第31話:無双のお時間です。1

 やって来ました、冒険者ギルド付近の路地裏! 何かあっても面倒なので、ササッと表へ出て冒険者ギルド内に入る。


 前に来た時より明らかに、掲示板に貼ってある依頼クエストも人の数も多かった。


 そしてなんで俺が初心者扱いされるのかが分かった。いや、初心者で間違いではないんだけどね……。


 なんと皆さん屈強な猛者って感じの装備。見た目だけで強そうってなる人が多数……しかし戦闘スタイル次第じゃない? そんなガチガチにしても、肝心な時に動けなかったら意味がないし……戦闘スタイルによっては防具なんて無くても問題ないと思う。


《それはシズヤだけよ……》

女神さまからツッコまれた。


そうなんですか?


《普通は魔物からの攻撃に備えたり、武器を持つ上で装備が必要になってくるのよ》


魔法専門は軽装だけどなあ……


《あれはローブが防御力アップとか、そういう加工をされているのよ》


なるほど……。



取り敢えず、掲示板で依頼を物色してみる。


 よく見ると、その依頼での推奨ランクがあったり、なんの魔物が出る可能性があるとか、期間はいつまでとか成功報酬がいくらで、失敗した場合はどうなるかなど、思っていたよりもしっかり書かれていて分かりやすい。


 その中から、活動初日の依頼に決めたものを、他の冒険者同様に掲示板から剥がして、カウンターへ持っていく。


「あら? 見ない顔ね……君、登録したばかりかしら?」

俺の顔を見て首を傾げる猫耳お姉さん。お初の人だった。


「どうも。リーシアさんいますか?」

以前とは違い堂々とする俺。


「え、リーシアさんって……お知り合いなの?」

困惑気味の猫耳お姉さん。


「知り合いというか、担当の方です。」

それ以外言いようがない関係性。


「ええっ! リーシアさんに担当なんていたかしら……? んー、確認するから名前、聞いてもいいかしら?」


どうやら門前払いは無いようで内心ホッとする。


「ラルフです。」


「分かったわ。ちょっと待っててね」


そう言って背後の扉から奥に消えていく猫耳お姉さん。


 俺は待っている間、ギルド内を見渡してみる。当然、と言っていいかは分からないが、クラスメイトは一人もいないようだ。居たら居たで面倒なので、居ないのはありがたい。


まあ居ても自ら関わるつもりはないけど。


 それから体感で五分くらいしたところで扉が開き、そこから出てきたのは猫耳お姉さんとリーシアさんだった。


「お待たせしま──え、ラルフさん?」

困惑気味のリーシアさん。


「こんにちはリーシアさん。今日から活動を始めようと思って──あ、諸々あとでにして下さい。」


 挨拶途中で気付いた。そういや以前会った時と、髪色も瞳の色も違うということに。


「か、畏まりました……あ、大丈夫よアルナ。私の担当で間違いないから代わるわ」


「分かりました……では失礼します。」


 再び背後の扉から奥に消える猫耳お姉さん。完全に、見えなくなるのを待ってから、こちらに向き直るリーシアさん。


「えっと、それでは……ラルフさん、どうしたんですかその髪と瞳」

色が……本当にラルフさんですよね? とリーシアさん。


「これは、いただいた古代の遺物アーティファクトで変えてるだけですので気にしないで下さい。」


「あ、古代の遺物ですか……? それはまた凄いものを……ですが、そういうことなら分かりました。それで、本日はいかがなさいましたか?」

困惑は拭えないものの無理矢理納得してくれた様子のリーシアさん。


「実は今日から動こうと思いまして、早起きして依頼を確保しました。」

これなんですが、と剥がしてきた依頼を渡す俺。


「そういうことですね、畏まりました。ではギルドカードをお預かりしても?」


ポケットからギルドカードを出して渡す。渡したのはもちろんラルフの方だ。


「お預かりします。これだとまだ仮登録ですので、このカードに本人確認用として、魔力を登録しましょう。血を一滴ギルドカードにお願いします。」

本来なら作った際に、登録するのですがまだですよね? と、そう言って小さなナイフを渡される。


「え……血、ですか?」

少し怖いかも……。


「少し指先を、プスッとしてもらうだけで大丈夫ですよ? その後も、回復薬を染み込ませた布で治療するので安心して下さい。」

にこっとするリーシアさん。


 いつまでもヒヨっていては、男としていかがなものかと意を決してプスッとする。じわりと血が滴る指……無理矢理、裁縫をやらされて刺してしまった時のようだった。


 それをそのままカードへ垂らすと、カードは血で汚れることなく、血は吸収されるように消えてしまった。


「はい。これで本登録が完了しました。初めて、吸収される血液以外での上書きは不可能ですので、これで本人確認が可能となります。身分証としてお使いになれるものなので、失くさないようにして下さいね。」


「分かりました。」


「もし、失くした場合は早めに言って下さい。本人以外には使えないので、悪用されることはないと思いますが、再発行しますので。ただし、その際は手数料として一〇万ロトかかりますので覚えておいて下さいね。」

またもや、にこっとするリーシアさん。


 一〇万ロトってことは一〇万円!? 確か、大金貨一〇枚だったはず……失くす人を減らそうとしてだろうけど……高ッ! 気を付けよう。


「失くしません……。」

というか失くせません。


懐のオーバーキルもいいとこですよ。今のままでは再発行が不可能です。


「それと、本登録後に討伐された魔物は、その時カードを所持していると登録されます。ご自身で討伐していない、魔物の買取は禁止ですので、気を付けて下さいね。」

両手でバツを作りながら言うリーシアさん。


 どういう原理が分からないが、血を使って登録したカードを所持していれば、自分で討伐した魔物かが分かるらしい。知っても仕方ないので、気にしなくてもいいか……凄いな異世界。これで納得しておこう。


「本日は……そのままで?」

眉をハの字にして聞いてくるリーシアさん。


そのままって装備的なもの?


