第24話 忠告

 冬は終盤、徐々に寒さも和らぐなか、俺らは試練の真っ最中だった。

「テストやばい‼」

 いつもの通学路に響く基の元気な声。

 今日は三月三日、学年末テストは早くも明日に迫っていた。

「余裕だろ!」

 豪快に笑ってみせるのは隆二だ。

「お前毎回そう言って赤点ばっかだろ……」

「そんなことはない!」

 隆二はドヤ顔でサムズアップする。そんなことはある。

「昨日由香と通話しながら勉強したんだけど全然集中できなかったわぁ!」

 基は安定の惚気だ。

「羨ましすぎるな……!」

 俺も羽島さんと勉強通話して、羽島さんが分からないところ教えてあげて、いつの間にか勉強なんかそっちのけで夜遅くまで話してて……なんて夢みたいな妄想をしてしまう。虚しい。

「由香気付いたら寝てて! まじでかわいかったなぁ~」

「ソダネ!」

 いつも通りヘラヘラしていた柊斗だが、ふと真剣な顔をしてこちらを向く。

「アヤタはどうなの?」

 どうなの? とは、勉強に対して聞かれているのではなく、きっと恋愛に対して聞かれている。

「……いつも通りかなー」

 俺は小さな声で言う。

「ちなみに前にいるけどな!」

 前を見ると、長い髪を低めのお団子にして結び、後ろ姿からもわかる細い腰。あの人は圧倒的にかわいい雰囲気で歩いていた。

 俺は羽島さんから目を逸らす。

 羽島さんを見るだけで身体が熱くなって、呼吸のリズムがおかしくなる。

「行かないの?」

 柊斗はどこか試すように聞いてくる。

「……無理っしょ」

 逃げるように、口籠った声で言う。

 それに対し、柊斗ははぁー、とため息をつく。

「彩太最近いつもそんな調子だよな。なんかあったの?」

「いや、なんもない……。なんもないからこそ、みたいな……」

 自分でも何を言っているのかよく分からない。

「つまり、チキンだな!」

「……おっしゃる通りです」

 好き避けとかかっこつけて言っているが、結局は俺がチキってるだけだ。そんなこと自分でも分かっている。

 でも、いざ話すとなると、いざ姿を見ると、逃げてしまう。ドキドキが体内で爆発して、吐きそうになる。好きすぎて、逃げてしまう。

 これじゃあいつまでも前に進めないな……。

「アヤタ、ダラダラしてると取られちゃうよ」

「……え?」

 柊斗は珍しく真顔でそんなことを言ってくる。取られちゃう、ってどういうことだ……。

「これ極秘情報だけどアヤタにはトクベツに教えてあげる」

「お、おう……」

 柊斗は表情を崩さず、彩太の耳元でシリアスに囁く。

「単刀直入に言うと、上峯と奥山さんが別れた」

「えっ……!」

 上峯と奥山さんが……⁉ 嘘だろ⁉

「オレの信頼できる情報網からの情報だから、ガチだと思うよ」

「……まじか」

 あんな帰り道でキスするぐらいラブラブだったのに……。もしかしたら高校生の恋愛なんてそんな儚いものなのかもしれない……。

 そんなことはどうでもよくて、上峯と奥山さんが別れたってことは……、上峯が今フリーになってるということだ。

 全身に焦りが沸いてくる。

「ダラダラしてると、になっちゃうよ」

「……お、おう」

 羽島さんは一言も上峯を諦めるなんて言ってなかった。上峯がフリーになった今、羽島さんと上峯の仲が進展してもおかしくない、ということだ。

 羽島さんの恋がうまくいってない、という状況にどこか安心している自分もいた。

 しかし、これからはこの状況が変わってくるかもしれない。上峯が羽島さんに振り向いてしまっても、おかしくない。上峯に羽島さんを取られても、おかしくない。

 第一、あんなにかわいくて完璧な羽島さんに今彼氏がいないなんて、奇跡のようなものだ。

 本当にダラダラしていると、もう手遅れになってしまう。

「なー、どういうこと?」

「俺も分かんなかったぞ!」

 柊斗にはキスを目撃した時に会った関係で少し話していたのだが、基と隆二には何も話していなかったので、不可解な顔をしている。

「それは神のみぞ知る、ってことだよ」

「いやどういうことだよ!」

 柊斗はチャラい笑みを浮かべる。さっきまでとは違いいつものチャラい様子だ。

 俺は焦燥に飲み込まれながら、引きつった笑みを浮かべた。

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