第30話:朝、健全な男子高校生に接近禁止。

「鑑定しましたが……これホントに貰ってもいいものなんですか?」


不安なので言質を取らせてもらう。


「陛下が許可を出し、宰相閣下に渡すよう言われたので、大丈夫だと思いますよ。ただ、古代の遺物で壊しても直せない物ですので、取り扱いにはお気をつけ下さい。」


「分かりました……。」

そういうことなら遠慮なく。


しかし困ったことが一つ。


俺、ピアス開いてません。どうしたものか……。


《シズヤ、今このタイミングで“旅の件は無しで”って伝えてもらったら?》


このタイミングで、ですか?


《古代の遺物を貰ったから──みたいな感じになるじゃない? 元々転移があって、旅なんかいらないんだから、ここで外しちゃいなさいよ。専属メイドちゃんみたいな引き留め工作がなくなると思うわよ?》


 カトレアさんが引き留め役……カトレアさんがいるから他国へは行かないって言うと思ってるのか? なにゆえ? 


《ほら、現地妻的な……》

もごもごする女神さま。


《色仕掛けの類ってことですか?》


《まあそんな感じかしら》

この国に引き止めようと必死なのよ。と女神さま。


 俺の女性のタイプも知らないのに、よく分からないことをする……。しかし、色仕掛けというなら、俺が嵌まらなければいい話か、問題はないな。


「あ、カトレアさん。一つロイルさんに伝言を頼んでもいいですか?」


「伝言……でございますか?」

頭を傾げるカトレアさん。


「はい。〖約束の旅の件は無しにします。〗これだけ、伝えてもらえば分かると思います。」

よろしくお願いしますね。ロイルさんスマイルで。


「かっ 畏まりました!」


「ではそろそろ寝ようと思うので──」


「は、はい! よろこ──」


「出てもらっていいですか?」


 貴族なんだから貞操観念! 俺が勇者だからか? 命令だからか? そのノリノリな感じやめてもろて。お淑やかにどうぞ。


カトレアさんは、はい……。と返事。


おやすみなさいませ。と言って出ていった。


疲れた……さっさと夕飯を買いに行って食べて寝よう。王都の路地裏へ転移。



◆───────◆───────◆



 やって来ました、王都! の路地裏。串焼き肉のお店でリピートしようと思ったが目移り。そのお隣のケバブもどきに引き寄せられて鑑定。


 こちらも品質は良と出た。販売のおっちゃんも、衛生的にやばそうには見えなかったので今夜はここに決定!


《女神さまも食べますか?》


《お金、大丈夫?》

ふところを心配してくれる優しき女神さま。


《大丈夫です! 明日、稼ぐ予定ですのでお気になさらず》


《それなら……お願いしようかな》


女神さまのお願いならなんでも──なんか危ない奴っぽいな俺。


気を取り直して購入を決めた露店へ。


「すいません。二つ下さい。」

指を二本立てながら注文。


「あいよ」

硬貨を渡して商品を受け取る。


 こちらも感じ悪くなかったのでホッとする。どこもなぜか顔はおっかないよ。なめられないようにするためかなー……と察するところはあるけども。


 ケバブもどきも魔物肉だった。スライムとオークを使ってるみたいだ。一つ金貨一枚──計金貨二枚の出費。だから女神さまは心配してくれたのだが、明日は検証兼ねて狩りまくる予定なので問題はない。



◇───────◇───────◇



自室へ転移。手を洗ってソファーで早速いただくことにする。


 そのタイミングで女神さま降臨。やっぱり何故かドキドキする。神々しさに当てられてかもしれない。


「どうぞ。」

ケバブもどきを渡す。


「ありがとう」

受け取る女神さま。


二人揃っていただきます。


 うまっ! 串焼き肉の時も思ったけど、オークの肉が美味すぎる。今回はスライムがプラスされているが、これもまたプルプルというかクニクニというか、なんとも言えない食感ではあるものの美味い! それとタレ、これが高い理由かもしれない最高に美味びみ


「ん〜これも美味しいわね!」

美味しそうに頬張る女神さま。かわ──女神さまにも喜んでいただけたようで何よりです。



 食べ終えたら明日の荷物の確認──確認と言っても、荷物なんて納品袋と討伐証明部位が書いてある紙くらいだけど……。忘れ物しても戻れるけど一応、ね。形から入るタイプ──ではないけどなんとなく。


そしてベッドへ転移。


そこで気付く。食べ終わっても戻ってない女神さまがベッド横にいる。


「女神さま?」

どうかしましたか? と俺。


 女神さまは俺の問いかけにビクッとするもおずおずと、何故かベッドに手をついた。その光景だけで俺、失神しそうなんですけど何事ですか?


