第21話
タラン・ルージュを討伐した俺は、近くにあった小さな洞穴に籠って休むことにした。
洞穴内で途中で狩ってきたグレーウルフLv4を爪で引き裂いて解体し、集めてきた枝に〖ベビーブレス〗で熱風を当てて発火させる。
煙がちょっと籠るけど、出口も結構すぐそこだからあんまし気にならない。
焚火でグレーウルフの肉を焼き、拾ってきたよくわからん実を潰して肉に擦り付け、獣臭さを抑える。
これは豆に似た赤い房のなる植物から採ったもので、ほとんど無味なのだが食欲をそそるいい匂いがするのだ。
胡椒代わりになるのではないかと考え、いくらか持って来てみた。
そこまで肉臭さが嫌なわけではないが、単に試してみたかったという面が大きい。
うむ、いい感じだ。
獣臭さを掻き消してくれ、ほんのり辛そうな香りが食欲を促進させてくれる。
悪くないぞ。この洞穴を拠点にして、いくらかあの赤い豆のような実を隅に集めておくか。
でも香辛料にしちゃちょっとベチャッとしてるし、外で乾燥させてみっかな。そっちのが保存も利きそう。
なんか楽しくなってきた。
【称号スキル〖コックさん:Lv1〗を得ました。】
……プライベート覗かれてるみたいで、あんまいい気分じゃねぇなぁ。
ふう、食った食った。
芋虫喰ったり蜘蛛喰ったりで感覚麻痺してたけど、やっぱこう、ちゃんと手を加えた奴は違うわ。
自分で作ったっていう満足感もあって精神衛生上とてもよろしい。
しかし〖コックさん〗か。
上手くスキルLv上げて、料理で村人にモテモテとかできねぇかな。
無理だな。どんな御馳走作って振る舞っても、この凶悪な外見がある以上『太らせてから喰う気なんだ。やられる前にやっちまうぞ』とか誤解されそう。
そもそも指が人間ほど器用に動かせねぇしな。爪も邪魔。
グレーウルフの余った毛皮と頭部、臓物の類を洞窟の隅へと押しやり、床の上で横になる。
ひんやりとした床もこれはこれで気持ちいいけど、あの毛皮床に敷いてみよっかな。
〖竜の鱗〗のお蔭か、ゴツゴツしてるとこ寝転がってもそんなに痛くねぇんだけどさ。
HPもMPも全然ねぇし、このまま今日はもうゆっくり休むことにすっかな。
Lv上がっても回復しないってのがなかなか厄介だ。
何が嫌って、HPの最大値が増えるから相対的にメッチャHPが少ない気がしてきて不安になるんだよな。
例えば〖HP:12/15〗くらいなら何とも思わねぇけど、そっからLv上がって〖HP:12/100〗とかになったら、なんかふとしたきっかけで死んじまいそうで気が気じゃない。
毎回Lv1まで引き戻されてから爆上げだから、頻繁にそういう状況になっちまうんだよな。
回復魔法〖レスト〗があったら多少はマシになるはずなんだけど、厄病子竜に進化してからぜんっぜん使えなくなっちまったからな。
〖悪の道〗のスキルLvが上がったせいか?
〖レスト〗を習得しようとして必死で練習してたのに、早速道を断たれて割とショック。
怪我した村人に回復魔法とかやったら信用得られそうだと思ってたんだけどな。
森にキノコとか採りに来てモンスターに襲われて怪我をした村人の傍に颯爽と現れ、〖レスト〗を掛けてやるわけよ。
ぶっちゃけモンスターが出るような森深くまで村人が来るかわかんねぇし、少なくとも俺は見たことないけど。
上手く行ったら村の守り神とか道祖神的な立ち位置に祀り上げられたりするんじゃね、とかちょっと妄想してたのに、完全に潰えちまったもんな。
進化したらまた機会があると信じたい。
今の俺だと病魔撒き散らすことしかできないからね。
一歩間違えたら村人が総出で討伐に来かねない。そうなったらこの森を出るしかねぇ。
容姿もすっかり変わっちまったからな。
ベビードラゴンはまだ愛嬌あって可愛らしかったけど、今の俺とか真っ黒だもんな。
目つきもあんまりよろしくない。
水面に浮かぶ自分の悪魔みたいな形相を見る度、溜め息しか出ないからねホント。
牙とか爪もあの頃より尖ってるし、あの娘ももう、俺見てもわかんねぇんじゃないのかな。
剣士に襲われたときも庇護欲誘うベビードラゴンだったから庇ってくれたけど、あの頃から黒い鱗に長い爪だったらそのまま殺されてたんじゃなかろうかとも思う。
〖人化の術〗に釣られてこの道選んじまったけど、やっぱ間違いだったんじゃなかろうか。
だってこれ、完全に人類の敵ルートだもん。
外見毒々しいし、スキルも変なのばっか増えるし。
ああ、プチエンジェルドラゴンとやらに進化しとけば違ったんじゃねぇのかなぁ。
今よりいくらかビジュアルも柔らかかったろうに。
せめて〖人化の術〗寄越せよマジで。
詐欺だろコレ。どこに訴えたらいいんだ。
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