第37話:中崎族には容赦しない。

「あ? なんだお前」

こちらに振り返って睨みをかせるナンパ冒険者。


 まあ、中崎と同じような人種なら、そういう反応になりますよね。分かってはいたけど我慢できなかった。だが、後悔はしていない……これ以上、いつ終わるか分からない、どうでもいい話を聞き続けるのは無理。


「そのお姉さんに用がある者です。」

知れたことを……並んでいるんだからそれしか無いだろう。しかもさっき、チラッと目が合った気がしたぞ。分かっててやってるだろ。


「は? ははっ無理無理! お前みたいな弱そうな奴を、ナタリアさんが相手するわけねえだろうが」

ゲラゲラと下品に笑うナンパ冒険者。


 こっちが、は? なんだが。みんながみんな、お前みたいな考え方だと思うなよって話。下半身でしか、ものを考えられない中崎族が。


 あとナタリアさんで合ってたみたいだ……よかった。これだけ待って別人だったらホント無理だった。だが本人なら本人でまた用がある……早くおうち帰りたい。家というか部屋だけど。


「なんのことですか?」

ちょっと何言ってるか分からない。


「どうせお前も、ナタリアさんの異性としての魅力に、誘われて来たんだろ? でも残念だったな……ナタリアさんは俺みたいな、顔が良くて強い男が好きなんだよ。分かったら諦めな。」

つまり、俺のことが好みなんだよ。そう言いながら、への字みたいな目をナタリアさんの体に向けるナンパ冒険者。


むかーし流行った、マリモのキャラみたいな目をしている。


 正直ため息しか出ない。なんで俺が、ナタリアさんを狙っている前提なんだ。好みがみんな同じだと思ってんのか? 自分を中心に生き過ぎだろ……。


《じゃあ、シズヤの好みは?》


え? そういえば、考えたことないですね……。


《……》


でも別に、ナタリアさんとお近付きになりたいとは思いません。


「いえ。俺はとしてのナタリアさんには微塵も興味はありません。としての彼女に用があってここにいます。」

それを誤解してもらっては困る。


「えっ」


 ん? そこで声を発したのは何故かナタリアさんだった。声がしたので、ナタリアさんの方を見ると目が合い彼女は、コホンと場を改めた。


 なんで、えっ て言ったんです? 俺もナンパ冒険者コレと同類だと思ってたんですか? もしそうなら、認識を改めていただきたい。


「あの、もしかしてラルフくん……かしら?」

眉をハの字にして確認してくるナタリアさん。


 そういえば、リーシアさんが話してあるって言ってたな……話が通してあるなら早くて助かる。


「はい。ラルフです。お取込み中すいませんが、リーシアさんを呼んでもらってもいいですか? 俺の用件はそれだけなので。」


「おとっ……私は受け入れてないからね? この方が勝手に、言ってるだけだから勘違いしないでね?」

なんかよく分からない訂正を入れてくるナタリアさん。


「どっちでもいいし、なんでも構わないのでリーシアさんお願いします。」


「うぅ……私に本気で興味ない……。」

呼んでくるからちょっと待ってて……と背後の扉から消えて行ったナタリアさん。


寧ろ、初対面で興味津々とか気持ち悪いでしょう。


「おい、お前! オレを無視して何勝手にナタリアさんと話してんだ! しかも、リーシアさんを呼べだと?」

何やら怒り心頭な様子のナンパ冒険者。


 こいつは話を聞いていなかったのか? 俺は、ナタリアさんと話すことを目的に、ここにいるわけじゃないって言ってるだろ。リーシアさんが来たら退くんだから大人しく待っていればいいものを……。


 ナタリアさんがいなくなったことで、面倒なのと二人になってしまった。取り敢えず、早めに戻ってきてくれるのを祈るしかない。


「勝手にってなんですか? 貴方はナタリアさんのなんなんですか──あ、いえ興味無いのでいいです。リーシアさんが来たら、もうナタリアさんに用はないのでその後はお好きにどうぞ。」


 分かってないようなので改めて教えてやる。一度で理解してほしいが、中崎族は人の話を聞かず、自分中心の世界だから解釈の仕方が独特なんだよな。


 ホント面倒な種族……いや、部族? だ。種族は人間だけど、部族が中崎族……厄介極まりない存在だな。


「ぁあ? お前、俺がリーシアさん狙ってるけど、受付にいなくて近付くことすらできねぇから、ナタリアさんにいってることを、知ってて言ってんじゃねぇだろうな!」

またもいらない情報を垂れ流すナンパ冒険者。


 はぁ? 知るかそんなの。興味もないわ! あー面倒。初代さまが衛生面を頑張ったなら、ここにも下水道くらいあるよな? いっそ、下水道に転移させてしまいたい。この世界じゃ高確率で、病気にかかって死ぬと思うけど、そんなの知らない。


 こいつが外で絡んできたら、路地裏で処理──いや殺人は駄目か……結果的に死ぬだけで、直接トドメをさすわけじゃないんだけど……駄目かな?


