第23話

 スライムから逃走することに成功した俺は、息を切らしながら森の中を歩く。

 

 自らの無事を祝う反面、冷静になってからふと考える。

 ……アイツ、そんなにヤバい奴だったんかな?


 ステータスらしき数値もさして高くなかったし、ランクもF+って明記されてたからな……。


 〖ステータス閲覧〗が命綱な節があったから、それが使えなくなったからって過剰にビビっちまった気がすんな。

 Lv制だったから使えない相手がいるかもしれないとは予想はしてたけど、もしもステータス見れない相手がいるとしたら格上に違いないっていう先入観もそれを助長させた節もある。


 つーか、あの文字化けがキモ過ぎるのが悪いわ。

 いっそのこと何も表示されなかったらもうちっと落ち着けた自信がある。


 なんであんな水溜りにビビったんだ俺。

 今となってはそっちのが疑問だわ。



 次会ったら遠くから石でも投げてみるか……ん、なんだアレ?

 大木の陰に、藍色の壺のようなものが口を地面に着けるようにして落ちている。


 果物とか食い物入れとくのにいいかもしれんな。

 保存食も作ってみようと考えてたとこだし。

 置いてあるっつうか、捨てられてるって感じか?

 中身確認してから持ち主を探してみて、捨てられてるっぽかったら持って帰るとすっか。


 傍に寄ってみるが、人の気配はない。

 とりあえず、ひっくり返して中身を確認してみっかな。


 持ち上げようとしたところで、逆さの壺が飛び上がり、タックルしてきた。


「ガァッ!?」


 痛ェッ!?

 完全に不意を突かれた形になり、無防備な顎、胸部に強烈な打撃をもらう。


 謎の壺は俺をドツくと即座に後退し、間合いを取る。


 つつ……そんなにダメージはくらってねぇか。

 つっても骨に響く痛みがあんだけどコレ。


 壺を見直すと、下から真っ青な手足のようなものが出ている。

 なんだコイツ?

 モンスターなのは違いないはずだけど……。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ツボガメ

状態:通常

Lv :9/35

HP :28/28

MP :27/27

攻撃力:21

防御力:145

魔法力:43

素早さ:12

ランク:D-


特性スキル:

〖亀の甲羅:Lv4〗〖熱感知:Lv3〗

〖HP自動回復:Lv2〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv4〗〖魔法耐性:Lv3〗

〖麻痺耐性:Lv1〗〖水属性耐性:Lv1〗


通常スキル:

〖殻に籠る:Lv3〗〖噛みつき:Lv1〗〖アイアンタックル:Lv2〗

〖仲間を呼ぶ:Lv3〗〖スロウ:Lv1〗〖レスト:Lv1〗


称号スキル:

〖鉄壁の守り:Lv4〗〖愚鈍なる者:Lv2〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ツボガメ……ってことは亀なのか?

 手足出てるけど、尻尾も頭も見えないぞコイツ。


甲羅デカイっつうか、深すぎっつうか……。

 名前の通り、ツボみたいな甲羅を背負っていらっしゃる。

 コイツぶっ倒したらあの壺甲羅外せねぇかな。 


 アホみたいに堅いけど、他のステータスは大したことなさそうだ。

 気を付けるべきスキルもない。


 よくも不意打ちで襲いかかってきやがったなこのヤロウ。


 俺はツボガメとの距離を詰め、〖ドラゴンパンチ〗で下から真上へ、ブッ飛ばすように殴る。

 ほとんどアッパーだ。


 そして続けて、宙に浮いたツボガメの壺の入り口、腹の部分に〖ドラゴンパンチ〗!

 ツボガメは数メートルは飛び、その身体を木へと打ち付ける。


 つつ……拳が痛ぇ……。

 どんだけアホみたいに堅いんだ。

 俺、腹殴ったよな?


 ツボガメは平然と起き上がり、のそのそと俺から離れようとする。

 おいおい、ひょっとしてノーダメージってことはねぇだろうな。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ツボガメ

状態:通常

Lv :9/35

HP :24/28

MP :27/27

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 〖ドラゴンパンチ〗で二発殴ってたったの4しか減ってねぇのかよ。

 つまりあれか、仕留めようと思ったら14発連打する必要があるのか。

 クッソしんどいし、倒したときには壺甲羅がメタメタになってそうだな……。


 つっても、壺甲羅割らずに倒せる手段、俺ないよなぁ。

 〖ベビーブレス〗じゃ、あの防御力を通せねぇ。


 しかも起き上がるときに見たのだが、どうやら蓋のようなものを壺甲羅の中に持っているらしい。

 危険が迫ると手足を引っ込め、壺甲羅の口に蓋をするのだ。

 まるで栄螺のように。


 攻撃力なくて食えそうだから獲物としては絶好だし、倒すだけでも倒してみっか。

 こっちとしては命に危険はねぇわけだし、挑む価値はある。


 と、その前にもう一回ステータス確認してみっか。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ツボガメ

状態:通常

Lv :9/35

HP :28/28

MP :21/27

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 え、回復早くね!?

 もう4回復したのか? そんなもんなのか!?

 さすがに普通もっとゆっくりじゃね!?


 これが〖HP自動回復:Lv2〗の力かよ……って、MP減ってんじゃねぇか。

 単に〖レスト〗で回復したみたいだな。

 慎重というか、MP浪費が激しいというか。


 ま、そんなことはいい。

 俺は走って再びツボガメへと近づき、再度〖ドラゴンパンチ〗アッパーバージョンで宙に浮かせる。


 拳超痛い! 仕方ねぇ、それは堪えるか。

 自分の拳を割るくらいの勢いで行こう。


 宙に飛んだツボガメへ、左右から同時に〖ドラゴンパンチ〗を放ち、挟み撃ちにする。

 はい、これで三発!


 痛い! 我慢だ俺!


 再度アッパー!

 飛び上がって撃ち落とすように組んだ両手を振り下ろして叩き落とす!

 宙で一回転し、遠心力で威力を底上げして〖ドラゴンテイル〗!

 更にもう一回転して拳を振り落とし、地面に殴りつける!


 ツボガメの身体が、そのまま地中へとめり込む。


【称号スキル〖インファイター〗のLvが3から4へと上がりました。】


 これで七発……七発、しんど……。

 しんどいし、手がクッソ痛いんだけど。

 14連打とか無理無理。

 黒い俺の手が腫れてるんだけど? 俺の漆黒の鱗が剥がれてるんだけど?

 ちょっと一回休憩して、どれくらいダメージ与えたか確認しよう。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ツボガメ

状態:通常

Lv :9/35

HP :11/28

MP :21/27

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 予想より効いてる!

 うっしゃ後半分! 気合い入れっぞ!


 そう思った瞬間、ツボガメの身体を優しげな光が包み始めた。

 おい、やめろ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ツボガメ

状態:通常

Lv :9/35

HP :28/28

MP :15/27

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ……ああ、〖レスト〗唱えたのね、うん。

 そう来ると思ってたぜ! 何も対策はしてねぇけどな!



 俺はツボガメに掴みかかり、蓋へと爪を引っ掻ける。


「ガァァァァァァァッ!」


 開けぇぇぇぇっ! これさえなけりゃ、これさえなけりゃぁぁあァァッ!


 静かな森の中、俺の遠吠えだけが遠くまで響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る