第5話 恋愛

 修学旅行二日目、昼。

「基くん、なにぐずぐずしてんの?」

「い、いや、別にぐずぐずしてるわけじゃないけど……」

 昼食終わりの自由時間、基は何人かの女子に言い寄られていた。

 この女子達は、安達さんのグループの女子だ。

「好きなんでしょ? 由香のことが?」

「……す、好きだよ」

「だったら告白しなよ」

 こんなオドオドしてる基は珍しいかもしれない。動画でも撮っとこうかな。

「……でも、安達さんきっと俺のこと好きじゃないし……」

 基はを言うように話す。

「……はぁ? ちょっとまってそれ本気で言ってる⁉」

「え? 普通にそうでしょ。俺なんかが告白したって……」

 基はで言う。

「嘘でしょ……。信じられない」

「ありえなくない……?」

「キショくね?」

 集まった女子全員が肩を落とす。

 これだから鈍感系主人公は。あんなにいい感じなのに脈ナシだと思ってたのか。あいつバカだろ。

 基に呆れている女子軍の一人が怒ったように声を上げる。

「……もう! 由香も基くんのことが好きなの! もう告白しなさい!」

 ……こいつ、めっちゃ強引じゃね。

「……え? どういうこと……⁉ え⁉」

「もう知らないんだから。ちなみに由香はあそこにいるよ」

「お、おう……。ありがとう……」

 基はしばらく棒立ちになった後、強ばった面持ちでこちらへやって来る。

「……なぁ彩太、安達さんって俺のこと好きなのかな?」

 基は真剣な顔で聞いてくる。

「あーっと……、分かんないけどその可能性は十分にあると思う」

 なんて応えたらいいか分からず、俺は絶妙な返事をする。

 それを聞いた基は、顔の表層を強くして、意を決したように言う。

「そうか……。お、俺、告白してくるわ!」

「マジで⁉」

「おう」

 基は男らしく笑って言う。

「なんか、ぐずぐずしてる暇なんてない気がしてきたんだ」

「お前行動力はエグいな! 鈍感なくせに」

「俺は鈍感じゃねぇぞ! でも、今ならなんかいける気がするんだ。修学旅行マジックってやつかな!?」

「そんなのあるのかよ……」

 基は意欲満々な瞳で、自信ありげに前を向いていた。そんな基は眩しいくらい輝いて見えた。

 これだからイケメン主人公は……。

「そうかよ……。基、頑張れよ!」

「おう! 見ていてくれ、親友!」

 俺とグータッチを交わし、基は爽やかな笑みを浮かべる。

 そして、ゆっくりと想い人へと歩み寄っていく。


 結果は……まあ、言うまでもないだろう。

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