第36話:無双のお時間終了です。
ただ、最高の食材をゲットしたはいいものの、調理器具も異世界の料理知識もない。どうしませう。
悩んでいると高い音の鐘が鳴った。ということは、あと少しでお昼か……丁度いいからオーク肉を扱っている店で、調理法を聞いてみようかな。教えてくれるかは分からないけど。
ゲットしたオークと納品袋をまとめて自室へ転移させ、俺自身も冒険者ギルド付近の路地裏に転移する。
◇───────◇───────◇
さて、ご飯♪ ご飯♪ と路地裏を出ようとすると、俺が転移先にした路地ではない方の路地から声が聞こえた。
あっぶな……こんな路地裏で何やってんだよ? と思うが、特大ブーメランな気がするのでその言葉を飲み込み、その代わり少しだけ耳を澄ませてみる。でも闇取引だったらどうしよう──
「なあ、いいだろ? 奢るからさ〜」
好きなもの食べさせてあげる。と男の声。
「しつこいな……ボクは遠慮するって言ってるだろう?」
一人称がボクだけど女の子の声。
「遠慮しないでいいからさ、俺たちそこそこ稼いでるし」
なんなら今夜の宿代も出すよ? と別の男の声。
「この場合の遠慮は断り文句だよ。いいから離れてくれない?」
近いよ。と先ほどの女の子の声。
要するに、男二人に女の子一人か。
──……さて、ご飯♪ ご飯♪ 俺は何も聞こえなかった。うん。さっさとオーク肉美味しくする方法を探りに行こう。
路地裏を出て、露店が並ぶエリアに到着。お昼時だから人は多い……しかしそれに伴いもちろん店も多い。
その中から良さそうな店を探す。品質鑑定も忘れない。そうやって吟味して良さげな露店を見つけた。
そこはオーク肉を扱っていて、肉の品質が良く売ってるおっちゃんも、そこまで強面ではない。駄目で元々で買い物しつつ聞くことにした。
「こんにちは」
んあ? と俺の声に反応するおっちゃん。
「おう、ボウズ客か?」
見ねえ顔だな。と少し
「客です。二つください。」
二つ分の硬貨を渡しながら注文する。
俺のオーダーを受けておっちゃんは、あいよ。と目の前で作り始める。
このおっちゃんは火魔法が使えるみたいだ。おっちゃんは鉄板のようなものに白い液体を流して焼き、クレープ生地みたいなものを作る。そこに別で焼いたオーク肉や、赤色の玉ねぎもどきのスライスを乗せて、タレをかけくるくる巻いて完成。
見た目は肉がメインのクレープもどき。ちなみにお一つ銀貨五枚。二つで金貨一枚の出費。
食欲がそそられる匂いに、さっきからお腹がぐーぐーうるさい。出来立ての一つ目を受け取ると、二つ目を作っているのを見ながら声をかける。
「あの、オーク肉が美味しくなる焼き方ってありますか?」
タレとかは企業秘密だと思うので焼き方を聞いてみた。これなら問題ないだろう。
俺の質問に作りながらこちらを見るおっちゃん。
「美味い焼き方だ? そんなのは知らねえが、魔物の肉は総じてその魔物が死んでからの時間経過で味が落ちていく。だから冒険者ってやつは、その場で締めて食うことが多い。それが一番美味いからだ。」
中級冒険者から上しか出来ねぇ食い方だけどな。とおっちゃん。
へぇ……いいこと聞いた。中級っていうとBやCくらいかな? まあ俺には関係ないけど。
それでいくと魔物の手足落として、まだかろうじて生きてる時点で運んで、調理する時に締めたら最高品質ってことになるのか。
「有益な情報をありがとうございます。」
二個目ができたのでお礼を言いながら受け取る。
「あいよ。ボウズ、冒険者でも目指してんのか?」
目指してるのか……か、もう冒険者なんだけど見た目的には、そうは見えないよなあ。武器含めて装備なんてないし。普通の冒険者は、いわば私服や軽装で魔物がいる森になんて入らないだろう。
「ええ、まあそんなとこです。」
わざわざ説明する必要もないので流す。
「それと、その喋り方……もしかして貴族だったりするのか?」
しかしお貴族様がこんな所に? しかもオークの肉を……と少し疑心暗鬼な感じのおっちゃん。
喋り方? あー、俺が話したことあるのって、デフォがタメ口のクラスメイト以外は城の人だったり、受付嬢のお姉さんだったりで、敬語がほとんどだから……。
貴族以外はあまり敬語使わないのかな? 気を付けるべきかもしれない……貴族と間違われて人攫いとか勘弁してほしいし。まあ、転移で脱出するけどね。
そして気になったことが一つ。
オーク肉……というか魔物の肉ってもしかしてゲテモノ扱い?
