第11話 異質の魔力
無事に契約は終わり、お風呂から出た俺は就寝前の業務をしにローズの元へと向かっていた。その道中で、ソラに気になっていたことを尋ねる。
「なあソラ。人の魔力が見えるならさ、俺の魔力がどれくらいなのか分かるか?」
今の所、俺は自分の事を魔法や能力が使えない弱者だと思っている。
ローズから少し聞いたが、魔法を使うには己のセンスと慣れがものを言うのだそう。自分の記憶が失われた俺は、慣れはもちろん自分にセンスがあるのかすらも分からない状態で、魔法を使おうにもやり方がよく分からない。使う機会があるか分からないが...。
だがこうして精霊と契約できたし、今の自分にどれだけ魔法センスがあるのかを知っておきたいという衝動に駆られた。そのことについてソラからは何も言ってこなかったので、少し気になった次第だ。ちなみに、ソラは俺の記憶喪失について既に把握済みである。
「あー...そのことなんだが、変な話
「え...」
俺は軽くショックを受けた。が、僅かな希望に賭けるように再度聞き直す。
「いやいや~、冗談はよしてくれ。魔力0な奴なんて、いるわけないだろ?」
「冗談なんかじゃないぞ。ほんとに感知出来ないんだ」
―――ガーーーーン.....。
マジで...言ってるの?
俺は頭の中が真っ白になり、分かりやすく項垂れる。
いや、俺自身魔法を使えない弱者だとは思ってたよ。でもさ、限度ってもんがあるじゃん?人並みの魔力があって、センスがなくとも頑張って魔法を使えるようになった自分を思い描いて、今の今までウキウキしていたのだが...。
まさか魔力が0の無能だったなんて、今時そんな奴いるのか?...って、今時??
俺は一瞬〝今時〟という言葉に少し引っかかりを覚えたが、すぐにどうでもよくなってまた絶望する。
「いやでも、
「え...?」
「だって、契約はお互いの魔力を共有し合って初めて成されるもの。てことは、少なからず
「たしかに、そうだよな!!」
まだまだ希望を捨ててはいけないぞ!!なんて心の中でガッツポーズする。
そうさ。普通に考えれば分かることだ。魔力がない人間なんていない。だって、魔力は生物に欠かせない〝生命の源〟なのだから。
「あたしもそのことは疑問に思っていた。これは単なるあたしの憶測にすぎないが、
「魔力の質...?」
「ああ。感知できない魔力...にわかには信じがたいが、未だ解明されていない
「ほうほう。つまり、その謎めいた魔力をどう扱うかは俺次第ってわけだな」
「そういうことになるぜ。時間があったら、明日あたしが魔力の使い方を教えてやるよ」
「ほんとか!?そりゃ、楽しみだ」
「ふわぁ~、それじゃあたしはもう寝るよ」
そう言ってソラは大きく欠伸をする。
あ、そういえばソラの寝床を用意してなかったな。まあ、俺の部屋でいいか。
そんなことを考えていると、急にソラの体が光に包まれ始めて、次第にその姿を変貌させる。狐の姿になるのかと思ったが、それは狐よりも遥かに小さな光玉となって俺の首元へとふわりと移動した。
そしてポン!と化けるような音と共に、紐付きの小さな鈴が現れて俺の首に掛けられた。
「なんだ?」
するとその鈴の中から、微妙にエコーがかかったようなソラの声が聞こえてくる。
『通常はこうして
この鈴はソラが魔力を使って化けたものだった。これなら常に一緒だから、心配はいらないだろう。
「お~、いいなこれ!」
『あたしはもう寝るけど、呼びたいときはしつこく鈴を鳴らして名前を呼んでくれればすぐ出てくるからさ』
「ああ。ゆっくり休んでくれ」
『ふわぁ~、そうさせてもらうぜ...』
ソラは安心しきったように、すぐに眠りについた。色々あって今日は疲れたのだろう。
さてと、今日の仕事はまだ残ってる。セレナの寝かしつけはローズがやってくれたし、後は明日の朝食の下準備だな。
「よし、これで完成です」
朝食の下準備を手伝い、今日のメイド業務は終了した。最後に、衣装部屋に来てくれとローズに言われたので、就寝の準備を済ませてからそこへ向かうことに。
俺が部屋に入ると、ローズは男物の黒服を手渡してきた。
「あ、メイ君。ちょうど今、制服が出来上がったので。明日から、家にいる間はその制服を着てください」
「ありがとう!ほんと、悪いな色々と...」
「いいんですよ。これも仕事の一貫ですから。サイズが合ってるか確認したいので、一度着てみてください」
「ああ」
ということで俺は試着室に入り、早速黒服を着用してみることに・・・
「お~!」
