第29話:前準備完了

 謁見の間を出てから、そのまま騎士団長に食堂まで、連れてこられて俺たちは椅子に座らせられる。委員長も珍しく俺たち側に座っている……何が始まるんだ?


「謁見後で悪いが、訓練後でもあるから言わせてもらう。お前達に訓練着を買ってこいと言ったがいくら残った?」

訓練後に時間がなかったから聞かなかったが、と騎士団長。


 まさかの答え合わせが始まった。俺帰っていいですか? 目立つから帰らないけど……自室帰りたい。


 あと騎士団長、教える立場になったからか最初より、話し方……雰囲気? が変わっている気がする……。まあなんでもいいけど。


 騎士団長の問いかけに、ざわざわするクラスメイト達。あちらこちらで友人と、いくらだったか話しているような声が聞こえてくる。


「静かに! 一人一人に聞いてもいいが……」

騎士団長がとんでもないこと言い出す。


うわ、それは是非やめていただきたい。


「じゃあこの中で金貨が残っている奴はいるか?」

残っている硬貨から残金を聞き始める騎士団長。


 誰も手を上げないクラスメイト達。まじですか? 俺はあるけど挙げないよ、絶対絡まれるから。


「じゃあ、銀貨が残っている奴はいるか?」

何かを察したのか渋い顔になった騎士団長。


これにも手を挙げないクラスメイト達。え?


「……銅貨が残っている奴はいるか?」

ついには手でこめかみを抑える騎士団長。


流石にチラホラ手を挙げる人がいるが半分くらい。


 俺も驚愕。なんでみんなそんなに無いの? そういや副委員長たちも、使い切ったって言ってたか……。そっち系が高いだけなのか、ぼったくられただけなのか、だよな……騎士団長の反応から察するに後者だろうなあ。


「お前ら……」

頭抱えちゃってる騎士団長。


ざわざわしてるクラスメイト達に、はあ……もういい。と言うと委員長を見る。


「ソウマ、お前もか……」

渋い顔の騎士団長。


「はい……その、外壁に近いほど一般区と聞いていたので、それをみんなに伝えて、僕自身も外壁付近の店で買いました。」

言いづらそうに白状する委員長。


 外壁付近の店か……魔物の被害があったら、一番最初にやられるところだし、金稼ぎにたくましいんじゃないか? ぼったくり店があってもおかしくないな。


「それは駄目だ……。いいか、みんなもよく聞け! 外壁付近は魔物の被害が一番多い場所だ。だから金を稼ぐことに、手段を選ばない連中もいる……そんな奴がやってる店の商品は、相場の二倍や三倍してもおかしくはない。逆に貴族街も駄目だ……貴族はほとんど見栄のようなものだから、見た目は良くても粗悪な物が多いので、飾りみたいなものだ。」

性能も良いものは更に高くなる。と騎士団長。


「ではどこがいいのでしょう? この広い王都で探すのは難しいです。」


「そういう場合は冒険者ギルドへ行くんだ。あそこなら、おすすめの店を紹介してくれるから、安いかは別としてもぼったくりは無いだろう。」

少しお前を過信していたようだ……と少し残念そうな騎士団長。


おお、俺の行動は合ってたってことか。ただの他力本願だったが。


 というか、そういうのやめてあげて! 勝手に期待して、勝手に期待はずれだと幻滅するのいくない。俺は嫌いなタイプです。


 騎士団長の指摘に愛読者Kたちが、その手があったかー! とわめいている。小説でもお馴染みなのだろうか? なら教えてやれよ。と思うが、当人たちも失念していたのなら仕方ないか。


「冒険者ギルド……」

つぶやくように言う委員長。


「ああ、行きつけや強いこだわりがない場合は、冒険者ギルドでおすすめの店を聞いた方が無難だ。」

覚えておくといい。と騎士団長。


 それくらい先に教えてやればいいのに。試していたのか……俺とはまた違った感じで、委員長も苦労してそうだ。


「あの、お金の追加はできそうですか?」

おずおずと聞く委員長。


「そうだな……進言しておこう。ただあまり期待はしないでくれ。魔物の件で金がかかっている状況だからな……あまり多くは無理だと思う。」


「ですよね……やっぱり俺たちも自分で稼いだ方が良さそうですね」


「確かにそれが手っ取り早いが、本音を言うとお前たちが魔物と戦うのは、まだ厳しいと思う。もう少し辛抱してくれ。」


「分かりました……」


 話はまとまったか? 明日朝早くに起きてくだんの魔物をどうにかするために、さっさと部屋に戻りたいんだが解散でよろしいか?