「添い寝……する?」

恥ずかしげに言う女神さま。


なんで? え、なにゆえ? 頭にクエスチョンマークが増産される。


「え……?」


「あ、ちっ違うの! その、緊張して眠れないかな……って」


 何が違うのか分からないが……ああ、なるほど。寝れずに寝坊することを心配してくれたのか。ホント優しい女神さまだなあ。


「大丈夫ですよ、普通に寝れそうです。ただ起きられるか怪しいので……高い音の鐘が鳴っても起きなかったら、その時は起こしてもらってもいいですか?」


「わ、分かったわ。」

ぐっ と拳を握る女神さま。その拳で起こすわけじゃないですよね?


 少し不安になるが、腹が膨れ食欲が満たされたので、だんだんまぶたが重くなる。


「えっと……それじゃあ女神さま、おやすみなさい……」


女神さまが戻るのを見届ける間もなく俺は睡魔に落とされた。




────────────────────

────────────

──────




──……何やら高い鐘の音が聞こえて意識が少しだけ浮上する。


でも体を動かす脳は起きてないので動けはしない。


まどろみの中ふわふわとしたまま夢の中へ戻されそうになる。


「──ゃ」


鈴が鳴るような音……いや声が聞こえた気がして、また意識が少し浮上する。


「──ズヤ」


「んー」

もうちょっと……


「鐘鳴ったわよ」

鈴の音のような綺麗な声……


「んんー」

わかりましたぁ……


「シズ──ひゃんっ」


……シズ、ひゃん……?


 だんだん頭が動くようになってくると、目が開けられるようになる。薄く開けてみるも、視界はぼやけていてよく分からない。


 分かるのは、俺の顔が何か柔らかいものに包まれている。ということくらい……そう、丁度昨晩食べたスライムのような……──そこでなぜか、急激に意識が覚醒した。


 目をしっかり開けるも、視界はよく分からない。ただ顔まわりの感触と俺が何かを抱きしめていることは分かり、昨晩の光景がフラッシュバックする。


……何かを察してしまった。しかし、こういう場合はゆっくり行動すべきなのか、バッと行動すべきなのか……少し考えて、怪我させるといけないので前者に決めた。


ゆっくり離れて……恐る恐る確認するが予想通りだった。


「……おはようございます。女神さま」


「おはよう……シズヤ」

俺から目を逸らす女神さま。


「えっとすいません……でも一ついいですか? 戻れば、抜け出せましたよね……?」

なぜしなかったのか……。


「できたけど……シズヤが求めてくれてる気がして、なんだか嬉しくなっちゃって……てへ?」

星じゃない感じがウザさよりも、可愛い女神さま。……許そう。


 自身のチョロさに少し嫌になるも、おかげで意識は完全に覚醒したので起きることにする。


「無意識とはいえ、くっついたのは謝りますが……俺も一応男なので、身の危険を感じたら戻ってくださいね。」


 女神さまに注意をしつつ自身を落ち着かせる。何がとは言わないが、健康男児なので朝からすこぶる元気です。落ち着けクールダウンだ俺……。


《そうね……最初はなんともなかったけど、途中で太腿にかた──》


《あああああッ!?》


ダメです。やめてください生理現象ですっ! 致し方ないことです!!


慌てる俺に、ふふっ と女神さま。くっ 分かっててやってる気配!


 というか、いつの間にか戻ってるし……ダメだこのままじゃ出遅れる。顔洗って支度しよう。女神さまのからかいをかわしながら準備していった。



 顔洗ったし、正体隠しセットのネックレスとイヤーカフス、それからピアスもつけた──ピアスは開いていないので、小さく穴を開けるように耳の一部を転移。多分ピアス開ける時って、あんな感じなんだろうなっていう痛みがあった。


 そこで丁度いいので、お試しで〖痛みを転移〗できるのか試してみたところ──できた。もう痛みは無い。痛みって概念、だよな……? もしかしたら〖概念の転移〗ができる可能性が出てきた。あとで魔物で試してみよう。


 痛みの転移先は指定はしてないけど、中崎にでも行ってしまえと思ってたから、もしかしたら中崎に行ったかもしれない。まあいいや。


 元は染めたことがないので真っ黒だった俺の髪、カラコンなんて使ったことないので真っ黒な瞳。それが現在──ネックレスの効果で髪色は白。瞳の色は青になった。


 目立つ色な気がしなくもないが、この世界では珍しい色じゃなさそうだし……万が一、目立ってもそこは認識阻害やら、記憶干渉がなんとかしてくれるだろう。服は制服ではなく買った方の服。


よし、準備オーケー。いざ冒険者ギルド付近の路地裏をイメージして転移!

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