「そうです。」

それしかないので。要らないというのもありますが。


「……無いと思いますが、ご無事で帰ってきて下さいね? 依頼達成の報告時にも、私を呼び出して下さい。買取も含めて私が担当しますので。」

待ってますね。とリーシアさん。


「分かりました。」

やっぱりこの格好だと軽装過ぎるのか……。おお、リーシアさんがいれば面倒ごとが減りそうで何よりです。


《冒険者というよりは休日の一般人だものね……》


あー……防御力なんて一切ないからなあ。


「では依頼確認します……〔下位個体の魔物複数体の討伐〕、ですか……。期間は本日の夕刻の鐘まで、報酬は一体につき銀貨二枚、ただこれは注意喚起として一〇体以上とありますが……大丈夫ですか?」

俺の魔法を見たことがないからか、不安そうな顔をするリーシアさん。


 魔物の削減に、なりふり構ってられない状況なのか、こういった依頼が多く見受けられた。複数体を厳守としてであれば単体よりも高く買取ますよってやつだ。俺には好都合。


「大丈夫です。一〇体以上なら何体でもいいんですよね?」


「はい……現在は上限がありません。しかし無理はなさらないで下さいね。」


「分かりました。では行ってきます。」


 まだ不安そうだけど、行ってらっしゃいませ。と一礼してくれたリーシアさんに見送られて、俺はわくわくしながら冒険者ギルドを出た。


 出てから再び路地裏へ行き、遠目でも見える外壁の大きな門……ではなくまたその付近の路地裏にイメージ転移。


 お初の場所は、どうしても初回イメージ転移だけど、一度でも行ってしまえばこちらのものである。



◇───────◇───────◇



 そして、その転移先からは歩きで門へ向かう。見えるのは検問されているちょっとした人の列。時間帯のせいか行列ではない。


 入る際はもちろん、出る際にも検問が必要みたいだ。お尋ね者が逃げ出さないようにかな? と察したので大人しく並ぶ。


 転移でスルーしようかとも考えたが、そればかりだと風情がないなー、なんて思ったので並んでみた。行列なら並ばないけどね。



 並んでから五分くらいして自分の番が来た。門番兵、衛兵? に言われた通りにギルドカードを出す。ギルドカードを確認した後に、透明の四角い石……水晶? に手を置くと青く光った。赤くなければ問題ないらしい。


 犯罪の有無が分かる感じかな? 仕組み的にはギルドカードと同じような? さすが異世界。これに尽きる。あと、丸くない水晶なんて初めて見た。


通ることに許可をもらったので、いざ森へ。


入って数分、早速ゴブリン一体にエンカウント。鑑定で魔物名が分かった。


 さあ、無双のお時間です。やらなければならない検証は、まだまだあるので色々試していきますよ。


 まずは周りに人がいないかを確認。索敵能力なんてないので、隠れて気配を消されるなんて、上級技術使われたら分からないけど一応確認は怠らない。


 ゴブリンから目は離さない。さて、まず何を試すか……取り敢えず、触れておきたい。でも怪我はしたくない。なのでその辺の木に触れて、手頃な枝を転移で拝借。転移で削って木刀のようにし武器とする。


その枝で向かってきたゴブリンを軽く殴ってみる。


 ギャギャッ と言って吹っ飛ぶが、直ぐに立ち上がる。これでは、倒れている時に触れるなんてできそうにない。なので取り敢えず、一体はこの枝で倒すことにした──のに、一体が声を出したらなんと目の前のゴブリンの左右から、もう二体ゴブリンが出てきた。三対一だったのか……。


 今度は三体同時に来るようだったので、ゴブリン達の背後に転移。殴るのではなく触れることにした。最初から転移で背後取って、触れればよかったんじゃ? とか言わないでほしい……。初めての戦闘で少なからずテンパってる。


 一度触れてしまえばこっちのもの。まずは一体を対象に手足を転移で切り離す──成功。ゴブリンの血は赤色だった。


 ならば、もう二体は〖複数対象に同時転移が可能かどうか〗を試すことにしよう。残りの二体は同時に対象として、手足を転移で切り離してみる──成功した。


 手足が失くなったゴブリン三体は、まだ死なずに困惑しているのか、ギャギャッ と騒いでいる。耳障りなので、頭を転移で三体同時に切り離すとやっと静かになった。美味しくなさそうだし討伐だけにしよう。



取り敢えず、もうゴブリンに敵はいないかもしれない。





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