第11話 意表
修学旅行最大のミッションを終え完全に気の抜けた俺は、三人のリードのもと国際通りの大きなお土産屋さんに来ていた。
俺は早々に紅いもタルトを買い、店の外でまだ買い物をしている三人を待っていた。
沖縄のお土産は紅いもタルトが優勝である。紅いもペーストのなめらかな舌触りと、サクッとしたタルトの絶妙な組み合わせがたまらない。家、親戚、仲のいい後輩、そしてしっかり自分用に紅いもタルトを買い込んだ。
三人を待ちながらも、頭の中は羽島さんのことでいっぱいだった。
……やっぱりかわいかったな。
気付けばいつも羽島さんの事を考えてしまう。表情、声、仕草、すべてが愛おしく見える。
彼女にしたい。触れたい。抱きしめたい。そんな妄想ばかり先立ってしまう。
「福島君!」
「うぉっ!」
変な声が出てしまった。
鼓動が一気に速くなる。俺の目の前には、件の羽島さんがいた。
羽島さんはやや赤みがかった上目遣いで言う。
「写真、ほんとにありがとね! 福島君が声掛けてくれなかったらきっと撮れなかったよ!」
「あ、全然、気にしないで」
どうも羽島さんの前だとうまく話せない。意識してるからなんだろうけど。
「それでさ、これ! お礼っていうか、もらって!」
「え……! あ、ありがとう!」
羽島さんは何かが入ったビニール袋を俺に渡し、行ってしまった。
走って揺れる流れた髪の毛に見惚れながら、俺はビニール袋の中を確認する。
中には、ブルーシールの飴の小袋が入っていた。
……女子からなにかをもらうなんて初めてだ。しかも、好きな人から……。
嬉しさとともに、どっと気持ちが溢れてくる。
羽島さんが愛おしくてたまらない。
羽島さんともっと仲良くなりたい。この修学旅行の、写真を撮る仲で終わりたくない。もっと、進みたい。
「うおっ!」
後ろから強力な衝撃。振り返ると基が俺に突っ込んで来ていた。他の二人もニヤニヤしながらこっちに歩いてくる。
「やったじゃん! 彩太!」
基は俺に最大の笑顔を向ける。
「やるな、彩太。見直したぞ!」
隆二はそう言って強く肩を叩いてくる。
「なんだよ、想像以上にいいカンジじゃーん……」
柊斗はやはりどこか悲しそうに笑う。
「彩太も青春してることだし、名残惜しいけどそろそろ空港向かいますか!」
基は修学旅行楽しみきった、という満足げな顔で言う。
時刻は二時過ぎ。今から空港に向かえば、三時の集合までに多少余裕をもって着けるだろう。
――それだったら……!
「わりぃ! ちょっと先行っててくんね!」
俺はまだやり切ってない……!
基たちにそう言って、俺はお土産屋さんの中へ急いだ。
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