「こちらの話はこれで終わりだ。あとはソウマ、お前に任せる」


そう言って騎士団長は食堂から出て行った。


 委員長がなんとも言えない顔をしている中、クラスメイト達は金が欲しいだの、そろそろスマホが恋しいだの、他クラスに恋人がいた連中が会いたいだの自由だ。


 これだけフリーダムなら、俺がいなくても問題ないよな。と帰ろうとすると視線を感じる。あー、これはパターン副委員長。


視線で判別できるようになってしまった……足音よりマシか?


 中崎をチラリと確認してみる。取り巻きとお話中みたいなので、こそっと副委員長へ視線を向けて、目を合わせ“また今度”の意味を込めて、ロイルさんスマイルを送ってみた。そのまま食堂を出るため扉へ足を向ける。


 そういやクラスメイトに、使ったことなかったなーと思って、思いつきの行動だったのだが、何やら失敗したようだ……。気持ち悪かったかな? もう少し爽やかさを出せたらいいんだけど、経験値不足です。


 親友さんが、副委員長の心配をする声が聞こえてきて、俺は逃げるように食堂を出た。



◆───────◆───────◆



少し離れてから自室へ転移。


《シズヤってフラグは平気で立てるくせに放置よね……》

帰って早々女神さまがよく分からないことを言っている。


《そういえば謁見の時とか今まで静かでしたね?》

どうかしましたか? と俺。


《普段はうるさいみたいな言い方ね……》


 いえいえ、最初はお世辞にも静かとは言えませんでしたが、今はもう大丈夫ですよ。


《はぁ……人間はいつの時代も変わらない、と思って見ていただけよ。あの場に勇者を利用しようと、考えている貴族は絶対いたわ。》


 なるほど……まあでも、勇者が誰であるかなんておおやけにすることはないでしょうし、分からなければ利用しようがないのでは?


《でもほら、ソウマっていう子……委員長くんが勘違いで利用されそうよ?》


《あー、カモフラージュが成功してるってことですね。》


 それはそれで俺としてはいいけど、委員長に何かあると面倒ごとになるかもしれないか……。どうしましょうかねえ。


《まあでも、今は魔物の件でどの領地も大変だろうから、同時に貴族なんて忙しいでしょうし、大丈夫じゃないかしら?》

問題なのは魔物の件が解決したあとね。と女神さま。


《んー……それはその時になったら考えましょう。》


恩は忘れてないので、何かあったらその時は助けますよ。


 自室から外を見ると世界はオレンジ色だった。明日は早起きしないといけないし、今日は早めに寝ないとな……。


そう考えていると扉がノックされた。


「はい。」

どちら様でしょう? と俺。


可能性は二択、ロイルさんか専属メイドのカトレアさん。


「カトレアでございます。」

入ってもよろしいですか? とカトレアさん。


「どうぞ」

断る理由もないので許可する。


失礼します。と言って入ってくるカトレアさん。


「どうかしましたか?」


呼んでないのに来た専属メイドカトレアさん。


「こちらを、宰相閣下よりお渡しするよう仰せつかりました。」

そう言いながら、俺に単行本より少し大きいかな? ってくらいの大きさの高そうな箱を渡してくる。


「開けても?」


 こくりと頷き、どうぞ。と言われたので開封。中に入っていたのは、ネックレスとイヤーカフス? とピアスだった。


「えっと……これは?」

どうしろと?


「こちらは王家の宝物庫の中の一つでございます。明日から早速、魔物の件に動いていただけるということですが、まだ頼まれました物は、できておりません。ですが、あった方がいいだろう。とこちらをシズヤ様にお渡しすることとなりました。」


 うん、さっぱり分からん。つまりどういうこと? 仮面か何かの代わりにこれをつけろってこと?


「これらに、頼んでいた物と同じ機能があるということですか?」


「鑑定をどうぞ。」


言われたので鑑定してみる──


〖変貌のネックレス〗:髪と瞳の色を変えることができる古代の遺物アーティファクト。作者はディルファンカ。

品質:最良


〖認識阻害のピアス〗:認識阻害の効果がある。古代の遺物。作者はディルファンカ。

品質:最良


〖記憶干渉のイヤーカフス〗:これをつけてから会った人に、顔を覚えられづらくさせる効果がある。古代の遺物。作者はディルファンカ。

品質:最良


──古代の遺物……品質で良の上があったとは……このディルファンカって誰だ。情報量が増えて頭の中がぐるぐるする。


 しかし何より……機能的にはありがたいが、こんなの貰ってもいいのだろうか? 恩を着せられてる感があるのは気のせいではないと思う。後に面倒なことにならなければいいけど……。



取り敢えず、これにて前準備は完了した。

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