。

 カウンターの餌食になるだけだ。

 なんとか向こうの〖噛みつき〗を回避しながら殴り続けるしかねぇ。

 ツボガメくらい堅いものがあったら〖星落とし〗でぶつけてやってもいいんだけど、そこらの石投げたってあの身体はぶっ壊せねぇだろうし。



 拳を握り締め、クレイベアへと一直線に走る。

 向こうも俺を迎え撃とうと、両腕を構えながら腹の中心にある大きな口を開け、牙を露出させる。


 振り上げられた右腕を手で受け止め、襲いかかってくる左腕を尻尾で往なす。

 俺を喰おうと迫ってくる口のすぐ上へと蹴りを入れる。


 手応えはあったのだが、右足がクレイベアの身体にめり込んでしまった。

 いや、取り込まれたといった方が近い。

 引き抜こうとしてもどんどん奥へと沈んでいく。

 コイツ、変形を使いやがったな!


 逆の足でクレイベアの腹の口の牙を蹴飛ばし、その反動で右足をクレイベアから引っこ抜いて宙に逃げる。

 が、そのまま飛びついてきたクレイベアの〖噛みつき〗を、まともに腹部にもらうこととなった。


「アガッ!」


 追撃されないよう、翼を広げ後ろ向きに飛んで距離を取る。

 地面に着地して膝を着く。


 腹部に手を当てると、鱗が剥がれ、肉が抉られていた。

 動くのには支障はねぇけど、自分のステータスを確認すると、状態異常〖流血(小)〗になっている。

 HPにもあまり余裕はない。

 浅い〖噛みつき〗だったら二発耐えられる程度だ。


 クソッ! クソッ!

 順調なはずだったのに、ワンミスで一気にキツくなっちまった!


 でも今の〖変形〗で、クレイベアの最後の〖自己再生〗のMPがなくなってんならまだ希望はある!

 軽い蹴りだったけど、一応胴体に一発入れてやったし!

 向こうはもう瀕死のはずだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:クレイベア

状態:憤怒

Lv :25/40

HP :122/178

MP :19/100

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 ……全然削れてない上、ラスト〖自己再生〗の分残ってるじゃん。


 もう諦めて〖ベビーブレス〗で仕留めちまった方がいいかな。

 でもそれやっちまうと粘土が使えなくなっちまって、ここまで頑張ってきた意味がねぇからなぁ……。


 仕方ねぇ、覚悟を決めるか。

 同ランクで同レベル台の殺し合いなんだから、リスクなしでってわけにはいかねぇよな。


「ベァァァァッ!」


 クレイベアが吠えながら俺に向かって走ってきた。

 図太い両腕を振り回し、俺を捕らえようとする。


 でもコイツ、腕で俺を仕留めようって感じは全然しないんだよな。

 牽制して噛みついてやろうって思惑がぷんぷん匂ってくる。

 それさえわかっていれば、動きを読むことは難しくねぇ。


 回避し、尻尾で往なす。

 また回避。


 やっぱりコイツ、腕での攻撃は牽制用だし、胴体以外への攻撃は問題視してねぇな。


 俺はクレイベアの左手を尻尾で弾き、右に大きく飛ぶ。

 俺を追って、クレイベアの右腕がピンと伸ばされる。


 俺は地を蹴って宙で後転しながら、尻尾で右腕の肩関節をぶん殴る。

 呆気なく肩が崩れ、右腕が真上に飛ぶ。


 俺は思いっ切り飛び上がり、宙で右腕を掴む。

 翼を広げて〖ベビーブレス〗を真下に吐き、一気に上昇する。


 こっから〖星落とし〗で叩き付けて……いや、それじゃあアイツのHPは削りきれねぇ。

 ちょっとでも残したら、すぐに〖自己再生〗される。

 この一撃で決めなきゃいけねぇ。


 俺は翼を伸ばし、クレイベア目掛けて一気に降下する。

 反動はデカそうだが、俺が耐え切れる方に賭ける。


「ガァァァァァッ!」


「ベアァァァァァァッ!」


 クレイベアが俺を見上げ、叫ぶ。

 ベアベアうっせぇよ。

 お前は絶対熊じゃねぇし、本物の熊がベアなんて鳴くわけねぇだろうがぁっ!

 なんの熊アピールだっつうの!


 クレイベアの頭部へと、クレイベアの腕をぶつける。

 作り物の熊の頭と腕が粉砕し、辺りに砂埃が舞う。


 身体に強烈な衝撃を感じ、俺はその場から吹っ飛ばされる。

 地面の上を転がり、そのまま大の字になって寝そべる。


【通常スキル〖くるみ割り:Lv1〗を得ました。】


 くるみ割り……ねぇ。

 もうちっと格好いい名前なかったのか。

 いや、確かにくるみ割りっぽいけどさ。


【経験値を150得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を150得ました。】


【〖厄病子竜〗のLvが31から33へと上がりました。】


 ひゅー、良かった。

 これでくたばってくれなかったらどうしようかと思ったぞ。


 身体を起こすと、バラバラになったクレイベアが辺りに飛び散っていた。

 地面にまで罅が入っている。

 アレ、威力かなりヤバいな。

 反動もヤバいから気軽には使えねぇけど。


 つつ……身体中が軋む。

 今日はもう、これ以上狩りはできねぇな。


 しかし何はともあれ、これでクレイベアの粘土が回収できる。

 掻き集めて洞穴に帰って、これで壺を作ろう。

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