第25話

 俺は地を蹴り、翼を広げることで跳躍の高さを稼ぐ。

 悪いけどツボガメと戯れてるつもりもねぇし、サクっと越えさせてもらいますよ。


 十体のツボガメ達は引っ込めていた首を壺甲羅から出し、宙にいる俺を睨む。

 なんだ、コイツちゃんと頭あったんだな。

 最初の奴とか移動するときも手足しか出さなかったぞ。


「ガメ」「ガーメ」「ガメ」

「グアァーメ」「ガァメ」「ガーメ」

「ンガメ」「ガァメ」「グアメ」「ガーメ」


 俺を睨む十体のツボガメが、口々に鳴き声を上げる。

 直後、紫のぼやっとした光が俺に襲いかかってくる。

 ゲ、なんだよアレ。魔法か?


 精度はあまりよろしくないようで、俺の右へ左へ掠っては通り過ぎていく。

 危ない危ない。あんな得体の知れないもんくらいたくないぞ。


 ツボガメの持ってたスキル……〖スロウ:Lv1〗か?

 名称からして、俺のスピードを奪うもののような気がすっけど。


 げ、一発くらった。


 俺に触れた光は小さくなっていき、身体の中に入り込んでくる。

 痛くはないか、身体中に不快感が広がる。


 一発くらってからは二発、三発と身体に入り込んで来て、結局四発受けることになった。

 うげぇ、気分悪い。視界が揺らぐ。


 あれ……なんか、周りの景色が全然動かないぞ?

 俺、今ジャンプしたところだよな?


 これ、俺が遅くなってんのか?

 ほとんど宙に固定されているような感じがする。


 俺の目の前でツボガメ達がひょいひょいと積み重なっていき、10段の塔ができる。

 丁度、一番上の奴が俺の目の高さだ。


「ガホッ!」


 手足と頭を引っ込め、飛び掛かってきやがった。

 〖スロウ〗のせいかガードが間に合わず、胸部に重い一撃をもらう。

 とはいえ元の攻撃力が低いためダメージは微々たるものだ。焦る必要はない。


 焦る必要は……痛っ!


 空中でタックルをもらい落下する俺に対し、更に9段目にいたツボガメの一撃が襲いかかってくる。


「オガッ!」


 こいつら重すぎねぇか!

 普段なに喰ってんの!?


 あ、八段目が来る。


「ゲボッ」


 七段目。


「カハッ!」


 その後も六段目、五段目、四段目……と、残りの六体分のタックルもまともにくらい、地に落ちる。

 一体一体からのダメージは小さくとも、十連撃はなかなかキツイ。


 地に背を打ち付け、仰向けになる。

 そんな俺をツボガメは十体で囲み、体重を掛けてタックルを繰り返してくる。

 痛い! 痛い! 本当に痛い!

 ごめん! 謝るからやめてマジで!


 〖転がる〗を使い、最大速度でツボガメのリンチから脱する。

 〖スロウ〗のせいで全然早くなかったが、それでもなんとか離れることができた。


 あ、でも回り込んでくる。

 今の俺ちょっと遅すぎんだろオイ。

 〖転がる〗を解除し、ツボガメを睨む。


 ちょい、一旦相手のステ確認すっか。

 こいつらまだ〖スロウ〗撃てるんじゃねぇだろうな。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ツボガメ

状態:通常

Lv :10/35

HP :24/30

MP :19/29

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‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ツボガメ

状態:通常

Lv :7/35

HP :16/24

MP :13/23

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 この減りよう、〖スロウ〗はどうやらMP10消費のようだ。

 ということは全員後一発は撃てるな。

 ようやくちょっとだけマシになってきたかなって感じなのに、これ以上重ねるんじゃねぇ。

 マジでやめてください……ん?


 なんでHPこんなに減ってんだコイツら?