簡単に言えば、お城などで仕えている人が着るような清潔感溢れる執事服だ。
白シャツに黒のネクタイ、黒のジャケットとズボンというシンプルなものだが、普通にカッコいい。サイズもピッタシで文句の付け所がない仕上がりだ。
「どうでしょう?」
「めちゃくちゃカッコいいぞこれ!サイズも丁度良い!」
「そうですか。その、中々似合ってますよ」
「ありがとな、ローズ!ほんと、感謝してもしきれないよ!」
今日一日、仕事をこなしてきて分かった。衣装作りを含め、メイド業務を全部一人で片付けるローズは凄いのだと。
当然サボったり、手が止まったりした時は注意されるが、それは当たり前で厳しいと感じることは一切ない。初めて仕事をする俺に、彼女は一つ一つ効率よく丁寧に教えてくれた。
だから尚更疑問に思う。なぜ殆ど欠点のないローズが原因で、前のメイドたちがここを去っていったのかを...。
「あの、メイ君...」
そんな考え事をしていると、ローズが静かに口を開いた。
「私って、そんなに無表情で冷酷...でしょうか?」
「え...?」
唐突な質問に俺は軽く驚いた。まるで心を見透かされでもしたかのような衝撃が走る。
「私自身、努力はしてるつもりです。もっと自然に笑顔を作れるように、もっと愛想よく人に関われるようにと...。もし私の言動が気に食わなければ、遠慮なくそう言ってください。メイ君は、私の大事な後輩...ですから」
「え...いや、全然そんなことないぞ」
ローズの口から出た考えもしなかった発言に、ついぎこちない返答をしてしまう。もしかすると今朝、リオンの言ったことを気にしているのかもしれない。
「それならいいのですが...」
「....??」
「お願いですから、メイ君は私の前から勝手にいなくなったりしないでくださいね」
ローズは俯きながら、どこか寂しそうな表情を浮かべる。彼女は最後にそれだけ伝えて、部屋を出て行ってしまった。
「ローズ...」
あんな悲しそうな顔をして、勝手にいなくならないで...なんてそうそう言わないだろう。やはり何かしら良くない過去があったのだとしか思えない。
それが何なのかと聞こうとする自分もいるが、彼女にとって踏み込まれたくない何かがあるように感じられて、俺はすぐに声をかけることが出来なかった...。
・
・
・
目覚めてから三日目の朝、今日は学園がお休みとのことで、セレナは一日中家にいる。休日といえど、だらしない生活はよくないので今朝も起こしに行ったのだが、
「今日は休みでしょ!!」
「頼むから起きてくれ...」
「ふん!休みの日はいつも以上に寝るの!」
「いや、休日でもローズが毎回抱えてまで起こしてるって聞いたぞ...」
「うっ...」
と10分ほど言い合いを続けて、セレナは渋々起きてくれた。ほんと、これを毎朝...しかも夜は寝かしつけって、どんだけお子様なんだか...。
メイドの仕事も少しずつではあるが覚え始め、午前中の業務は目立ったミスもなく終わらせることができた。常に仕事がある訳ではなく、もちろん休息は設けられているので、その時間を使ってソラから契約で授かった恩恵なるものを教えてもらうことにした。
豪邸の周囲は、約2メートルほどの黒いフェンスが正方形状に囲われており、玄関口から見て前半分が大層な庭園となっている。
庭園の中心には澄み切った水が流れ出る噴水。その周りにはゴージャスに形作られた植木と花々。端の方には手入れされたプール施設。
一通り回ってみたが、俺もまだまだ少年(多分)...これは遊び心が擽られてしまう。
俺たちは庭園にある白い石畳の広場で、色々と試してみることにした。
「よし、じゃあ始めるか。...とその前に、なんでお前がいるんだよ」
俺は広場のベンチで優雅に腰掛けるセレナに向かって、ボソッと呟く。
「いいじゃない。他人がどれほどの魔力を有しているのか、魔法を操る者としては気になるわ。特に、あんたのような得体の知れない人間の魔力はね」
「お嬢様、お茶が入りました」
「悪いわね、ローズ」
こいつ、人が初々しく魔力を扱おうとしているのを横目にティータイムかよ...。まあ全然いいけどさ。
「よし!んじゃあ、今から
首に掛けていた鈴からポン!と人型のソラが飛び出てきた。精霊であるソラは、俺の魔力を調節することが可能なので、サポート役に徹してくれる。
最初は精霊と繋がった状態での戦闘形態...〝
「頼んだぞ、ソラ!」
「ああ。先ずは、魔力解放の仕方からだ」
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