前の席の女子がヤンデレなのかもしれない
相葉ミト
1.前の席の女子が突然俺のために弁当を作ってくれたんだが
「まったく……またサボりかよ
6月。梅雨の晴れ間はじめじめと暑い。
(地味にだるい肉体労働なんだよなぁ、緑化委員。かといってサボって植物枯らしたら先生から叱られてだるいし……)
「……
女子の声が聞こえて、
校舎の影から逃げていく、長いハーフアップの髪が見えた。
ちりりん、と鈴の音。
(誰だったんだろう……
考えるのはやめだ、と
鈴の音とハーフアップの髪をした誰かがこっそりやってくるのは、今回が初めてではない。
(誰だか分からないけど……ちょっと話してみたいかな。ちょっとストーカーっぽいけと女子だし、水やり手伝ってくれたらいいんだがな)
ジョウロを片付けながら、
7月に、ちょっと話すどころではない接触を視線の主から受けるとも知らずに。
◆
7月最初の週。
「ごめんなさい
「おう」
テーブルの上の弁当代を受け取り、
夏休みはまだだが、蝉が鳴いて暑さに拍車をかけている。
(高校生になってから初めての夏だなぁ)
これから刺激的な時間がやってくるとも知らず、
暑さと戦いながら午前中を乗り切り、待ち望んだ昼休み。
この学校の食堂が売る弁当の甘い卵焼きを、
食堂へ行こうと立ち上がる
ちりりん。
ずい! と赤いタータンチェックの弁当包みが、鈴の音と一緒に突き出される。
「はい! これ
弁当包みを持っていたのは、長い髪を鈴付きの髪留めでハーフアップにした──クラス1番の美少女、
「なんで?!」
席替えで
でもそれだけだ。弁当を作ってもらう約束なんてしていない。
(確かに
「え、卵焼き嫌いだった?」
「そうじゃなくて……
そもそも弁当をなんで作ってくれたのか。混乱する
「かたいなー、
「いつもって……普段はおふくろの弁当だからたまにしか学食使わねえんだけど……」
「ごめんごめん、4月の2週間目の木曜日はハンバーグ弁当、5月の4週間目の月曜日は鮭の塩焼き弁当、6月の3週間目の火曜日は野菜炒めだったから、
(なにも悪いことしてないのに、探偵に追われる犯人並みに俺、
何か俺、
「なんで曜日で覚えてるの?!」
「何か周期性があるかと思ったから、曜日に注目してみたの。結局、
「どうしておふくろのスケジュールを……」
美少女が自分のために弁当を作ってくれた嬉しさと、親のスケジュールを付き合っているわけではないクラスメイトが把握している意味不明さで、
「どうしたの微妙な顔して? もしかして、迷惑だった? いらないなら捨てるけど……」
なぜ
でも食費が浮くのはありがたい。それに、食べ物を無駄にするなと母親に怒られながら
「お、おう、ありがとう、
「私の下の名前呼ぶの、嫌だったらいいんだけど……」
「……
「いいって! 私が好きでやってるだけなんだから! でも弁当代の代わりに──」
(
「次の土曜日、バスケ部の練習試合、一緒に行こ」
「そんなことでいいのか? 行く」
「ありがと! あっ、感想聞きたいし、一緒にお弁当食べていい?」
「おう……」
「えへへ。それじゃ、いただきまーす!」
嬉しそうにニコニコ笑う
「……いただきます」
卵焼きは甘すぎないしっとり食感で、文句なく
弁当の蓋に保冷剤がおかれていて、お店みたいだなと
「おいしい?」
「うん、毎日食べたいぐらい」
食事になんの感想も言わず、マズい時だけ文句を言っていた
「毎日……えへへへ。つまり私は
「ごめん、飲み込んでてよく聞こえなかった。
「なんでもないよ。
「おう。
「そんなことないよ」
「……
(
「この卵焼き、焦げてねえじゃん。俺が砂糖入りの卵焼きを自分でやったときは、焼きすぎて焦がしてるから。上手いって」
「……だって、
「お、おう、ありがとね?」
「
「そうは言っても、頑張ったことに対してなにも言わないのは、なんだか申し訳ないからなぁ」
「……
「そう?」
優しいというなら、わざわざクラスメイトのために弁当を作った
「
「なんでだと思う?」
小悪魔に首を傾げる
「……質問に質問で返さないで欲しいんすけど」
「
ちりりん、と
(この音……前にもどこかで聞いたことがあるような……でもそれより先になんで弁当を作ってきてくれたか、だよな……)
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