不死身のミア 3ー1
それは弔いというにはあまりに血濡れている。だが、狩りというには絶望的に想像を絶する惨状だ。見上げた空は晴れ渡り、腐臭に誘われた死の鳥たちが円を描くように飛び回っている。見下ろした海には、甲板から滴り落ちる血の臭いに群がる魚群の影があった。
ここは航空母艦の甲板で、肉塊やら金属片だかが飛び散った孤独な戦場だ。独壇場や独裁的思考とはわけが違う、それは誤字も誤解も語弊もなくまさしく言葉通りの孤独なテリトリーなのだった。
その証拠に機械人形の女以外は、誰一人として立っていない。とは言え、座しているわけでもない。死体と化した元人間は、甲板の装飾にもなりきれずまるでゴミのように散らかっている。
しかし、女は死体など見えていないかのように漠然と自らの得物を眺めていた。
渇いた血にまみれた刀、その刀身に写るは鮮血のように赤い長髪、返り血に汚された乙女の白き肌と、哀れなほどに無意味で美しい造形の女の裸体だった。自らの姿を認めるその瞳は、狂気的なまでに赤く静かに蠢いている。
俺様はその赤き髪の女に問う「お前は何なんだ」。
そんでもって俺様は何なんだ。
何が目的で生きているんだ。
その問いは、俺様の口から恨みをもって絶望をもって快楽もって愉悦をもって、損壊した何かしら感情をもって発せられていた。
答えは想像よりも早く返ってきやがった。
彼女は、帝国海軍の究極兵器。
彼女は、敵対者に向けられた死そのもの。
彼女は、戦場に咲き散っていく定めにある赤き花。
彼女は、確かに心をもった冷酷無慈悲な機械人形。
散っては咲いて、砕いては壊され、生まれては死んで。そんな運命の螺旋に囚われていた彼女は、誰よりも美しく気高い存在で誰にも知られることのない孤高の造物だった。
与えられた使命のために動く存在でしかなかった。
彼女の名は不死身のミア。
俺様の名は機械人形ミア。
俺様は握っていた得物をがむしゃらに甲板へ突き刺し、吐き捨てるように言った。
「結局は無意味なのかよ」
だから結局のところ兵器である俺様は、この世界に在る限り破壊者でしかなく、その行為に意味はない。それは人間が生きている限り時間を潰し続けるのと同じだった。
どのように破壊し尽くそうとも、どのように生き続けようとも、どちらもそうするために在るだけで、やはり意味はないのだろう。
明日が来れば壊すだろうし、明日が来れば暇を潰す。明日が来なけりゃ壊さないだろうし、明日が来なけりゃ潰さなければならない暇もない。
つまりどっちでもいいんだろうな。生きていようが死んでいようが構わないんだ。
果たしてそんな存在に生きる価値はあるのだろうか。俺様は思考し、最終的にいつも通り死ぬことにした。
艦船の破壊を命ぜられた機械人形は、その使命を全うすることにしたのだ。
それでも心の何処かで俺様は。
不死身の機械人形ミアは。
この破壊行為に価値が与えられることを願わずにはいられなかった。
それこそがきっと救済であり、使命への躊躇なのだった。
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