「貴族ではないですよ。それより……貴族はオーク肉食べないんですか?」
こんなに美味しいお肉なのに?
「ああ、オークに限らず魔物の肉は、偏見がなくて最高級を食ったことがある貴族なら、食うかもしれねぇが……ほとんどの貴族は食わねぇだろうな。」
なんとも言えない顔をするおっちゃん。
「なるほど……?」
「一度でもまずいもの食っちまうと駄目なのさ。品質の良いもの以外は、味が逆に最悪だ。」
食わねぇ方がいい程にな。と渋い顔するおっちゃん。
「え、そうなんですか?」
勝手に焼肉店から、スーパーの割引肉くらいの変化だと思っていたけど、これは相当差がありそうだな……。
品質管理には気を付けよう──あ、そうすると今あるオークは廃棄だな……ん? 別に森で寄ってくるの待たなくても、一度触れてる魔物なら召喚みたいに、転移で取り寄せればいいのか!
俺なら仕入れから納品までできるから、魔物肉で商売できるかもしれない。いや魔物肉に限らず可能ではあるんだけど。
「品質が良いものは、最高級料理店もしくは俺たちみたいな露店が扱ってたりするが……前者は金が足りなかったり、後者は自尊心が高過ぎる貴族が、足を運ぶ場所じゃねぇからな。最高級を知ってる本物の貴族以外には嫌われてるのさ。」
こんなに美味いのにな。とおっちゃん。
半端な貴族ってやつは、プライド一つでこんなに美味いものを知らないのか……損な身分だな。
「もったいないですね。俺はそんなしがらみ無い一般人なので、また買いにきますよ」
勇者だけど、貴族ではないし変なこだわりもない。鑑定がなかったら来なかっただろうけど、鑑定があるから安心できる……買わない理由はない。
「気に入ったか。俺のオーギュムは他に負けねぇタレ使ってるからな、また来い。」
客なら歓迎するぜ。とおっちゃん。
俺はそれではまた。と言ってその露店を離れた。ついでに知れた料理名。価値観や、品質管理の仕方も知れたし有意義な時間になった。
離れてから路地裏に入って自室へ転移。女神さまに降臨してもらって、お昼ご飯として二人で絶賛しながら、
◇───────◇───────◇
森へ戻ってからまた暫く無双していたが、残念ながら新しい魔物には会えなかった。
情報を得たものの、異世界の調理器具や料理知識は無いままなので、オークを転移で取り寄せることもやめて、自室にあるオークも埋葬転移した。
それから日が沈み始め、納品袋が魔石とエイプの尻尾でいっぱいになったタイミングで、頃合いだと思い本日の無双のお時間は終了。
納品袋を自室に置いてから、冒険者ギルド付近の路地裏に転移した。
◆───────◆───────◆
転移後すぐに中へ入り、リーシアさんに言われた受付嬢のお姉さん──えっと……カ、タ? カナリアみたいな名前の白い人を探す。
《ナタリアよ……》
呆れ気味だけど女神さまが教えてくれた。
今日はいつもより、呆れられる回数が多い気がする俺ですが……そうそう! そのナタリアさん!
確か白い人……そう思っていくつかある受付を見ていくと一番奥に全体的に白い人発見。多分あの人だ。
俺はほぼ確信したので、真っ直ぐその受付に向かった。
しかし俺が着く前に、別の冒険者がナタリアさん……(仮)に声をかけてしまったので並んで待つことになった。
それから待つこと二〇分ほど。俺の番はまだ来ない。
そして、今ナタリアさん(仮)と話している冒険者はというと、自分の実績を織り交ぜながらナタリアさん(仮)を夕食に誘っているようだ。
正直あとにしてほしい。この人がナタリアさんなら、俺にとってはリーシアさんを円滑に呼んでもらうために、取り次いでくれる人でしかない。
だからさっさと話しかけて、目的を果たせばあとは何時間でもお好きにどうぞ。なんだけど……それを邪魔する目の前のナンパ冒険者。
少しイラッとする。この周りの人のことを考えず、女に絡む姿が中崎を
「あの、それ今じゃなきゃ駄目ですか?」
──と言ってしまった。
ちょっとこれ以上、このどうでもいい情報を垂れ流すナンパ冒険者の話が終わるのを、大人しく待つことは無理だった。
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