第3章 進展、行く末。

第13話 日常

 修学旅行が終わり、俺らの物語も進んでいく。



 修学旅行が終わり三日後。沖縄の温暖な気候が恋しくなるような寒さに包まれる。

 今日は修学旅行後、最初の登校日だ。

 まだ修学旅行の余韻が冷めやらぬなか、俺ら四人はいつも通りくだらない雑談をしながら登校していた。

「昨日ユカと電話してさ! まじで可愛いの!」

 相変わらずハイテンションな基。基は付き合いたてのカップルで、ラブラブのようだ。

 電話かぁー。俺はいきなりリア充になってしまった基に羨望の眼差しを向ける。

「いいなーーー‼」

 柊斗は心から羨ましそうに言う。

「柊斗よ、お前には俺がいるだろ!」

 ドヤ顔でサムズアップする隆二。

「うるせぇキモイ」

「おぉぉ⁉ そんな言うか⁉」

 そんないつも通りの会話をしながら改札を抜ける。

 そこに、あの人はいた。

 意識しだしてから初めて見た制服姿。今日は長い髪を一本のポニーテールに結び、スカート丈は短くしていない。久しぶりに見たからだろうか、ものすごくかわいい。後ろ姿だけで、誰よりもかわいい。

 そんな神聖とも言える羽島さんの後ろ姿に、俺は距離をとった。

 ……つまり、チキった。

 俺の妄想の中では、駅でたまたま会えて簡単に「おはよう!」って声掛けられたんだけど……そんな簡単にはいかなかった。

 ……あれ以来、羽島さんとは話していない。ラインなどで連絡を取ることもない。

 いきなりキーホルダーあげるとかやっぱりやりすぎだったか? とか色々考えてしまっている。恋愛ってムズい。

 そんなこともあって、羽島さんに萎縮してしまった。

 本当は声を掛けたいかもだけど……、勇気が出ない。俺には無理だ。

 俺は遠くからただ羽島さんの後ろ姿を眺めていた。やばい、何やってるんだ俺は……。

「ん? どうしたんだ、彩太?」

 俺の変わった様子にみんなが気付く。そして、状況を把握する。

「あ、羽島さんじゃん! 彩太、行ってこいよ!」

 基が明るく背中を押してくれる。

 それでも……俺なんかが……。

「えー……。そ、それは……えぐい」

「なにがエグいんだ彩太! こういうのはなぁ、積極的に行くんだよ!」

 隆二が強く俺の背中を叩き、言い放つ。隆二が言うと不思議と説得力があるな……。

「で、でも……勇気でないし……」

 まだウジウジしている俺。本当に情けないなぁ……。

「アヤタ、行ってこいよ。メチャクチャ緊張するのは分かるけど、絶対勇気出した方がいい!」

「柊斗……!」

 柊斗はで言う。

「ほら、行ってこい!」

 三人が俺の背中を押す。

 三人の言葉に、俺はやっと覚悟を決める。

 よく思うけど、俺は本当にいい友人に恵まれたと思う。

「……分かった! 行ってくる……!」

 三人から勇気をもらい、俺は加速する。一歩一歩、大きく踏み出して。

 羽島さんが近づくにつれて、心臓の鼓動が大きくなる。

 羽島さんはもうすぐ目の前。

「お……っ」

 声を掛けようとして、怯む。緊張から、逃げ出したくなる。

 後ろを見ると、友人達が笑っている。……ここまで来て引き下がるとか、ダサすぎる。

 俺は強がりで友人達に笑い返す。

 そして、もう一度意を決する。

「おはよう!」

 勇気を振り絞って出した声。心のドキドキが止まらない。

 そんな俺に羽島さんは、満開の笑顔を向ける。

「あ、おはよ!」

 透き通った声に思わず聞き入ってしまう。

 とりあえず、挨拶を返してくれたことに一安心だ……。

 こちらを向いた羽島さん。綺麗な肌に、少し垂れ目の愛おしい目。黒いマスクがよく似合っている。

 至近距離で見る羽島さんに、俺の心のドキドキは止まらなかった。

「福島君、キーホルダーほんとにありがとね! もうめっちゃかわいくて! 福島君センスあるよ!」

 心が満たされていく。

 よかったぁぁぁ。喜んでもらえてて。

 この笑顔を、ずっと見ていたい。好きがおさまらない。

「そっか。喜んでもらえててよかった!」

「こちらこそ! ありがとう! キーホルダー今うちのフルートのケースにつけてるよ!」

 キーホルダー付けてくれてるのか……! やばい、嬉しすぎる。

「まじで! ありがとう! 羽島さんフルートやってたんだね」

「あ、うん! 中学の頃やってて。今もたまにやってるの」

「へー、そうなんだ。中学の時吹部だったの?」


 こんな何気ない会話を羽島さんとしているうちに、学校に着いてしまった。

 今までで一番楽しい通学路だった。

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