第25話 敗北

 青春は日々、どんどん進んでいく。この恋も、きっと知らぬ間に進む。



 もうすぐ三月だが、今日は一段と寒い。まるで冬のような冷たい風が吹く中、学校の門を早足で駆ける。

 上峯と奥山さんが別れた事を知った日の翌日。

 昨日の夜は、色々考えていて眠れなかったので寝坊してしまった。そのため今日は一人だ。

 門の通過タイムは八時七分。なんとか間に合いそうだ。

 俺はスピードを緩め、ゆっくり呼吸を整えながら歩く。

「あ……」

 俺の前を歩いていたを見て、つい声が出てしまった。

 俺よりも高い身長に、目にかかるくらいの長い髪。どこかダルそうに歩くそいつは、申し分なくイケメンの雰囲気を全開で放っていた。

 上峯碧だ。

 悔しいが、やっぱりかっこいい。

 こいつに勝ってやる、って意気込んで今まで色々やってきたが、まだまだこいつには到底敵いそうにない。

 俺は劣等感を感じながら、強がりで後ろから上峯を睨んでやった。いや俺虚しい。

 こんな何気ない日常の一幕から、突然事は起こった。

 俺は上峯の後ろに続いて校舎に入る。

 下駄箱の先には、何やら五、六人くらいの女子がたむろしていた。その中心には、一際輝いて見える人、羽島さんがいた。

 羽島さんはいつもより顔を赤くして、どこか不安そうな顔をしていた。

 俺の前には上峯がいる。

 ただならぬ嫌な予感がした。

 俺は咄嗟に下駄箱の影に隠れ、様子を窺うことにした。

 上峯は羽島さん達のことをまったく気にせず、靴を履き替え教室に向かおうとする。

 羽島さんを囲っていた女子たちが、一斉に羽島さんの背中を押す。

 羽島さんは真っ赤な顔をしながら、少し躊躇しつつ前へと進む。

 そして、羽島さんは、上峯のもとへ近づき、

「お、おはよう!」

 と声をかけた。

 野次馬の女子たちが声を潜めて歓声をあげる。

 紅色しながら浮かべる、少しぎこちない笑顔。足は少し震えていた。

 それは姿は、の姿だった。

 上峯は、一瞬驚いた表情をした後、

「おはよう!」

 と爽やかな王子様スマイルを浮かべて言った。

 そして、羽島さんと上峯はなにか談笑しながら一緒に教室へと歩いて行った。

『キャー!!』

 女子たちは一段と大きな盛り上がり。

『華奈すごーい!』

『これは脈アリだよ!』

『このまま付き合えちゃうんじゃない⁉』

『絶対そうだよ!』

 そんな声が聞こえてくる。

 ――――。

 俺は踵を返し、逃げるように走っていた。

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