第3話

 追ってくる追ってくる。

 身体くねらせながらダークワームが追ってくる。


 来いよ、有利な地形まで誘い出してぶっ飛ばしてやんよ。

 俺もいつまでも卵の姿でいる気はねぇし、こんな意味わかんねぇままにくたばる気もねぇ。


 ステータスによれば素早さでは勝っているが、攻撃力は遥かに劣っている。

 HPだって俺の方がずっと低い。

 一発もらえば死にかねない。


 素早さのアドバンテージで先制攻撃を得られても、反撃をもらえばそれで終わりだ。

 だったら有利な状況に持っていき、先制攻撃の一撃で確実に仕留める。これしかない。

 どの攻撃でどれだけダメージを与えられるかさっぱりだが、それに賭ける。


「シャァーッ!」


 ダークワームが鳴く。


 逃げる。逃げる。

 上り坂を登り、条件の良さそうな場所を探す。

 狙うのは、数メートル程度の段差になっている地形。

 俺が落ちても、ギリギリ割れずに堪えられそうな。


 目的にあった小さな崖を見つけ、その崖沿いを走る。

 いいぞ、ダークワームはきっちり俺を追ってきている。

 そうだ、いい子だぞ。その調子でどんどんついてきやがれ。


 徐々にスピードを落とし、ダークワームを引き付ける。


「シャーッ!」


 俺のスタミナが落ちてきたと踏んだのか、鳴き声がどことなく嬉しそうだ。

 やっと奴を喰えると、そう思ったのだろう。

 はん、暢気なものだな。卵だと思って馬鹿にしやがってよ!


 これで終わらせる。

 俺はスピードを引き上げ、それから一気に旋回する。

 身体が長い分、奴は方向転換に時間が掛かる。


 俺は旋回しながら、足を殻の中に引っ込め、本能のままに〖転がる〗。

 通常スキル〖転がる:Lv2〗だ。

 これで曲がりながらでも一気に加速できる。


 まだこっちの動きに対応しきれていないダークワームの側面に、思いっ切り転がりながら体当たりをぶちかます。


「ギチェッ!」


 卵の殻が摩擦力でダークワームの表面を削る。

 そのまま体重を込め、一気に前に押し込む。


 まずは先制攻撃に成功。

 これだけでは奴の体力は削りきれないだろう。だが、そのための崖っぷちだ。


 そのまま奴を巻き込み、崖下にダイブ。

 ダークワームを下敷きに地面に落下する。


 転がりの勢いと重力加速度、俺の体重がダークワームに乗っかる。

 俺は〖落下耐性:Lv2〗という便利なものがあるが、奴はそんなものを持っていない。


 終わってくれ。

 これでピンピンしてるほどタフだったら、俺には打つ手がない。


「アジェェエッ!」


 地面に激突!

 ダークワームをクッションにしてもなお、卵全体に打撃が走る。


 まともにくらったダークワームは身体をへこませ、口から青黒い体液を吐き出して横たわっていた。

 つつ……、俺も結構くらったな。〖落下耐性〗を過信し過ぎたか?


 まぁでも、これで倒せてたら結果オーライ……。


 よろよろと、ダークワームが起き上がる。

 え、嘘だろ? なぁ、無理すんなって! 口と身体から血ィみたいなの出てるじゃん!

 寝てた方がいいって!


 ダークワームはその虚ろな双眸を俺に向け、ぐぐっと後方部で踏ん張り、自らの上体を持ち上げる。 

 何? 何する気?

 めっちゃ怒ってるじゃんコレ!


「キシャァァァァアアアアッッ!」


 最期にそれだけ鳴いて、ダークワームは再び地の上に倒れた。


 な、なんだよビビらせやがって……え、これ、死んだよな?

 今度こそ死んだよな?


【経験値を12得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を12得ました。】


【〖ドラゴンエッグ〗のLvが1から5へと上がりました。】

【〖ドラゴンエッグ〗のLvがMAXになりました。】

【進化条件を満たしました。】


 勝った! 勝ったぞ!

 逃げるしかできなかった相手をぶっ潰してやったぞ!


 にしても、一気にLv上がったな。

 称号スキル〖歩く卵:Lv--〗とやらのお蔭か?

 よくわかんねぇけど、経験値を引き上げてくれるみたいだな。

 倍って結構ヤバくね?


 ただ……なんというか、最期の断末魔、変な声だったな。

 いつもの鳴き声より甲高いっつうか。まぁ、死んじまったから何もできないだろうが。


 さて、どうしてやろう。

 こいつの身体をじっくり食してやろうか。

 散々虫けら貪ってきたんだから、今更デッカイ芋虫喰うのに怖気づいたりしねぇっつうの。

 成長するために栄養素得なきゃなんねぇんだよこっちは。


 殻に空いている口の部分から、ダークワームの背に齧りつく。

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