《シズヤ、なんか思考がどんどん物騒になっていってるわよ?》

めっ! て言う女神さま。


何それ、かわ──コホン……すいません。少し暴走しかけました。


かわ? と女神さま。そこは気にしないでください……。取り敢えず──


「──知らない。興味ない。」


「このっ」

拳を振り上げるナンパ冒険者。


ふん、ついに手を出すか。いいだろう正当防衛が成立──


「なんの騒ぎかしら?」


──このタイミングで来ますかリーシアさん……。


「リーシアさん!? あ、いやこれはその……」

急に、しどろもどろになるナンパ冒険者。


マジで本命なのか……だったら代わりとか作るなよ。別にどうでもいいけど。


「なんでもないです。戻りましたリーシアさん。」


 いい加減帰りたいので、この場はどうでもいい。さっさと納品したい……そういう気持ちを込めて、この件はなんでもないとすることにした。


 次絡んだら容赦しないけどな。クラスメイトじゃないんだから遠慮なんて必要ない。


「え、あぁ……お帰りなさいラルフくん。」

リーシアさんが、いいの? って顔をしながら言うものだから、俺は頷いて答える。


「この人は元々、ナタリアさんに用があるみたいですし、俺たちは行きましょうか。」

にこりとして言ってやる。


「え、ええ……じゃあ、ラルフくん奥にどうぞ」

困惑気味ながらも、のってくれるリーシアさん。


 背後からナンパ冒険者の、んなっ! とか聞こえるが、俺の知ったことではない。


俺とリーシアさんは、ナタリアさんとナンパ冒険者を残して別室へ移動した。



応接室の前に着くと、どうぞ。と言われて俺が先に入る。


「あら? ラルフくん、後ろの肩の辺りが破れているけどどうしたの?」


「え、ホントですか?」


 あ、そういやあの時トレントの不意打ち食らったなあ……衝撃はあったけど、痛みがなかったから忘れてた。


《あ、そういえば言うの忘れていたわ。》

ごめんね。と女神さま。


茶目っ気がある声をしている。俺も忘れていたので大丈夫ですよ。


《シズヤ自身は丈夫だけど、衣類は普通にダメージが入るから、帰りに何着か買って帰った方がいいわね》


確かに……分かりました。


じゃあこの後報酬もらったら、帰りにまた服屋へ行って買い物してから帰るか。


「血は出てないみたいだけど……大丈夫?」

心配してくれるリーシアさん。


「大丈夫ですよ。森で一度だけトレントに、不意打ちされた時のものですが、最初から痛みはないので」


「ええ!?」

俺の言葉に少し大袈裟に驚くリーシアさん。何事ですか。


「リーシアさん……? ホントに痛みは──」


「ラルフくんは! 年にどれだけの人が、トレントの被害に遭ってると思っているの? 魔物の被害でトレントは三位圏内よ? いくらラルフくんが強くても、油断したら駄目だからね?」

ホントに気を付けて! とリーシアさん。


その剣幕に一歩後ずさる俺。


「わ、分かりました。」

って言うしかなかった。それと同時に、リーシアさんは怒らせないようにしようと思った。


 でもリーシアさん、俺はこの世界に来たばかりなので、年単位の魔物の被害云々の詳細は知りません……。まあ俺も、普通の木に紛れ込むトレントは危険だと思ったから、これ以上何も言わないけど。


 俺の返事を聞いたリーシアさんは、ならよろしい。と言い、お茶を準備しに行き戻ってくると、コホンと場を改めた。


「それじゃあ収穫を見せてもらいましょうか。朝言ってた通り、追加査定するから。」

そう言って、にこっとするリーシアさん。



 俺は無言でこくりと頷いて、自室に置いてある納品袋を、この応接室に転移させた。

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