第2章 会話、それから。

第3話 前兆

 修学旅行。それは、ただ楽しいだけで終わっていくと思っていた。だけど、そんな事はなかった。



 羽田空港の太陽の塔前は、朝早くから落ち着かない雰囲気に包まれていた。

 俺ももちろん、落ち着いていなかった。

「おう!」

「お、彩太あやた! 来たか!」

 俺ははじめたちの元へ行く。

 うちの学校の修学旅行は私服で来ることになっている。

 普段ほとんど制服姿しか見ないが、みんな私服だと別人のように見えるな。……てかコイツらめっちゃオシャレじゃね?

 もっと服装に気を使っていればよかった、と俺は大きな後悔を抱いた。

 そんな俺の密かな焦燥なんて知らず、みんなハイテンションだ。

「なあ、安達さんの服見た? 可愛すぎて、えぐい」

 基はだらしない笑みを浮かべる。そんな隆二みたいな顔するなよ。

 安達さん――安達由香あだちゆかさんは、俺たちのクラスメイトだ。かわいい系と綺麗系を兼ね備えた顔に、優しい性格。すらっとした長い足も魅力的な、クラスでもトップクラスの美人だ。

 そして――、基の好きな人でもある。

 基と安達さんは、日常でも結構話したり、誕生日にはプレゼントをあげたりと、かなりいい感じだ。というか、ほぼ付き合っているような状態である。付き合うのも時間の問題だと思う。

「修学旅行中、進展つくりたいなぁ……」

 そんな乙女のような呟きの基は、恋をする顔だった。

「なあ、羽島さんめっちゃエロいぞ!」

「ちょっ、お前、バカかよ! 聞こえたらどうすんだよ!」

「あ……やべ」

 隆二りゅうじは、いつもより数段大きい修学旅行テンションの声で気持ち悪いことを言っている。

 様子を見ると恐らく羽島さんには聞こえてなかったみたいだ。でもこいつは一回痛い目を見た方がいいと思う。

「でも、たしかに羽島さんマジパナくね?」

「……たしかにな。すげぇかわいい」

 羽島さんは、ベージュのやや胸元が開かれているシャツに、黒のロングパンツを着ていた。真っ白な肌に、長くおろされた髪からは無垢な笑顔が輝く。その姿は美しい天使のようだった。

「……狙っちゃおっかなー、なんつって!」

 柊斗しゅうとは軽い笑みを浮かべる。そのどこか挑戦的な顔は、ドラマのオープニングソングが流れてきそうな、爽やかで熱いかっこよさがあった。


 そんな俺らは、それぞれがそれぞれの物語を持って沖縄に飛び立った。

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