第19話 友情

 あれから一週間ほどが過ぎ、今日は終業式だ。

 冬用の手袋とマフラーを付けた俺達だが、会話はいつもと全く変わらない。

「いやー! 俺昨日も由香と電話しちゃった!」

 いつもの基の惚気話。

 ……くー、羨ましい。

 両想いって、本当にすごいことだと思う。何人もの異性がいる中で、二人の好きが重なる。こんなの、奇跡みたいなものだと思う。

 幸せそうだな……。

 心に羨ましさが湧くが、いつか俺もそうなりたい、と一人で強く心を燃やす。

「ゲフンゲフン、お前ら、じつは俺も言うことがある!」

 隆二がなにやらいつもよりかしこまった口調で言う。

「なんだ。自首することにしたのか?」

「俺はなにも罪を犯していない!」

 キレのあるツッコミをして、隆二はドヤ顔で言う。

「実はな、彼女ができた‼」

「「「……まじかよ!」」」

 修学旅行で前の彼女と別れてから一ヶ月も経ってないのに……!

 しかもこいつ、の彼女だぞ……!

 そんなかっこいいわけでもないのにこんなに彼女ができるなんて、こいつはただならぬ恋愛テクニックを持っているのかもしれない。

「リュウジ! オレにその恋愛テクニックを教えてくれー!」

 柊斗が隆二に寄り縋る。

「ハッハッハ、恋愛は積極性と勇気だ!」

 わかったようなことを言うが、案外その通りなのかもしれない。

「なるほど……パネェ」

 柊斗は隆二の話を真面目に聞く。

 柊斗だって、恋愛に熱心な奴なんだ。

 修学旅行の時も、柊斗は自分から羽島さんと写真撮ろうって言ってたんだし、俺らの恋愛沙汰に対して誰よりも羨ましがっていたのは柊斗だ。今は歯車が合っていないかもしれないが、柊斗の恋は絶対うまくいってほしい。でも、もしかしたら……。

「あ、そういえばオレ、気になってる人がいるんよね!」

 胸がチクッと痛む。修学旅行のときのあの感じ……。柊斗も羽島さんのことが好きなのかもしれない。もしかしてここで宣戦布告されるのか……?

「お、誰だ?」

 基が聞く。

「隣りのクラスの奥山さん! あの人マジパネェ!」

 ……あれ……。俺の不安は的中しなかった。

 奥山さん――奥山美咲おくやまみさきさんは、隣のクラスで、大人しくて髪の長い綺麗な人、だった気がする。隣のクラスだし詳しくは知らないが。

「実はオレ、前まで羽島さんのことが気になってたんだよね!」

「あっ……」

 柊斗は突然そんなことを言う。

 やっぱりそうだったのか……。

 柊斗は言葉を続ける。

「でも、アヤタと羽島さん見てたら、オレには無理かなーって思って諦めた! そして新しい恋に出会った!」

「柊斗……」

 柊斗は曇りのない笑顔で言う。

「だからアヤタは頑張ってくれよな!」

 柊斗……。想いが届かないのは辛いと思う。それなのに、俺の恋を応援してくれる。

 チャラそうに装ってるけど、こいつは本当にいい奴なんだ。

「ごめんな柊斗……」

「アヤタが謝る必要なんてないよ。遠慮せず恋してくれ!」

 柊斗は明るく言う。

「ありがとう……! お互い頑張ろうぜ!」

「オレにかかれば恋なんて余裕だし!」

 柊斗の瞳は挑戦的に燃えていた。

「彩太と華奈ちゃんは今どんな感じなんだ?」

 基が俺に聞いてくる。

「なんていうか……、難儀な恋って感じかな……」

 難儀な恋――そう形容するのが正しいように思った。

「うぉー! どういう恋なんだ!?」

「パネェ! 気になる!」

「期待させて悪いけど……、ちょっとまだ言えないわ」

 羽島さんに好きな人がいる、ってバラすのはいくら親友たちでもダメだ。羽島さんとの約束は守らなければいけない。

「気になる! 今度教えてくれよ!」

「アドバイスなら俺に聞くといい」

「アヤタ、ガンバってくれよ!」

 流石親友たち、俺が本当に言えない雰囲気を出すと無理に聞いてこない。

 こんないい友達を作れたのは、俺の高校生活での最大の財産かもしれないな……。

「今日で今年最後だし、終業式ちょっと遅刻してマック行くのどう?」

「ありよりのあり」

「それしか勝たん」

「サンセー!」

「よっしゃ! そうと決まれば行くぞ!」

 俺ら四人は学校と反対側のホームへと翻す。

 俺らみんな、恋をして、青春している。でも、それとは別の、こういう青春も最高なんだ。

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