 〖HP自動回復〗があるから、ここに来るまでに受けたダメージとは思えない。


 他のツボガメのステータスを確認してみるが、HPの減り方はバラバラで、十体中の半数はまったくダメージを受けていなかった。


 ひょっとしてこれ、落下ダメージって奴か?

 そう考えたらこのダメージのバラつきも納得がいく。

 だよな、下半分は落下ダメージなんか受ける高さじゃなかったもんな。


 ツボガメは堅いが、とても重い。

 それに物理と魔法の両方に高い耐性を持ってるけど、〖落下耐性〗はなかったな。


 なるほど、こいつらの弱点、ようやく見えてきた。

 崖からドーンなんてせずとも、位置エネルギーを使えば自身の重さで大ダメージを負ってくれる。


 うし、やってやろうじゃねぇか。


 俺は立ち止まり、ツボガメの動きを予想しながら両手を動かす。

 三方からツボガメが飛び込んできた。

 一発は背に、もう一発は脇腹にくらった。

 だが踏ん張り、最後の一発に備える。


 正面から飛び込んできたツボガメのタックルを受けながら、事前に動きを読んで動かしていた両腕でツボガメを抱え込む。


「ガメェッ!?」


 ツボガメはもがくが、放しはしない。

 俺はそのまま地を思いっ切り蹴り、真上に飛び上がる。

 当然、翼を広げて跳躍力を稼ぐ。


「ガ、ガメ!」


 一瞬呆気にとられたツボガメ達だったが、大急ぎで再びタワーを組み、俺の高さに追いついてくる。

 本当にコイツら連携力あるな。


 一番上のツボガメが飛び込んでくるが、俺の足を掠っただけだった。

 残念だが、一体分足りなかったな。

 それは俺が抱えてるわけだが。


 ツボガメの届かない高さまで来る。


 そこから俺は、下に向けて〖ベビーブレス〗吐き出し、ロケットの要領で更に高く飛ぶ。


 上から見るツボガメの塔は、酷く小さく見えた。

 結構飛べたな。

 ブレスロケット、ありかもしれん。


 宙でくるりと一回転して遠心力を加え、ツボガメを下に突き出して投げつける。

 この重さでこの高さ、重力加速度で結構な威力になることだろうよ。

 あれ、この世界の重力加速度っていくら?



【通常スキル〖星落とし:Lv1〗を得ました。】


 星落とし……?

 ああ、この飛び上がってバーンと叩き付ける技か。

 スキル認定してくれんのか。


「ガメェェェェエェッ!」


 俺が真下に叩き落したツボガメが、八段タワーを縦に貫いてぶっ壊す。

 壺甲羅が割れ、その中身の肉をも引き裂いて辺りに散らす。

 おう……結構グロテスク。


【経験値を306得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を306得ました。】


【〖厄病子竜〗のLvが15から22へと上がりました。】


 お、結構上がったな。

 やっぱ〖仲間を呼ぶ〗からの集団狩りが経験値的には一番おいしいなこれ。


【特性スキル〖飛行〗のLvが1から2へと上がりました。】


 よしよし、これでちっとはまともに飛べるようになってくれるとありがたい。



 ……と、後もう一体生き残りがいたな。

 俺が〖星落とし〗で倒した分は、投げたツボガメと重なって塔になっていたツボガメだけだ。

 俺を追って飛び込んで来て地に落ちたツボガメはまだ倒せていない。


 そろりそろりと逃げようとしていたツボガメが、俺の視線を受けてびくりと身体を揺らす。

 〖スロウ〗の効果はもうほとんど解けきっていた。


 俺はツボガメを追い掛けて捕まえ、先ほどと同様にジャンプ、翼、ブレスロケットのコンボで飛び上がり、〖転がる〗で回転してから思いっ切り下に放り投げる。

 はい、〖星落とし〗!


「ガメェェェェェェェッ!」


 地面と衝突したツボガメの壺甲羅が割れ、中から白目を剥いた血塗れのツボガメが現れる。


【経験値を36得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を36得ました。】

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