最終章 花空、未来へ。

第30話 卒業

 あれから一年がたった。今日は、三月九日。

 ポカポカな陽気の中、俺は卒業式が終わった体育館を後にする。左手には卒業証書を持って。

 校庭の桜はまだ満開とまではいかずとも、綺麗で美しい花を咲かせていた。

「おい彩太ー! はやく来いよー!」

 向こうで基が俺を呼んでいる。

「おう!」

 俺は友人たちの元へ駆け寄る。

 俺、基、隆二、柊斗のいつもの四人。この四人で学校で集まって話すのも今日で最後か……。そう考えると、しんみりする。ありふれた景色が、かけがえのないものだったんだな……。

 いつも俺を支えてくれた友人たち。こいつらには感謝してもしきれない。

「卒業おめでとう!」

 いつもの元気の基。

「卒業してもずっと友達だからな!」

 隆二はドヤ顔でサムズアップする。

「あたりまえっしょ!」

 柊斗はチャラい笑みを浮かべる。

 これがいつもの俺らだった。

「みんな……今までありがとな!」

「ちょ、なんだよいきなり!」

「恥ずかしいな!」

「まあアヤタらしいな」

「へへっ」

 やっぱりこいつらといると明るくなれる。

 あ、そうだ。

「写真撮らね?」

「お、いいな! 撮ろうぜ!」

 桜の木をバックに、四人で写真を撮る。

「めっちゃいい写真だな……」

 全員の笑顔は、太陽みたいにキラキラ輝いていた。宝物の一枚だ。

「……はじめくんー」

 俺らが写真を確認しているとき、少し遠慮しがちな高い声がかかる。

「お、由香!」

 基の彼女である安達由香さんだ。

「由香、今日もめちゃくちゃかわいいな!」

「もう……はじめ君……!」

 安達さんは顔を赤くする。相変わらず二人はラブラブのようだ。基はこちらを向き、

「わりぃ! 俺このあと由香と予定あるから!」

 と、満開も笑顔で言ってくる。

「知ってますよーだ」

「アツアツだな!」

 基はいつも明るくて、俺らを元気にしてくれた。そして、これからも沢山の人を元気にさせ続けるのだろう。もちろん、恋人も。

「じゃあな!」

「おう!」

 基は右手を挙げて、想い人と歩いていく。

「あやた、しゅうと、悪いが俺もここでおいとまする! 実は俺も彼女と予定がある!」

「えー、リュウジもかよ」

「隆二の彼女って、二年の頃に言ってた人か?」

「おう! そうだぜ!」

「へー、リュウジにしては長く続いてんじゃん」

「おう! 今回の彼女は一生大切にしたいと思っている!」

 隆二はドヤ顔でサムズアップする。

「へいへい、リュウジもアツアツじゃんかよ……」

 柊斗が羨ましそうに言う。

 隆二はちょっとおかしいけど、男らしくて困ったときは誰よりも頼りになる、かっこいい奴だ。きっとこれからも、隆二は隆二らしく豪快に進んでいくんだろう。

「あばよ!」

「じゃあな!」

 隆二はガツガツと歩いていく。

「ったく、みんなして彼女彼女って羨ましいなぁ!」

 柊斗が羨ましそうに言ったその時――、

「あ、あの……! 斉賀柊斗くん!」

「……ハイ?」

 同じ卒業生と思われる、ロングヘアーでスタイルのいい美人が柊斗に話しかける。その子は、真っ赤な顔で言う。

「いきなりでほんとごめんなさい……! わ、わたし、クラスは違ったんだけど、斉賀くんのことずっと見てて……!」

 これは……――

「……わたし、ずっと斉賀くんのことが好きでした! もしよかったら私と付き合ってください!」

「……えぇ⁉」

 柊斗は驚きの声を上げる。

「ええっと……な、なんていうか――」

「ちょっと待ってくださいっ!」

 髪をツインテールで結んだ、小柄で少し童顔な可愛らしい女子が、柊斗とさっきの女の子の間に割って入る。制服のリボンから、俺らの一つ後輩のようだ。

「私も、ずっと斉賀先輩のことが好きでした! つ、付き合ってくださいっ!」

「……ええぇ……⁉」

 柊斗は驚きを越えて、どこか呆然としていた。

 急にこんな美人、しかも二人から告白されたら戸惑うのも無理ない。

 ……どうやら柊斗の青春はやっと始まりを迎えるようだ。

 柊斗は、いつも俺らの恋を応援してくれていた。自分だって恋をしたかったんだろうけど、柊斗の恋は今までなかなかうまくいっていなかった。

 それでも、柊斗はいつも俺らのことを考えてくれていた。時には、本気で思いをぶつけてきてくれた。

 見た目は少しチャラチャラしてるけど、柊斗は友達想いで優しい、めちゃくちゃいいやつなんだ。

 そんな柊斗の恋愛が今までうまくいってなかったことがおかしいのかもしれない。

「柊斗、俺行くわ!」

「ど、どうしようアヤタ……! 美少女JK二人からいきなり告白されちゃった……!」

「よかったじゃん。……俺、柊斗の恋は全力で応援するから! マジで頑張れよ‼」

「アヤタ……! ありがとう!」

「じゃあ俺、邪魔だと思うから。じゃあな!」

「うん……! じゃあね、アヤタ!」

 柊斗と笑顔で別れる。柊斗の恋がうまくいくことを心から願って。


 大切な友人たちと別れた後、俺はある場所に向かう。

 一年前、告白をしたあの教室へ……。

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