第三話 困惑

 とうとう両家での話し合いが行われた。その場にジェロームとその最愛の女性の姿はなかった。


「うちの娘が醜いとはどういうことですか!?」


「息子が失礼なことを言ってすまない。しかし、息子の気持ちもわかって欲しい。私は息子の気持ちがわかるのだ」


「気持ちがわかるとはどういうことですか? あなたまでジェローム君と同じくうちの娘を侮辱するのですか!?」


「そう聞こえてしまったのならすまない。しかし、君も息子の心に決めた女性を見ればわかってくれるはずだ。それくらい素敵な女性を見つけてきたんだよ」


(父親までそんなことを言うなんて……。ジェロームもそうだけれどこの人たちは完全におかしくなってしまったの? それとも本当にそれくらい素敵な女性だとでもいうのかしら)


 クラリエットは怒りを通り越してジェロームの相手が気になり始めていた。


「息子から改めて直接謝罪させよう。ジェローム! 入ってきなさい」


 ジェロームの父親がそう叫ぶと、ジェロームは女性と共に部屋に入ってきた。


「この度は申し訳ございませんでした。私はクラリエットとの婚約を破棄し、こちらの女性と婚約したいと思っております」


 クラリエットはそっとその女性の顔を見た。どれだけ素敵な女性なのかと。


(え……どういうこと!?)


 そうしてクラリエットは困惑した。


(なぜ? なぜジェロームの最愛の女性がジェロームのお母様とまったく同じ顔なの? こんなことってありえるの?)


「え……えっと、そちらの女性がジェローム君の最愛の女性なのかい?」


(言葉をつまらせている、きっとお父様も異変に気付いたのね!)


「そうです! とても完璧な女性でしょう?」


「ジェローム、自慢したいのはわかるが今は謝罪の場だ。やめなさい」


(自慢になると思っているの? なるほど、わかったわ! 親子そろって美的感覚が壊れているんだ! だからあんな人を……。しかもお母様にそっくりだなんて。そのお母様もずっと黙っているなんて、きっとお母様自身も複雑な心境なのね)


 クラリエットはすべてを悟った。


「お父様、わたくしもう結構です。こんな素敵な女性を連れてこられたらもう何も言えませんもの」


「そ、そうか。そうだな。今日はもうやめよう」


 クラリエットの言葉に父は賛同した。父もこれ以上何を言っていいのかわからないといった様子だった。

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