第12話 精霊形態
魔力は〝生命の源〟だ。魔法や能力を使わずとも、人は何かしら行動すれば自然と魔力を消費する。言わば、魔力とは体内に存在するエネルギーと同義なのだ。
「
「うん」
俺はソラの指示に従い、右手を胸元...心臓付近に置く。心臓というのは、体内で最も魔力が集中している場所だ。
魔力の解放を体に馴染ませるためには、魔法初心者は先ず心臓に手を当てて、魔力が体内でどう働くのかを意識する。慣れてくれば、昨日のローズやリオンのように自然と魔力を解放して魔法を繰り出せるようになるのだ。
「心臓に意識を集中し、魔力の流れを感じるんだ」
集中しやすいように目を閉じ、雑念を払いのけて、心臓に意識を向ける。ただこうするだけで?とちょびっとだけ思っていたが、人間の集中力は凄まじいもので、徐々に胸の辺りが温かくなってくるのを感じ始めた。
少しずつ、魔力が俺の意識に反応し始めている証拠だろう。記憶を失っても、ここまでは俺も分かっていた。
「やっぱ、
「そうだな」
ゆっくり目を開けると、右手に収まった光り輝く無色透明な光源が周囲を明るく照りつけている。これが全ての力の源、俺自身の魔力だ。
「メイ君の魔力は無色...ですか」
「魔力の
とセレナとローズが少しばかり驚きを露わにする。
魔力の色とは、その人の個性と同義だ。また、色によって使える魔法や能力の種類も異なってくる。
「ん~、あたしも無色の魔力を見るのは初めてだ。ちなみに、姉ちゃんたちの色は何色だ?」
「私は青ね」
「私は赤です」
ソラの質問を受け、二人同時に魔力の色を見せてくれる。広げた片手から、それぞれ赤と青の色の魔力玉がポワッと出現した。
「ふむふむ。青色は、主に水属性の魔法。赤色は、主に炎属性の魔法を扱えるんだ」
「たしかに、赤色の魔力を持つローズは昨日炎の魔法を使ってたな」
「はい。私の主な魔法系統は炎ですから」
そう考えると、魔力の色はその人がどんな魔法を扱うのかの判断材料にもなり得る。
「だが、
「...無色か。俺も色付きが良かったよ」
「なんでよ」
「いやだってさ。色が付いてたら、確実に俺はこの魔法系統が使えるんだって分かるだろ?でも無色ってことは、どういう魔法が使えるか分からないし、最悪使えない場合だってあるんじゃないかって思ってさ」
改めて、自分の不甲斐なさに悲しくなる。普通を望んでいたが、他人とは全く異なった魔力や能力の系統ときたもんだ。どんどん自分が異質な人間なのだと思い知らされるようで、ナイーブにもなるだろう。
「あはは...まあそういう場合も無くはない。でもさ、それも一つの〝個性〟だと思うぜ、
そう言って、ソラはニッと笑って見せる。もしかしたら魔法が使えない主になるかもしれないのにこの子は...どこまで俺を感動させれば気が済むのやら。
天使だ...天使だな!!
「まあ、魔力を解放するのは出来たから、次は〝魔装〟をやってみよう!」
魔装とは、精霊使いが戦闘時に身に纏う装備のようなものだ。身体能力の各種ステータスが上昇し、魔力も増強するといった、精霊と契約した者だけの特権である。
ソラはこの装備の事を、
「今度は魔力を全身に向けて集中させるんだ。あたしも手伝うぜ」
「頼む」
再び目を閉じ、解放したての無色の魔力を全身に行き渡らせるようにイメージする。ソラは俺の胸元に手を添えて、魔力を送り込む。
―――ドクン...。
集中しているせいか、心臓の鼓動がはっきりと耳に届いてくる。そして、次第に自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
「凄いオーラですね...」
「何なの、この
皆んなが驚いている中、俺は執事服から魔装へと装備を変えていく。俺の放出された魔力が暴れ出すように、周囲に暴風が吹き荒れ、それをソラが抑えている状態だ。
「こりゃ、かなりヤバイ魔力だな...!でも、形態変化は成功だ!」
数十秒後、暴風はなんとか収まり、シーンと静まり返る広場。俺は目を開けて、変化した自身の姿に目を輝かせた。
「うお!なんだこれ、すげぇ!!」
形式ばった服装とは一変して、まるで冒険者のようなしっかりとした装備を身に纏った自分の姿が目に映る。
丈夫で伸縮性抜群な白シャツに、動きやすい多少ぶかっとした灰色ズボン。そして全身を保護するように覆われた長袖のコート。
コートは襟を立たせて、腕にベルトが付いた白狐色をしている。全体的に真っ白な装束だが、デザインや耐久性は最高級のものだ。
