第38話:異世界で小金持ち気分

「二度目なのに、凄いわね……」

流石、と言うべきなのかしら。とリーシアさん。


 俺が転移させた納品袋を見て、瞠目どうもくした後にリーシアさんは、早速確認させてもらうわね。と言って袋の中をあらため始めた。


 お茶を飲みながら終わるのを待つ俺。心なしか、前回飲んだお茶よりも香りがいい気がする……良い茶葉に変えた?



 待つこと体感で一時間くらい。リーシアさんの、ふぅ……という声で数え終わったのだと察する。


「終わったわ。下位の魔石が二個で中位の魔石が四〇個、上位の魔石が二個でエイプの尻尾が三十二本、ザックマンティスの鎌が一つにオークの鼻が一つ。以上よ。」

また、一応だけどギルドカードの方も確認させてもらうわね。とリーシアさん。


「どうぞ。」

見られても何も問題はないので、ギルドカードを渡す。


「それにしても、下位より中位が多いなんて……森の結構深くまで行ってきたの?」

カードを確認しながら言うリーシアさん。


適当に歩いていたから、どのくらいか分からない。


「んー、どうなんですかね? 適当に歩いていたので」

分からないものは分からないので正直に答える。


「適当にって……そんなことしたら迷うんじゃないの?」

カードをこちらに渡しながら、眉を寄せるリーシアさん。


 普通はマッピングしながら、歩いたりするのかな? でも目印にした木がトレントだったら、動かれて正確なマッピングはできない気がする。俺には関係ないけど。


「俺には転移魔法があるので、どれだけ適当に歩いても帰れます。」

カードを受け取りながら、だから問題ないです、と俺。


自分を転移、物を転移と用途が豊富な適正魔法です。


「あぁ、そういえばそうだったわね。戦闘でも、移動手段としてでも使えるのは、便利だし凄いわね……」

流石、勇者様。とリーシアさん。


「むず痒いのでやめてください……。」

いたたまれなくなって目を逸らす。


そんな俺を見てリーシアさんは、ふふっと笑うとポケットから紙を取り出した。


「それじゃあ改めて。査定するのは、一回目の分と二回目の分を合わせて、下位の魔石が一六四個で中位の魔石が六九個、上位の魔石が五個。素材でウルフ本体が五体、ザックマンティスの鎌が一つ、ウェアウルフキング本体が一体ね。」


「分かりました。」


「本当にSランクにしなくていいの? 初回の納品でこれは、ホントに凄い実績だから遠慮しなくてもいいわよ?」

首を傾げて言うリーシアさん。


「いえ……あまり目立ちたくないので。Aランクのままでいいです。」

Sランクになって名前が広まるとか遠慮したい。


「分かったわ……じゃあ査定の結果ね。今回、ラルフくんが受けた依頼での報酬は、ただでさえ魔物が増えて、素材が圧迫している中の特別なもの、下位の魔物の討伐……ただし一〇体以上ということで──これを見て」

紙をリーシアさんに渡され、それを見る。


紙には──



〈魔石〉

下位の魔石は一個につき銀貨二枚で計銀貨三二八枚

中位の魔石は一個につき銀貨六枚で計銀貨四一四枚

上位の魔石は一個につき大金貨一〇枚で計大金貨五〇枚

〈素材〉

ウルフの毛皮が一つにつき銀貨四枚で銀貨二〇枚

ウェアウルフキングの毛皮一つにつき金貨五枚で金貨五枚

ザックマンティスの鎌一つにつき銀貨五枚で銀貨五枚


総計:銀貨七六七枚、金貨五枚、大金貨五〇枚



──と書かれていた。


「魔物が多くて需要がね……これ以上は厳しいわ。」

ごめんね。とリーシアさん。


 ええ……? 思ってたより凄い額になったので全然問題ない。まだ物価なんて知らないけど、贅沢しなければ暫くは困らないだろう。


 銅貨銀貨金貨、それぞれ一〇枚ずつからスタートした俺は、異世界でちょっとした小金持ちになった気分だ。


「それで大丈夫です。」


「分かったわ。ありがとう。」


その後、リーシアさんが持ってきてくれたお金を受け取った。


 両替してもらうことも考えたけど、使う時に使う分だけ転移させていれば、全部持ち運ぶ必要はないし、いいかなと思ってそのままもらった。


 お金の入った袋を、自室のベッドの下に転移させた俺は、まだ受付にナンパ冒険者がいると面倒なので、転移で路地裏へ移動して冒険者ギルドを後にした。



冒険者ギルドを出ると日が沈み、外は魔道具で明るくなっていた。


 俺はさっさと帰りたいので、歩いて真っ直ぐ前回行った服屋に寄って、上下五着分を購入──出費は大金貨一枚。残っていたお金と、依頼報酬を合わせて所持金が、銅貨一〇枚、銀貨七七二枚、金貨九枚、大金貨五〇枚の俺には痛い出費ではなかった。


