第27話
ヤバい、これ絶対ヤバい。
っていうか、まず俺では倒しきれない。
HPが高過ぎるし、まず攻撃が通らん。
〖星落とし〗で重量を利用してやろうにも、さすがにアレ持って飛ぶのは無理だわ。
幸い、オオツボガメのスピードは滅茶苦茶低い。
肉詰め壺甲羅を置いて逃げるべきか?
これ、正直クッソ重いもん。
いや……でも、ツボガメどんな味するか喰ってみたかったんだけどな……。
オオツボガメはスピード低いみたいだし……それに、攻撃力もそこまで高くはないから万が一攻撃くらってもそこまで危なくはねぇだろ、うん。
行けるよな、多分。
これ持ったままでも逃げ切れるよな?
俺は肉詰め壺甲羅を抱え、走る。
オオツボガメが頭を出し、こちらを睨む。
「ガァメァァッ!」
オオツボガメが一声そう鳴くと、ぼわっとした紫の巨大な光が飛んできた。
多分、さっき見た〖ハイスロウ〗という魔法だろう。
名前からして〖スロウ〗の上位魔法だと想像がつく。当たるわけにはいかねぇ。
「ガメァッ! ンガァメァッ! ンガァメァァァッ!」
ぶっ!?
紫の光がいっぱい飛んできやがった!
よくMP持つなぁクソッタレ!
やっぱ肉詰め壺甲羅放り出してとっとと逃げるべきだったわ。
避ける隙間もなく、俺の身体に吸い込まれるように紫の光が入ってくる。
クソ、ぜんっぜん身体が動かねぇ。
ちょっとは動いてるんだけど、ホントにちょっとだわ。
後ろからオオツボガメが木々を薙ぎ倒しながら追い掛けてくる。バケモン過ぎんだろ。
向こうの方が速い! 来る!
あ、タックルの構え入った! タックル来る!
攻撃の軌道が完全に読めるのに、まったく避けられない。
車ほどある質量が、俺に体当たりをぶちかましてくる。
「グボォッ!」
俺は跳ね飛ばされ、地面の上を数周転がった。
スピードはなくとも、あの質量は反則だわ。
何発もくらってたら身体が駄目になっちまう。
ああっ! 俺の今日の飯を詰めた壺甲羅が、中身を撒き散らしながら転がっていく!
回収してる余裕なんかねぇよなぁ、クソ。
経験値もらえただけ良しとして逃げるしかねぇのか。いや、これ逃げれんのか?
慌てて立ち上がろうとするが、ずっしずっしと巨体が追ってくる。
立ち上がるのにも時間が掛かる。
あんなのに踏み潰されたら抵抗できずにそのまま死ぬぞ。
俺は立ち上がりかけの姿勢から、そのまま〖転がる〗へとシフトする。
さっきまでは壺甲羅を抱えていたから転がれなかったが、あれをさっぱり諦めるのであれば、〖転がる〗で逃げられる。
逃げられる、はずだった。
「ンガァメァッ!」
更に重ねて〖ハイスロウ〗を打って来やがった。
全力で方向転換し一発は避けるが、二発、三発と連打してきやがる。
対処しきれず、紫の光に包まれる。
うわおっそ! 転がってんのに俺おっそ!
ちらりと後ろを見る。
のっそのっそと迫ってくるオオツボガメ。
段々と距離を詰めてくる。
素早さ4のはずなのに、オオツボガメがなぜか速く見えるチクショウが!
ちょっと〖スロウ〗と比べて強力すぎねぇか〖ハイスロウ〗。
アイツの持ってた称号スキル〖亀の呪い〗で効果が底上げされているのかもしれん。
ゆっくりと近づいてきたオオツボガメが俺に追いつき、再び重量任せのタックルをかましてくる。
再度ブッ飛ばされ、俺は頭から地に激突する。
頭を打ったショックで視界がブレる。背中が滅茶苦茶痛い。
ああ、無理だコレ。
〖ハイスロウ〗の効果が続いてる限り、逃げることは不可能だ。
後ろからどつき回される。
俺があれに堪えられるのはよくて二、三発といったところだ。
それ以上は意識が持っていかれる。
逃げることが無理なら、倒すことを考えるか?
いや、あれ倒せないわ。絶対無理だわ。
〖ハイスロウ〗をくらってなかったとしても、致命傷を与える術がまったくない。
御丁寧に〖自動回復〗やら〖レスト〗まで持っていやがる。
あんなんなくても、オオツボガメの防御貫ける奴なんかそうそういねぇと思うけどな。
崖から落とすっつうのもまず無理だろうな。
〖ドラゴンパンチ〗で正面から殴り続ければ一歩分くらいは退かせられるかもしれないが、それが限界だ。
つーか、そんな余裕あるなら逃げるわ。
ブッ飛ばされた勢いを利用して〖飛行〗で上空に逃げるか?
でも〖飛行〗だけじゃほとんど滑空が限界なんだよな。
ブレスロケット使っても真上に飛ぶのが限界で、そっから動けずに落ちるしかねぇし……。
いや、待てよ。
わざと崖っぷちに立って崖に吹っ飛ばされ、その勢いを利用して向こう側に〖飛行〗で飛んだら逃げ切れるんじゃねぇのか?
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