第24話

 あれから俺はツボガメのHPを削るべく、色んな手段を試した。


 〖毒牙〗、歯が折れかけた。

 〖痺れ毒爪〗、俺の爪が砕けて飛んでった。ちょっと泣いた。


 枯れ木を束ねて〖ベビーブレス〗で火炙りにすると一応ダメージが通ったが、〖HP自動回復〗に負けたっぽい。

 HPが減ったと思った瞬間に回復して打ち消される。


 打つ手なし。

 他にも色々試したが、惨敗だった。

 こちらの行動を嘲笑うように、時折ツボガメが「ンガメェ?」と間延びした声で鳴く。

 ちくしょう、馬鹿にしやがって。


 奥の手を使おうと思い、俺はツボガメを抱えて歩いている。

 壺甲羅を剥ぐのと食糧の確保を諦め、経験値だけを目的と定めれば手段がないわけではない。

 俺もあれだけ頑張ったんだから、経験値くらいは欲しい。


 だから、非道だとわかっていても、この手を取らざるを得なかった。

 悪く思うなよ。俺はさっさとLvを上げて〖人化の術〗を覚え、〖悪の道〗から逸れたいんだ。



 森にある崖、俺が大蜘蛛を振り切るために越えたところだ。

 その渕に立ち、ツボガメの蓋を優しく撫でる。


 きっとお前の死は無駄にはしない。

 俺は強くなる。だから、許してくれ。


「ンガァメ? ガァメ!?」


 ツボガメが何かを察したように鳴き声を上げる。


 俺は小さく首を振り、崖下へと向かってツボガメを放り投げる。


「ンガァメェェェェエェェエッェッッ!」


 深い深い崖底へ、ツボガメは落ちて行った。

 悲鳴が土の壁に反響し、幾重にも連なって俺の耳にまで届く。

 ツボガメが崖下の岩にぶつかって四散し、濁流に呑まれていくと同時に断末魔も止む。


 じゃあな、ツボガメ。

 お前は|強敵(とも)だったよ。


【経験値を36得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を36得ました。】


【〖厄病子竜〗のLvが14から15へと上がりました。】


 淡々と宿敵の絶命が告げられ、それを糧として俺のLvが上がる。


 激しい闘いの後ほど虚しいものだ。

 全力を尽くして技をぶつけ、互いを認め合い、そして最後には別れが訪れる。

 自然界の厳しさを改めて知り、少しの達成感とそれを上回る焦燥感に駆られながら、俺は崖に背を向けた。



【称号スキル〖卑劣の王:Lv1〗を得ました。】

【称号スキル〖悪の道〗のLvが2から3へと上がりました。】


 ……取って付けたように綺麗に締めても、やっぱりそうなるよな。

 〖称号スキル〗って俺の意識による面が大きいんじゃないかと思って何か一人であれこれ盛り上がってみたけど、どうやら効果はないらしい。


 一回諦めて立ち去ろうとしたらあのツボガメが俺をからかうような声で鳴きやがんのよな。あれで後に退けなくなっちまった感があるというか。

 崖にぶん投げたら変な称号来るとは思ってたけど、ついやっちまった。


 経験値も欲しかったし……こっちとしても、あれだけやって成果なしってのはね、ほら。

 ぶん投げて殺しても経験値が入るのがわかったっつうのも大きいし、得たものはあった。無益な殺生ではないはずだ、うん。

 ちょっと手を合わせ、崖に拝んでおこう。


 にしても着実に負の称号が増えていくな。

 真っ当な進化先あるんだよな、コレ?

 なんか経歴に傷付けられて就職先狭まりましたみたいな気分だわ。


 大魔王竜王ルートとか嫌だぞ。

 俺は清く正しき光の道を歩むぞ。

 人間共存ルートがいいぞ。


 さてと、結構疲れちまったし、喰う分狩ったら植物集めて帰るとすっか。

 壺を取れなかったのは惜しいな……。

 いや、土の上に置いても別にいいんだけどさ、インテリア的にもあれありだと思うんだよな。


 あ、取れないなら作ってみるか?

 粘土質のとこ見つけて、掘り返して捏ねて熱せば作れるんじゃねぇのアレ?

 ただそれだと火がなぁ……結構温度いるって聞いたことあるし。

 〖ベビーブレス〗でいけんのかな? 炭用意してたらなんとかなるか?


 やってみないことにはわからんか。

 時間はいくらでもあるし、いっちょ作ってやっか。

 土器とか縄文くらいから作れたんだろ? じゃあ俺でもなんとかなるっしょ。


 あの洞穴に絨毯敷いて土器を並べる。

 うんうん、いいじゃん。

 色々手を加えてお洒落な感じにしてみっかな。

 絵具的なの作ってなんか壁に模様とか描くのもありだな。ワクワクしてきたぞ俺。


 さて、目標が増えちまったな。

 うんうん、いいことだ。


 くるりと崖に背を向けると、木々や草がガサガサと揺れているのに気が付いた。

 なんか来てやがるな。

 それも一体じゃねぇ、複数いやがる。

 コソコソしやがって。

 来るならきやがれ。


「グゥオオオオオッ!」


 軽く牽制に〖咆哮〗をかます。

 さてこれで逃げるか、飛び出してくるか。

 これでもなお待機してられるほど冷静で統率の取れた奴らだったら、ちっと面倒かもしれねぇな。


 草木のざわめきが止み、しんと静かになる。

 次の瞬間、十体の壺が……ツボガメが、草むらを出て俺へと向かってきた。


 即座にステータス確認。

 Lvや攻撃力、スキルが突飛なものはいない。

 当然文字化けしてる奴もいない。


 弔い合戦ってか?

 そういやツボガメも〖仲間を呼ぶ〗持ってたな。最後の叫び声で仲間を呼びやがったのか。

 でもコイツらそこまで足早くねぇし、逃げるって手もありなんだよな。


 堅くてまともに攻撃通んねぇから崖に投げるしかねぇし、あれ後味あんましよくなかったし、変な称号付くし。

 アイツら片っ端から崖に投げ込んでやったらLvもそれなりに上がりそうだけど、あくまでそれなり程度だからな。

 ちょっと効率は劣るけど、グレーウルフ狙ってもいいわけで。


 復讐に燃えてるとこ悪いけど、トンズラさせてもらってもいいかなコレ。

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