第15話 実行
“キーンコーンカーンコーン”
「ペンを置いてください」
期末考査の最後のテストの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
ついにこの時が来てしまった。
今日のテストは、全く身が入らなかった。どこかふわふわした感覚で問題を解いていた。
どうだっていいわけないのに、今はそんなことどうでもいいと思ってしまう。
今日は大切な日だから。
昨日、俺は冬休み中に羽島さんをデートに誘うことを決めた。
ラインで誘うこともできたが、やっぱり直接言った方がいいと思ったので、今日の放課後に誘うことにした。
テストが回収され、そのまま担任が帰りのホームルームを始める。
勝負の時は刻一刻と迫ってきている。
このままずっと先生が話しててほしい。解放されなくない。逃げたい。
そんな弱音を飲み込む。
頑張らなきゃ。前に進むのは、簡単なことなわけがない。勇気を振り絞って、頑張るから前に進めるんだ。
「はぁーい、じゃあ次の登校日は答案返却日ねぇー。日直さん号令おねがいしまぁーす」
担任の間延びした声が響く。それは同時に、勝負の始まりを意味する。
「きをつけー、さようならー」
「「「「「さようなら」」」」」
号令とともに、ホームルームが終わった。
俺がひとりでに緊張していることなんて誰も知らず、テストから解放されたことに盛り上がっている教室。
そして、その時は突然訪れる。
「福島君! ラインの話ってなにかな?」
まっすぐ下ろされた髪に、つぶらな瞳、いつもの明るい声。羽島さんが話しかけてくれた。
「ちょっと上の階行かない?」
「あ、いいよ!」
騒がしさに溢れる俺らの教室のフロアの上の階、五階は副教科の教室しかないから恐らく誰もいないだろう。
二人で階段を上り、四階とは比べ物にならないほど静まり返った廊下で俺は羽島さんと向き合う。
「どうしたの?」
羽島さんが曇りのない顔でこっちを見る。
挨拶の時の何倍もの緊張が胸に降り注ぐ。この状況から早く逃げたい、なんて思ってしまう。
でも、逃げずに進む。
ここで逃げたら、もうずっとこのままの関係で終わってしまう。もっと、進展したいんだ。
俺はゆっくりと、言葉を繰り出す。
「修学旅行でさ、俺ら仲良くなれたじゃん!」
「うん!」
羽島さんが自然に相槌を入れる。
「それでさ、もっと仲良くなれたらいいなって思うから、もしよかったら冬休み中どっか遊びに行かない?」
い、言い切ったぁ。昨日一時間くらいかけて考えていたセリフを、緊張しながらも言えた。束の間の一安心ではある。
だが、言い切った瞬間からより緊張が高まる。
俺の申し出に、羽島さんは――
「あ、全然いいよ! 行こ!」
羽島さんはいつもの満開の笑みで答えた。
「ほ、ほんとに……!」
や、やった! 羽島さんがオッケーしてくれた……!
「うん! 予定合ったらだけど全然いいよ!」
羽島さんはいつも通り明るく応えてくれる。
どこか異性として意識されてないんじゃないかという不安もあるが、心は満足感で満たされていた。
勇気を出してよかったぁ。
「あ、ありがとう!」
これで、きっと一歩前に進めた。と、この時は思っていた。
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