第27話 宣言

 その日の夜、俺は友人に電話をしていた。


「もしもしー、基ー?」

『おう! 今日学校来なくてどうしたんだ?』

 電話越しでも明るい基の声。なんだか安心感がある。

「ちょっと体調悪くてね……。そんなことよりさ……」

 俺は宣言するように、

「俺、羽島さんに告白しようと思う」

 堂々と言った。

『……え⁉ マジで⁉』

 いきなりの言葉に混乱している基。

『な、なんでいきなり、告白なんて……?』

「もう春休みで羽島さんと会えなくなっちゃうし……このままだと羽島さんが誰かに取られちゃう気がしたからかな」

 俺は今朝、決めた。羽島さんに告白することを。

 このままだと、羽島さんと上峯が付き合ってしまうことに他なかった。

 だから、その前に、『手遅れ』になる前に、想いを伝えようと思った

 もう今回は、逃げない。

『そうかー……。でも、もうちょっと仲良くなってからとかじゃダメなの?』

「本当はそっちの方がいいのかもしれないけど……」

 一語一語、覚悟を決めて話す。

「今までも羽島さんと仲良くなりたいって思ってたんだけど、俺チキって全然アピールできなくてさ……。それに、きっともう時間がないから」

 春休み後に、羽島さんが上峯と付き合いました、なんてことになったら絶対後悔する。だから、これがラストチャンスなんだ。

 OKなんてもらえるわけがないってことも、分かっていた。この状況から上峯を差し置いて羽島さんと付き合うなんて、どう考えても無理だって、分かっていた。

 でも、それでも諦めたくなかった。そんな簡単に諦められるほどの恋じゃなかった。羽島さんが別の人と付き合うことを黙って見ているだけなんて、嫌だった。

 この初恋に、最後まで後悔せずにぶつかりたかった。

『そっか……!』

 基はいつもの明るい声で言う。

『俺だってけっこう勢いで告白したし! 俺は誰がなんと言おうと彩太を応援してるぞ! 頑張れよ!』

「基……。ありがとう」

 基の声で元気づけられるようだった。


‎✿ ‎


「隆二、俺羽島さんに告白することにしたわ」

『なにっ⁉』

 隆二が声を荒らげる。

「このままじゃダメだと思って。決めた」

『そうか……。でも、正直恋愛マスターの俺から言わせると、可能性は低いぞ』

 隆二が少し申し訳なさそうに言う。

「それは分かってる。でも、もうチキって終わりたくないんだ。後悔したくないんだ」

 俺なんかじゃ叶わない。そんなの分かってる。それでも、簡単に諦められるものじゃないんだ。

 そんな自己完結で終われる恋じゃないんだ。

『あやた! お前すげぇな!』

「……え?」

 隆二は電話越しでも大きく豪快な声で言う。

『そんなこと、誰にでもできることじゃないぞ! まじですごいと思う‼』

「あ、ありがとう」

 まさかこんな賞賛を受けるとは思ってなかったので、俺は驚きを浮かべる。

『俺にその気持ちを止める権利はないっ‼ あやた! ぶちかましてこい‼』

「……! おう‼」

 隆二の熱い言葉に、勇気をもらった。


‎✿ ‎


「柊斗、俺羽島さんに告白することにしたわ」

『……へぇ』

 柊斗は昨日のようなシリアスな声で言う。

『でも、今羽島さんと上峯はいい感じだよ』

 ずっしりと重い言葉が俺を覆う。でも、負けない。

「俺、今までずっと羽島さんのことが好きだったのに、全然自分から行けなくて。ずっとチキってて。それで、めちゃくちゃ後悔してるんだ。あの時ちゃんとしてたらもっと変わってたのかなって」

 あの頃を思い返して、苦笑いをする。

「それでも、好きの気持ちは変わらないんだ。羽島さんが大好きなんだ。羽島さんが誰かに取られるなんて、絶対に嫌だ」

 俺は力強く言う。

「だから、もう後悔したくないんだ。ちゃんと、逃げないでぶつかりたい。最後のチャンスを、逃したくないんだ」

 こんな状況になったのも俺のせい。こんな状況でも、最後まで諦められない。そんな本物の恋。

『……ヘヘっ。やっとアヤタらしいな』

 柊斗はいつもの調子で笑った。

『それでこそアヤタだよ。オレ、アヤタには絶対にうまくいってほしいから。マジで。だからずっとチキってるアヤタを見てて、ちょっとイライラして色々言っちゃったマジごめん』

 柊斗は申し訳なさそうに言う。柊斗はやっぱり俺のことを思ってくれていたんだ。

『アヤタ、オレ絶対にうまくいくと思うよ! オレが言うんだから間違いないっしょ! ガンバってねっ!!』

「柊斗……」

 柊斗だって、自分の恋がうまくいっていなくて辛い想いをしている。それなのに、自分のことよりも俺のことを思ってくれている……。柊斗、本当にいいやつだ……。

「ありがとう……!」

 柊斗から、自信がもらえた気がした。


‪✿‬


『突然ごめん!

 テスト明けの三月九日の卒業式の日、言いたいことがあるので卒業式が終わったら教室に来てもらえませんか?』

 その夜、俺はそう想い人羽島華奈へラインをした。

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