第20話

 俺とタラン・ルージュは、互いに睨み合ったまま固まる。


 どうすればアイツをぶっ倒せるのか、いい手がまるで浮かばない。

 なまじ能力値が見えるので、分の悪い殴り合いに身を投じる気が削がれる。

 ステータスも、ブレス技の間合いも向こうの方が上だ。



 にしても、向こうは何でこんなずっと固まってるんだ?

 状態は今でも〖憤怒〗だし、すぐにでも俺をブッ飛ばしてやろうと考えているはずだ。

 さっき頭部蹴っ飛ばしたのだって、そこまで決定的な一撃でもなかったと思うが……。


 いや、どっちかというと俺を睨んでいるというより、観察しているというか……。

 今更なんで俺をそこまで観察する必要があるんだ?


 考えられることは……ああ、俺が毒で苦しまないのを訝しがってるのか?

 というより、俺に毒が回るのを待っているのか?

 がっつり吸い込んでいたからな。

 俺も、耐性スキルがここまで被害を押さえてくれるとは思わなかった。


 毒が回ってから確実に仕留めようと考えているのなら、この膠着をアイツが許容しているのも納得がいく。

 向こうさん効いたはずだと思い込んでいるのなら、その隙を突くことができるかもしれねぇ。


 蜘蛛の顔を観察し直す。

 間違いねぇ。コイツ、俺が毒で弱るのを待ってやがる。

 〖憤怒〗は残っているが、頭部を蹴っ飛ばされて実力差がさしてないことに気付いて、堅実な手を選んだんだな。


 だったら、やる価値はあるはずだ。


「グォォォォオッ……」


 俺は口を押さえ、その場に膝を着く。

 ちょっと咳き込んでみたり。

 これあれだな、効果なかったら超馬鹿みてぇだな。


 ちらり、タラン・ルージュの様子を窺う。

 大蜘蛛は引っ込めていた舌をだらりと垂らし、一気に突っ込んできた。

 気持ちいいくらいに引っ掛かってくれた。


【称号スキル〖嘘吐き〗のLvが1から2へと上がりました。】


 変なスキルを上げちまったが、命には代えられない。

 正々堂々なんかやってたらこっちが死んじまうわ。


 俺との距離が狭まってくると、タラン・ルージュは舌を引っ込め、宙へと飛んだ。

 舌を引っ込めた、ということは〖麻痺舌〗はない。

 〖毒毒〗を撃つためにわざわざ舌を引っ込めるはずもない。

 毒で弱った俺を、一気に〖噛みつく〗で仕留めに掛かってくるつもりだ。


 だったら、やれる。

 ちっと喉が痛いが、仕方ない。

 俺は素早く身体を起こし、空中にいるタラン・ルージュに向かい〖ベビーブレス〗を撃つ。


 宙では避けられまい。

 タラン・ルージュは急に起き上がった俺にビビリながらも、地面に〖蜘蛛の糸〗を発射し、自分の動きを変えようとする。

 が、熱風に触れた〖蜘蛛の糸〗が発火した。


 中途半端にスキルを無駄打ちしたタラン・ルージュは体勢を崩しながら熱風に呑まれ、不格好に地面に落下する。

 タラン・ルージュが地に落ちるより先にその上へと飛び乗り、〖ドラゴンパンチ〗で殴って叩き落とす。


 先手は取れた!

 だったらこの勝負、もらったも同然だ。

 このまま一気に潰す。


 タラン・ルージュは落下した衝撃でへしゃげ、ピクピクと細い足を動かす。


 俺はタラン・ルージュの背に爪を引っ掻け、そのまま〖転がる〗の要領で回転しながらも、その場に留まる。

 背中をメタメタに引っ掻き回し、回転の力と体重を乗せた尻尾で頭を叩き潰す。

 それがトドメになった。


【経験値を104得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を104得ました。】


 うし、一気に倒すことに成功した。

 この通知が来るとホントに安心する。


 104って、単体の相手からもらった経験値の中で最大だな。

 過去最大は、ミリアを村に連れて行くときに出くわしたグレーウルフLv15の60だ 。

 だいたい自分より二回りは下の奴ばっかり狙ってたし。


【〖厄病子竜〗のLvが8から14へと上がりました。】


 ひゅー、やっぱ、上を倒すと一気に上がるな。

 さて、これで例のスキルが来てくれるといいんだが。



【通常スキル〖ベビーブレス〗のLvが2から3へと上がりました。】


 うんうん、今回は本当に大助かりだった。

 ベビーとはいえ、やっぱリーチがある技はありがたいな。

 糸との相性も良かった。


【通常スキル〖ドラゴンテイルLv1〗を得ました。】


 ドラゴンテイル? 竜の尻尾?

 ああ、そういや俺、尻尾でトドメ刺したな。あれがスキルとして認定されたのか。


 それはいいんだけど……その、〖人化の術〗とか……。


【称号スキル〖害虫キラー〗のLvが2から3へと上がりました。】


 ああ、うん。

 アイツも虫だもんな。称号上がるのはわかるよ。

 ひょっとしたらタラン・ルージュをぶん殴ったとき、相手の怯みが結構大きかったの、この称号のお蔭かもしれねぇな。

 これがなかったら、最後畳み掛けられず負けてたかもしれねぇ。


 で、その、人間の姿になれる奴は……。


 …………。

 …………ああ、これで終わりですか。


 ひょっとして、あの種族紹介が大嘘だったとかねぇよな。

 〖神の声〗、あんまし性格良さそうじゃねぇし、あり得ないことではなさそう。

 いや、でも、さすがにそれは酷過ぎるだろ。


 なんだ? 俺、〖人化の術〗を習得するためにはなんかしなきゃダメなのか?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:厄病子竜

状態:通常

Lv :14/40

HP :20/92

MP :4/95

攻撃力:89

防御力:75

魔法力:85

素早さ:77

ランク:D+


特性スキル:

〖竜の鱗:Lv2〗〖神の声:Lv3〗〖グリシャ言語:Lv1〗

〖飛行:Lv1〗〖竜鱗粉:Lv1〗〖闇属性:Lv--〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv3〗〖落下耐性:Lv4〗〖飢餓耐性:Lv3〗

〖毒耐性:Lv3〗〖孤独耐性:Lv4〗〖魔法耐性:Lv2〗

〖闇属性耐性:Lv2〗〖火属性耐性:Lv1〗


通常スキル:

〖転がる:Lv4〗〖ステータス閲覧:Lv3〗〖ベビーブレス:Lv2〗

〖ホイッスル:Lv1〗〖ドラゴンパンチ:Lv2〗〖病魔の息:Lv1〗

〖毒牙:Lv1〗〖痺れ毒爪:Lv1〗〖ドラゴンテイル:Lv1〗


称号スキル:

〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗

〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv3〗〖害虫キラー:Lv3〗

〖嘘吐き:Lv2〗〖回避王:Lv1〗〖救護精神:Lv4〗

〖ちっぽけな勇者:Lv1〗〖悪の道:Lv2〗〖災害:Lv1〗

〖チキンランナー:Lv1〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 すでにベビードラゴンでLvMAXだったときのステータスを大きく上回っている。

 が、まだリトルロックドラゴンには敵わない。

 確かアイツは攻撃力が200近くまであったはずだ。


 いつかアイツを超えたい。

 確かCランクモンスターだったはずだ。俺とはランクから違う。

 もう一度進化すれば奴に勝てるのだろうか。

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