第39話:Aランク冒険者ルミナ

この子が味方ならまだしも、敵だった場合は……そう思っていると。


なんと、ロイルさんのコールキューブがコール。


『今お時間──』


「今はすいません。後で──コールオフ」


 即座に切る。あまり現状では、この狐っ娘に情報を与えるべきではないだろう。既に手遅れな気がしないでもないが……。


「あはは……そんなに警戒しないでよお兄さん。ボクは敵じゃないから安心して」

切ってよかったの? と苦笑する狐っ娘。


「初対面なのに、どうやって信じろと?」

いぶかしむ俺。


 いきなり現れて、味方だよ! で信じるやつはいない……はず。少なくとも俺は信じられないタイプだ。


「んーそう言われると、つらいものがあるけど……ボクの秘密を教えてあげるから、それで痛み分けでどう?」

首を傾げて尻尾ゆらりと狐っ娘。


 そう言われても……本当に痛み分けになる情報なのかも、こっちは判断しようがないしなあ。


「それは本当に釣り合う秘密なのか?」

俺が勇者って秘密と。


「うん。誰にも言ったことがない秘密。これを他の人にバラされると、ボクは生きるのが難しくなるかもしれない」

少し悲しげな顔をする狐っ娘。


 でも俺はそう簡単に絆されない。てか、かもしれないだけかよ……まあ、何も情報が無いよりはマシか……?


「……いいだろう。」

腕を組んで渋々承諾。


「ホント? 交渉成立だね! じゃあさ、どこか他の人に話を聞かれない場所に移動しようか。ここだと、誰が聞いてるか分からないしさ」

急にパァァッと明るくなって、場所の移動を提案してくる狐っ娘。尻尾が上を向く。


「どこかってどこに? 俺はこの王都に詳しくないぞ」


 ぶっちゃけ王都よりも、森を練り歩いている時間の方が、長いかもしれないまである。


「んー、お兄さんの部屋は?」

無邪気なのかバカなのか、そんなこと言い出す狐っ娘。


なんでそうなる。嫌だし、どの道無理だ。


「監視されてる。」


 監視? うん、あれは監視だろ。盗み聞きもしてるし、あの部屋でプライバシーなんてあったもんじゃない。


「え゛何それどういう状況?」

少し引き気味の狐っ娘。


 まあ、第三者からしたらドン引く状況だよなあ。分かりみが深い。どういうって……強いて言うなら、勇者がどんな人間なのかを探ってる。そんな感じかな?


「俺という存在を探るため?」

それ以外に言いようがない。


 問題が解決していないのに、危害を加えたら召喚した意味がないし、俺って人間がどんな人間なのかを、知っておきたいんだろう。


 問題解決してから……は、どういう行動してくるか分からないけどな。もし面倒なことになりそうなら、最悪この国を出るだけだ。


いっそ空に浮かぶ島とかないかなあ……何がなんでも住むんだけど。


「何それ……怖。でもそれじゃダメだなぁ……あ、じゃあボクが借りてる宿に行こうか?」

とんでもない提案をしてくる狐っ娘。それもアウト。


「え、何それやだ。それに少し軽率では? 俺、男だけど」

貞操観念バグってることない?


「えー……男女の意識があるのに、即答で拒否は女の子として、少し傷つくんだけど」

照れるくらいしない? とジト目の狐っ娘。


「勉強料だ。その程度の傷で学べてよかったな。」


言う人を間違えたら一生消えない傷になってたぞ。


「誰にでも言うわけじゃないけどね?」

お兄さんはボクが嫌がることしないかなって。と狐っ娘。


さっきから何、この謎の信頼。初対面だよな?


「そういうこと言ってたから、絡まれたんじゃないのか?」


お兄さんそんな気がしてきたよ?


「違うよ……あの時、断ってたでしょ。聞いてなかった? そもそも、あそこで絡まれたのは、お兄さんのせいでもあるんだけどね」

はぁ……とため息つく狐っ娘。


 意味が分からなくて首を傾げる俺。どういう意味だ? 俺を追っていたら絡まれたとでも言うつもりか?──


「勇者の気配を追ってたら、いつの間にかあそこにいて……運悪く絡まれちゃったんだよ」

また一つため息つく狐っ娘。


──言うつもりか。ふむ、勇者の気配……そんなのあるのか。いや、そもそも何故そんなの分かる?


