第8話 回想

「「「「かんぱーい‼」」」」

 カーン、という気持ちのいい音はならず、ブヨっというペットボトルをぶつけたにぶい音が響く。

 そんなの今の俺らには関係なかった。

「基、改めてだけどおめでとう!」

「改めてありがとう!」

 とっくに消灯時間は過ぎているが、俺らの部屋では基の彼女できた祝いの会が開かれていた。

「基よ、お前に彼女ができても俺らずっと友達だからな‼」

「あたりまえだろ‼」

 基と隆二は熱い抱擁をかます。

 ちなみに隆二は、いつも通りの元気に戻っている。どうやら、水に飛び込んで全て吹っ切れたらしい。立ち直り方が狂っている。

「おめっと! ほんと羨ましいなー」

 柊斗は心から羨ましそうな顔をする。

「ありがと! きっと柊斗も彼女できるよ!」

 基は喜びいっぱいの笑顔で言う。

 ついに基に彼女ができたのかー。この前まで一緒に彼女ほしいとか言い合ってたのに、遥か先を越されちゃったな。

 昨日までの俺だったら多分、基に大きな劣等感を抱いていただろう。

 でも、今の俺は違う。

 が昨日までと変わっている。

 俺は今日のバスでの事を思い返す。

 くっきりとした綺麗な目に、まっすぐ伸びる長い髪。明るく元気に話す姿。そして、あの美しい笑顔。

 バスで羽島さんと話してから、俺はずっと羽島さんが頭から離れなかった。

 あのかわいい顔、明るい声、豊かな表情。羽島さんのあの笑顔を思い浮かべるだけで、胸がドキドキする。

 今の俺は、昨日まで確実に無かった気持ちが胸にある。初めて俺の中に芽生えたこの気持ちは抑えきれない。

 俺は気付いていた。この気持ちがなんなのかを。

 俺は――、俺は、羽島さんを好きになってしまった。

 昨日までは彼女が欲しいけど、俺にできるわけがないなんて思っていた。

 でも今は……羽島さんを彼女にしたい、羽島さんと付き合いたい、なんて妄想をしてしまっている。

 本当に数分話しただけだし、羽島さんなんて俺にとっては高嶺の花ってことも分かっている。

 それでも、羽島さんのことが好きになってしまったんだ。

 羽島さんのすべてに惹かれる。羽島さんのことを考えると胸がドキドキする。

 この初めての気持ちは、恋と形容するに他なかった。

 基は好きな人と付き合えるなんて、本当に幸せなことなんだろう。俺だって……好きな人と付き合いたい。

「――おい彩太、盛り上がってないぞ!」

 俺が初恋の青春に浸っていたら、なにやらでかいのが来た。

「ちょちょちょ、隆二乗ってくんなって! 分かったから! てかお前まじで重いって!」

「重いだとぉ! 成敗‼」

「ぎゃぁぁぁー‼ え、えぐい、から……息、できないって……」

 修学旅行、最後の夜。俺は甘酸っぱい初めての青春を感じると共に、男子との暑苦しい青春も味わった。



<修学旅行活動日誌 二日目>

青春が、芽生えたかもしれない。

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