第10話 前進

「めっちゃ美味かったな!」

 穏やかに光る太陽の下、時刻は午後一時を回っていた。

 俺ら四人は昼食を取った花笠食堂を後にした。

 レトロな雰囲気の内装に、定番の沖縄料理。この三日間なんやかんやでまだ沖縄料理を食べていなかったが、最終日にしてやっとザ・沖縄料理が食べられた。特にミミガーがこんなにも美味しいことに最終日まで気付いていなかったのは、マジで損をしていた。

 ……そんなことはどうでもいい。料理のレビューをしている暇なんてない。

 羽島さんとは、まだ会えていない。

 三時までの自由行動はもう終盤。タイムリミットは近づいている。

 このまま会えずに終わってしまうのか……?

「よっしゃ! これからどうする?」

 俺の焦燥なんて知らず、基は能天気な声を出す。

「オレもうちょっとお土産買いたいっすね」

 柊斗もチャラい声を出す。貴方が元凶ですよ。

「俺はもう一回海に行きたいぞ!」

「そんな時間ねぇよ!」

 こいつは相変わらずだ。

 こんな会話をする間にも、時間は刻一刻と迫ってきている。

 ……このまま終わってしまう訳にはいなかい。

 せっかく羽島さんと話すチャンスなんだ。いいところを見せたいんだ。

 でも、どこにいるんだ!? 午前中基たちと色々周りながら羽島さんを探していたが、どこにもいなかった。この広い国際通りで偶然会う方が難しいのかもしれないが……。

 そう考えると焦慮に駆られる。このまま会えずに終わってしまうかもしれない。

「じゃあ、お土産屋さん適当にまわろっか!」

 午後もさっきまでみたいに回っていたら、会える確率は低い。そんな訳には……!

「ちょ、ちょっとさ!」

 絶対に会わなきゃいけないんだ!

「は、羽島さんの所行かない?」

 ――思わず飛び出た言葉に、三人は訝しい顔を浮かべる。

「あーっと、は、羽島さんと写真撮りたい、みたいな……!」

 羽島さんに頼まれた、なんて言うのはダメだから、そんな言葉が咄嗟に出た。……嘘ではないし。

 唐突なカミングアウトをした俺に三人は…………めっちゃニヤニヤしている。

 基が胸に思いっきり肘をぶつけてきた。

「おい彩太〜! 好きな人いないって言ってたじゃんか〜! いるじゃん!」

「ちょ、違うって……」

 ……自分でも顔が赤くなっていることが分かるくらい恥ずかしい。

「あやたも遂に好きな人ができたのか……。青春だな」

「ち、ちげーから!」

 一人なにやら達観してる奴もいる。恋愛マスターぶるなよ。

「ハハッ、アヤタカッケー!」

 柊斗は笑う。

 しかし、それはどこか本当の気持ちを隠した上辺の笑顔に見えた。

 柊斗は自分から羽島さんに写真撮ろうって言ったんだし……やっぱ柊斗も羽島さんに気があるのかな……。

「よっしゃ! じゃあ予定変更で、羽島さん探しに行くか!」

「基……!」

「というか、某羽島氏、そこにいる件について」

「……へ?」

 隆二が前方を指さす。指がさされた方からは、羽島さん達のグループが歩いてきている。

 ……まじかよ! なんだったんだ今までの茶番は。

 でも、このチャンス、逃すものか……!

 俺は震える足を進める。白のシャツに黒のカーディガンを羽織った羽島さんは、もう目の前だ。

 進め……!

「は、羽島さん! 写真撮らない?」

 俺は勇気を振り絞って言う。

 羽島さんは、驚いて丸くなった綺麗な目が自然と笑顔に変わる。

「もちろん!」

 羽島さんは満開の笑顔でそう言った。


 羽島さんは柊斗、そしてついでに俺と基と隆二と写真を撮った。

 お気に入りの一枚だ。

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