第28話

 自分の残り体力を確認する。


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種族:厄病子竜

状態:スロウ(大)

Lv :22/40

HP :32/116

MP :43/113

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 うし、行ける。

 次の一発は耐え切れる。


 オオツボガメのタックルの衝撃を利用し、〖飛行〗を使って崖を越えて向こう側まで逃げる。

 この難から逃れるにはそれしかない。


 俺は〖転がる〗を使い、方向を捻じ曲げて崖へと向かう。

 オオツボガメが追ってくる。


 いいぜ、後一発だけくらってやる!

 そっからはしばらくオサラバよ。

 一撃でぶっ飛ばせるまで強くなったらまた来るわ。


 崖手前で、俺の身体にオオツボガメが突進して来る。

 その迫力に怖気づくが今のスピードで回避できるはずもなく、俺はほぼ無抵抗で崖へと吹っ飛ばされる。


 うし、生きてるぞ。

 このまま翼を広げ、足場のない崖の上を飛んで逃げてやる!


 ここでひとつ、予定違いが起きた。

 〖ハイスロウ〗の効果を舐めていた。

 あの魔法のいやらしさは重々理解していたつもりだったが、俺の予想を遥かに越えてきた。


「ガメェェァァッ!」


 翼を広げた俺の意図を察してか、オオツボガメは更に〖ハイスロウ〗を放って来た。

 避けられず、正面から紫の光を受ける。

 でもここで重ねて素早さを下げられたところで……と思っていたのだが、オオツボガメは翼を広げた俺に追撃しようと首を伸ばしてきた。


 既に空中で飛ぶ体勢を整えている俺に、重ねて追撃するつもりだ。


 俺のHPはじり貧だ。

 まともに噛みつかれたら死ぬ。直撃は絶対に避けねばならん。

 掠るくらいなら耐えられるはずだ。

 これを回避すれば逃げられる。


 俺は手足をがむしゃらに動かしながら、飛行速度を上げるために〖ベビーブレス〗を吐く。


 〖ベビーブレス〗加速のお蔭で、オオツボガメの一撃をギリギリ躱すことができた。

 が、俺の足の爪が、オオツボガメの口の端に引っかかった。

 がむしゃらに動かしていた手の爪が、オオツボガメの目の縁に引っ掛かった。


 やべ、助かったのはいいけど、これだと飛べねぇんだけど!


 俺は引っ掛かった爪を外そうと手足を動かすが、ビクともしない。


 オオツボガメは顔面に張り付いた俺を剥がすべく首を振るう。

 俺も外れてくれと願いながら手足をもがかせる。

 肉を引き千切って逃げてやろうと〖ベビーブレス〗を最大威力でぶっ放すのだが、肉が硬すぎてまるで効果がない。


 多分この時点でオオツボガメも、同種の仇討ちよりも俺を外すことが目的となっていただろう。

 敵同士ではあるが、目的は一致していた。

 しかし、それは叶わない。

 俺が妥協して戻って爪を丁寧に外せば、オオツボガメとしてはその隙を突いて攻撃しない理由がない。

 だから結局、不毛な綱引きをするしかない。


「ガァァァァァァツ!」

「ガメェェェエェェエッ!」


 体重差で劣る分、俺は〖ベビーブレス〗を最大威力で吐き続けることで補う。

 持ってくれよ俺のMP!


【通常スキル〖ベビーブレス〗のLvが3から4へと上がりました。】


 千切れろ! 外れろ! 千切れろ!

 外れろ! 外れろ! 外れろォッ!


 息が持たない。

 苦しい。それでも絶対に〖ベビーブレス〗ジェットを止めるわけにはいかない。

 俺にはこれしかないのだ。

 息を止めれば、その瞬間にオオツボガメの立っている側へと引き摺られ、そのまま殺される。

 今はもう死ぬ気で〖ベビーブレス〗を続けるしかない。


【耐性スキル〖酸素欠乏耐性:Lv1〗を得ました。】


 よぉし! これでまだまだいけるぞおおおっ!

 皮を引き千切ってやんよ!


「グォォォォォォオオオオオッッ!!」

「グァメェェェエェッッ!!」


 行ける! 勝っているぞ!

 あの巨体をこっち側へと引き摺れている!

 さあ千切れろ! もしくは外れろ! どっちでもいいから俺を解放してくれ!


【通常スキル〖ベビーブレス〗のLvが4から5へと上がりました。】


 キタァッ! 更にこっちに分が傾いた!