「それが、契約した奴だけが得られる戦闘形態...〝
防御に富み、上質で動きやすい。何よりも、カッコいいのが俺の心を高揚させる。
「全身真っ白ね...」
「ある意味では、メイ君のイメージカラーは白なのかもしれません」
恐らく白なのはソラの毛色が反映してるだけだろうけど...。まあ、全身白ずくめでも悪くはないな。
何はともあれ、格好を変えられたということは、俺の中に眠っていた魔力が解放されたといっても過言ではない。先ずは魔力がしっかり働いたことに俺は安堵した。
「これだけじゃないぜ。戦闘には武器が付き物さ」
そう言って、ソラが指パッチンすると俺の腰辺りが光り始め、大層な剣が出現した。
「お~!!」
腰に僅かな重みを感じ、視線を向けるとそこには中々に珍しい白剣が携えられていた。珍しいというのは刀身部分がこれ以上ない白の輝きを放っていて、どうやらただの鉱石で錬金されたものではないように思える。
柄の部分は柔らかく丈夫な布で覆われ、鍔は純金な光沢を纏い、刀身は綺麗な
「これ、軽いな...」
そっと手に収めると、何よりその重量に驚いた。全体の長さは約1メートル程だが、張りぼてのナイフと同等の重さを感じる。
「恐らく、軽いと感じるのは
「そんな恩恵も得られるのか!?」
俺だけの武器、俺だけの剣...か。ワクワクが止まらねえ!
そう思い、思わず笑みが零れる。
「白装束に、白の剣...」
「白男...?」
天然ローズが、俺の見た目そのまんまを口にする。たしかに、傍から見れば全身真っ白な男だ。
「多少の魔力暴走を懸念していたが、何とか上手くいったようだな。素人じゃこうはならない。やっぱり、
「そうなのか...」
ソラが言うなら間違いないだろう。俺の頭の中からは消えているが、体の方は魔力の使い方をちゃんと覚えているようだ。
なら俺は、魔法や能力を使う何らかの仕事をしていたことになる。これを知れただけでも、俺の事について少しでも絞れてくるだろう。
「やはり、メイ君は凄い人でしたね」
「ふん!それでも、魔力量が分からないんだから、一概に強いとは言えないわ」
セレナがムキになったように、こちらに嫉妬の視線を向けてくる。こういう専用装備に憧れていたのだろうか。
「そりゃ、現時点だと姉ちゃんたちの方が魔法に長けてるだろうぜ。
魔法か...。そういや、魔法ってどういう感じで覚えていくのかすらも分からないな。こればっかりは感覚の問題なんだろうが。
「なあ、ソラ。魔法ってどうやって覚えるんだ」
「ん、そうだな~。手っ取り早いのが、他人の魔法を真似ることだな。でも、いきなり高度なものはダメだぜ。本人に適さない魔法ってのもあるから、簡単なものから少しずつ慣らさないとな」
「ふむ、他人を真似る...か」
「ちょうど、メイドの姉ちゃんがやってる掃除の魔法なんかすぐ出来ると思うぜ」
「ほんとか?」
ソラが指差してる方向に目を向けると、ローズがいつの間にか庭の掃除を始めていた。まるで意思を持った箒が庭をサッサと掃いている光景が視界に映る。
ローズが指先から魔力を放出しながら、器用に箒を操っているようだ。呑気に欠伸をしながらも、ダルそうに地面の落ち葉をサクサクかき集めている。
ローズ、眠いんだな...。昼寝したらいいのに。
「ふわぁ...これくらいなら、すぐに出来ますよ。ですが、これを教えてしまうとメイ君がだらしない顔をしながら掃除をしないか心配ですね」
「いや、今のローズ滅茶苦茶だらしないぞ...」
「私はいいのです」
「そうなの!!??」
とまあ突っ込みはそこまでにしておいて、休憩時間の間に少しだけでも掃除の魔法をローズに教わることになった。勿論、お見合い時に恥じないような立ち居振る舞いも彼女からちょくちょく教わっている。
それと、まだセレナに〝交渉〟の話を持ち掛けていなかったので、今日の夜にでも相談しようと思う。
これから、忙しい時間が続くな。己を律するために、頑張んないと!
そう意気込んで、俺は午後の業務に取り掛かった。
........
.....
...
そんな中、邸内の窓に浮かび上がる一人の影がこちらをじっと見下ろしていた。
「ふぅん...精霊と契約した男ねぇ。どんな奴なのか...今宵、
三階の角に位置する客室の窓から、一人の少女が薄ら笑いを浮かべる...。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます