第20話 機宜
その日の放課後、いつも通り部室に集まった野球部だが、キャプテンの一言でガラッと空気が変わる。
「今日は先生達が急遽出張になったので、オフです!」
「「「「「うぉーーー‼」」」」」
その言葉にガッツポーズをする者、仲間とハイタッチをする者、帽子を深くかぶり涙を流して喜ぶ者などで、部室はどんちゃん騒ぎになった。
冬練はまじでキツいから、それが一日減るだけでも計り知れないほど大きい事だ。喜んではいけないと心のどこかで思うが、つい俺も喜んでしまう。
「なあ、カラオケとか行かね!」
「おう! いいぜ!」
俺は隆二ら数名の仲のいい奴らでカラオケに行く約束をした。
軽い足取りで部室を出ると……、羽島さんが一人で校門から出て行く姿が見えた。
羽島さんとはあれから、ラインでやり取りをしていた。
実は羽島さんは、上峯とまだほとんど話したことがなかったらしい。
羽島さんの一目惚れ、というやつだった。
だから、全く話すきっかけがなくて、上峯と繋がりのある俺に相談した、ということらしい。
俺も羽島さんに一目惚れされるような容姿だったらよかったな……、と無理な妄想をする。
俺はとりあえず上峯のラインを送り、上峯が実はサッカーが好きだとか、甘い物に目がないとかの役に立ちそうな情報も教えてあげた。
羽島さんに相談を受けたあの日から、直接は話せていない。
話をするチャンスが全くなかった訳ではなかったが、羽島さんは俺の事を想っていないんだって思って、逃げてしまっていた。
でも、今日が終業式。今日を逃せばもう今年いっぱい話すことはできない。
ここで行かなきゃ、絶対後悔する。そんな気がした。
「隆二、悪いんだけど、カラオケパスしていい?」
「がんばれよ、難儀な恋!」
隆二はドヤ顔でサムズアップする。
「ありがとう……!」
隆二に感謝しながら、俺は校門へ足を走らせた。
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