【耐性スキル〖酸素欠乏耐性〗のLvが1から2へと上がりました。】


【称号スキル〖ド根性:Lv1〗を得ました。】


「ガルァァァァァァアアアアアアッッッ!!」

「アメェェェエェッ!」



 どんどん、どんどんこっち側へと引き摺れている。

 それでも全然引っ掛かった爪は外れない。


 そうこうしている間に、崖に身を乗り出し過ぎていたオオツボガメが、体勢を大きく崩した。


「ガァ!?」

「ンガメェ!?」


 オオツボガメの乗っていた部分の地面が崩れ、それにつられて巨体が下へと向かう。

 そのせいで、オオツボガメに引っ掛けていた俺のツメが割れる。

 がぁぁぁぁぁっ! 超痛いっ!


 枷の外れた俺の身体は、パチンコの要領で一気に反対側の崖まで後ろ向きのまま飛ばされることとなった。

 丁度〖ハイスロウ〗の効果が緩くなってきていたようで、凄まじい勢いだった。

 気が付いたら反対側の崖にある木に背を打ち付けていた。


 へ、へへ……逃げきったか?


「ガメェェェェェエエェェエェェツツツ!!」


 辺りにオオツボガメの絶叫が響き渡る。

 ん? なんかあったのか?


 ぐしゃっと、何かの潰れる音が遠くに聞こえてきた。


【経験値を288得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を288得ました。】


【〖厄病子竜〗のLvが22から30へと上がりました。】


【称号スキル〖|大物喰らい(ジャイアントキリング):Lv1〗を得ました。】


【通常スキル〖ステータス閲覧〗のLvが4から5へと上がりました。】

【手にしたアイテムや、対峙したモンスターの性質に関する情報を調べることができるようになりました。】


 …………?

 崖の向こう側を見てみる。

 オオツボガメの姿はない。

 ただ、アイツの立っていた部分の地面が崩れていた。


 そういやさっき地面が……え?

 アイツ、落ちたの?


 自分の頬を叩き、俺は朦朧としていた意識を活性化させる。

 崖まで歩き、底を見下ろす。


 川から覗いている岩と激突したらしく、残骸と化しているオオツボガメの姿がそこにはあった。



 ……ま、まぁ結果オーライだな。

 前の洞穴に愛着あるし、アイツ死んだんだったら向こう側に戻るとすっかな。

 ツボガメの肉も回収したいし。


 とりあえず、Lv上がったしステータス確認しとくか。


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種族:厄病子竜

状態:通常

Lv :30/40

HP :8/140

MP :10/137

攻撃力:129

防御力:110

魔法力:120

素早さ:109

ランク:D+


特性スキル:

〖竜の鱗:Lv2〗〖神の声:Lv3〗〖グリシャ言語:Lv1〗

〖飛行:Lv2〗〖竜鱗粉:Lv1〗〖闇属性:Lv--〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv3〗〖落下耐性:Lv4〗〖飢餓耐性:Lv3〗

〖毒耐性:Lv3〗〖孤独耐性:Lv4〗〖魔法耐性:Lv2〗

〖闇属性耐性:Lv2〗〖火属性耐性:Lv1〗〖恐怖耐性:Lv1〗

〖酸素欠乏耐性:Lv2〗


通常スキル:

〖転がる:Lv4〗〖ステータス閲覧:Lv5〗〖ベビーブレス:Lv5〗

〖ホイッスル:Lv1〗〖ドラゴンパンチ:Lv2〗〖病魔の息:Lv1〗

〖毒牙:Lv1〗〖痺れ毒爪:Lv1〗〖ドラゴンテイル:Lv1〗

〖咆哮:Lv1〗〖星落とし:Lv1〗


称号スキル:

〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗

〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv4〗〖害虫キラー:Lv3〗

〖嘘吐き:Lv2〗〖回避王:Lv1〗〖救護精神:Lv4〗

〖ちっぽけな勇者:Lv1〗〖悪の道:Lv3〗〖災害:Lv1〗

〖チキンランナー:Lv2〗〖コックさん:Lv1〗〖卑劣の王:Lv1〗

〖ド根性:Lv1〗〖|大物喰らい(ジャイアントキリング):Lv1〗

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 うげぇ、HPもMPもほぼ空じゃん。

 もうちょっとでブレス吐けなくなって、オオツボガメに殺されてたな。

 危ない危ない。


 しっかし、やっぱ追い詰められてこそ成長するものだな、うん。

 スキルLvが順調に伸びてるし、しばらく掛かりそうだと思っていた次の進化も見えてきた。

 ……次の進化までに、〖救護精神〗とか〖ちっぽけな勇者〗とかの辺りを上げておきたいんだけどなぁ。


 つか、ぜんっぜん〖人化の術〗覚えないんだけど。

 後進化までLv10なわけだけど、この間に覚えられんのか。

 何事もなくLvMAXになったらマジで泣くぞ。

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