 服屋を出たあと、ついでに前回のおっちゃんの所で、自分と女神さまの二人分オーギュムを購入。晩御飯も買って、王都にもう用はないので自室へ帰るため、路地裏へ行きいざ転──


「こんばんは、お兄さん」


──あっぶな! 直ぐ側で、聞き覚えがない声の主に声をかけられ──いや、なんか聞いたことある気がする……でもどこで?


というか声かけられるまで、いることに気付かなかったのだが……。


「……」

振り返って声の主を確認する俺。


 思わず無言になってしまったが、声の主は紫髪の狐っ娘で、外見年齢は中学生くらいだった。やっぱり知らない子だ。


「お兄さん、こんなところで何してるの?」

なんだか怪しいな〜と狐っ娘。


 確かに、夜こんな所にいる俺は怪しいだろうけど、女の子なのに一人でここにいるキミも十分怪しいよ?


「……」

んーなんて言おう、散歩? いや夜に路地裏で散歩て……怪しさしかない。


結局、なんて答えるべきか思いつかず無言になってしまった。


「……お兄さんさ、路地裏好きなの? お昼頃にもいたよね、路地裏」

別の場所だけど……と狐っ娘。


 その言葉で思い出した。ああ! この声は、昼頃二人組の男に絡まれていたボクっ娘の声だ。


「……」


「あ、その顔は思い出した? あの時、ボクが二人組の男に絡まれてるの知ってて離れたよね? 酷いなあ、絡まれて嫌がってる女の子を見て見ぬふりなんてー」

なんとなく、揶揄からかうように言ってる気配がある狐っ娘。


つい、あの時の! って顔をしてしまったみたいだ……。


「……今、そういう感じでここにいるってことは、自分でどうにかできたんだろ?」

なら問題ないじゃないか。


 というか感じ取っただけで実際に見てはいない。ただ面倒なことになる気がしたから、察して素早く離れただけだ。


 それに無事じゃなかったらそんな、ジト目でありながら笑ってる……揶揄ってますって顔なんかできていないはずだ。


無事じゃないのにできているなら、満更でもなかったってことだろうし……。


「そーいう問題じゃない! もー、ボクが冒険者じゃなくて、ただの女の子だったら、大変なことになってたんだからね? ボクの貞操が」

もしかして、ボクのこと知ってて放置したの? と狐っ娘。


 おや? この狐っ娘も冒険者なのか。フードは被っていないが、ローブみたいなの着てて装備はよく分からない。


「……その顔は、知らなかったのに放置したんだね。そっちの方がタチが悪いよ」

まったく……と呆れた様子の狐っ娘。


 なぜ初対面の女子に、呆れられにゃならんのかと思うが、確かにあの時はお昼ご飯が最優先だったとはいえ、今客観的に考えると酷いことをしたかもしれない。


「まあ、そのなんだ……ごめん。無事で何より」

これしか言えない。


「ホントに思ってる?」

はぁ……とため息ついて納得いかない顔をしている狐っ娘。


「ところで……なんで俺に声をかけた?」

ここで会ったのは偶然か? それとも……


 それが今一番気になる。俺を、ただの鬼畜野郎と思っているなら、声をかけるか? かけてもいきなり罵倒かなんかだろう。少なくとも、こんな風ではないと思う。


「あー……うん。確認なんだけど……お兄さんさ、勇者だよね?」

急に顔つきが変わる狐っ娘。


……え。今この狐っ娘なんて言った? 勇者って言ったか? 俺の正体を知っている? ……なぜ? 予想だにしないことに、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。


そうだ、考えて見ればなぜ俺がスルーしたと分かった?



 初対面の話したこともなかった女の子に、なぜか俺の正体がバレているかもしれないことに、よく分からないことが多すぎることに、俺は戸惑いながらも静かに警戒態勢に入った。

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