「単刀直入に聞くが、なんで俺が勇者だと分かった?」

一番の疑問だよまったく。


「ああもう! それは移動したあと! だからどこかいい所、思い付かない?」

ボクも詳しいわけではないんだよね……と狐っ娘。


王都に住んでいるわけではないのか……そういや宿があるって言ってたな。


 取り敢えず、人気ひとけが無い場所か……それをイメージして転移してみようか? もうそれしかない気がする。俺ら二人して王都詳しくないみたいだし。


 俺が勇者だとバレてる相手になら、まあバレるのも時間の問題だと思うし、いいかな……この狐っ娘、悪い奴って感じはしないし。


 俺に、人を見る目なんてあるのか知らんけど……直感。外れたらドンマイだ。その時は処理すればいいだけ。


「よし、分かった。俺に掴まってくれ、人気がない場所に連れて行く。」


そうと決まればさっさと行動。


「うわ、それだけ聞くと怪しさ満点だね。お兄さんじゃなかったら、絶対従わないよ?」

あ、今のキュンってした? と狐っ娘。


いや、まったくしない。


「そうかい。なら、はよ」

話はするが、極力さっさと終わらせて帰りたいので急かす。


 はいはい……と狐っ娘が俺の裾を掴んだのを確認して、をイメージし転移した。



◇───────◇───────◇



 そしてやって来ました、ここは──森? 森のどこか! 辺りは月明かりに照らされた木々。


 魔道具の灯りも無いので、星の光だけで視界が照らされている。空を見上げると、今夜は月が綺麗に輝く夜だった。


 普段あまり……というか全然、空を見上げることってないけど、案外いいものなんだな。空は元の世界とあまり変わらないみたいだ。月が二、三個あるわけでもない。月の周りによく分からないのはあるけど……後で調べてみよう。


「わあ! ここって〖ハイネの森〗? 一瞬で王都から森に来ちゃうとか凄いね! それがお兄さんの勇者としての力?」

ハイテンションになって、俺から少し離れ森を見る狐っ娘。


 おい、今知らない名前が……この森名前があって、ハイネの森っていうの? 初耳なんだが。森としか聞いたことない……。


「ああ、まあそんな所だ……それより、ここはハイネの森っていうのか?」


「ん? ここはっていうか……森だし、そうだね。」


「へぇ……」


 森=ハイネの森でいい感じか。まあわざわざハイネのって付けなくても、森で伝わるからいいだろうけど。ハイネってどっから来たんだろうか?


「お兄さんは冒険者にはなってないの?」

でも森に来たことあるよね? と狐っ娘。


なんで知ってんの?


「え、いやなったけど……なったばかりで、まだよく分かっていない。」


 武器も装備もないから、下手に他の冒険者に近付いて、ボロが出ても困るしな……。金が入ったし短剣くらいは持つべきか……?


「んーじゃあ、ボクが冒険者としては先輩だね! 聞いてくれれば、ボクが知ってることは教えるよ?」

何が知りたい? と狐っ娘。


「それはありがたい。でもそれよりもまず、お前の正体を教えろよ」

話はそれからだ。


 俺がそう言うと、あ! そうだったね。と言って少し離れた場所にいた狐っ娘はこちらに近寄った。


「では改めまして、ボクの名前はルミナ。Aランク冒険者だよ! よろしくね、お兄さん。」

と笑顔で自己紹介。


ふむ、この狐っ娘Aランクなのか……。


「それで?」

それだけじゃないだろ。と俺。


「え? ああ、スリーサイズ?」

えっとねえ……と狐っ娘。


「聞いてない! 違くて、お前は何者だ?」

なんでこのタイミングでスリーサイズだよ! 知ってどうしろと?


「あー、そっちね……というか、お前じゃなくてルミナ!」

ムスッとして訂正してくる狐っ娘。


 そっちねって、そっちしかないだろうが! くっ……こいつ話が脱線しかしない。お前なんか狐っ娘で十分だ!


「あーはいはい。で?」

流すに限る。


「ボクの名前は?」

んー? と狐っ娘。近い。


「……」

でも屈しない。


「ボクの名前はあ?」

な・ま・え! と……ぇえい近い近い近いっ!


「……ルミナ」

屈した。屈してしまった。


「よくできました! じゃあ約束通り教えるね。ボクの適正魔法ね──闇魔法なんだ」

俺からふわっと離れて、にっと笑って言う狐っ娘。


 くぁ! こいつ面倒くさい! ……は? 闇魔法? 一番珍しいってやつじゃなかったか? それは確かにバレたら生きづらく──


「それとね、ボクは初代勇者の子孫だよ」

けろりとして言うものだから、こちらはポカンとしてしまった。


──……ん? ちょっと待て、情報量が多くてバグりそう。え、何この狐っ娘って闇魔法の使い手で初代勇者の子孫なの?



それは名前、覚えるべきかもしれない……。

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フラれた瞬間クラス転移!お目当ては俺。異世界に来て分かったことは【転移魔法】さえあれば結構どうにでもなる。 夏月(改稿中) @kaduki00

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