第28話:謁見2

 国王さまに目配せされて、自身のいた場所から一歩前に出るロイルさんは、何やら紙の束を持っている。


「改めまして、宰相を仰せつかっているロイル・フォル・テンダーと申します。これより賠償の話をしたいと思います。代表として──」


そこで騎士団長を見るロイルさん。


「ソウマが適任かと」

騎士団長が委員長を見て言い切る。


「──ではソウマ殿にはこれより召喚者代表として発言を許可しましょう。」


ロイルさんに言われた委員長は騎士団長と目配せし立ち上がる。


「僕が代表として発言させていただく、ソウマことソウマ・セリザワです。よろしくお願いします。」

頭を下げる委員長。


やっぱり少し下手に出過ぎでは?


 しかし、ロイルさんは気にした様子もなく、紙の束から一枚持ち上げて読み上げる。


「それではソウマ殿、この度は勇者召喚について曖昧な知識のまま、召喚を行ったことにより、本来は勇者様一人を召喚するはずが、勇者様を含む二〇人の計二十一人を召喚し、勇者様以外の二〇人を巻き込む結果となったこと、深くお詫びいたします。それによって発生する賠償の内容ですが、召喚者の皆さまはこの世界に来て日が浅く当然何も知らない。このまま賠償金だけを渡して、後はご自由にどうぞ。では無責任かと思いました。よってロズレット王国としましては、召喚者の皆さまに魔法や剣術を含める学びのため、王立学校への斡旋あっせん及び、犯罪を犯さない限りは生活を援助する。ということをこの場で、公式にお約束いたします。」

賠償の内容はこれでよろしいでしょうか? とロイルさん。


 賠償の金額を明確にせずに、犯罪を犯さない限りは何年も養ってくれるってことか……別の見方をすれば、生殺与奪を握られているってことだけど目立った問題はないな。何もせずになまけなければいい話だからな。


 そこで二つ返事で、はい。と言っていたら見損なっていたが、何やら考えている様子を見せる委員長。パパは都合のいい人間になりきってはいないみたいで何よりです。


「一つ、よろしいでしょうか。」

と挙手する委員長。


 どうぞ。とロイルさん。俺含めみんなは、固唾かたずを飲んで見守るしかない。


「その犯罪の部分ですが、具体的な犯罪の定義をお教え願えないかと。元の世界とこちらの世界では、程度が違うでしょうし……具体的に分かっていた方がお互いに、いいのではと思いまして。」

真剣な顔で委員長。


 ここでそれを聞いておくのは、俺も正解だと思う。こちらには多かれ少なかれ、不穏分子がいることだし……ここではっきりさせて、少しでも抑止力になればいいけど。


特に中崎。耳かっぽじってよく聞いとけよ。


「そうですね。元の世界ではどのようなことが、犯罪とされていたかは存じませんが、まず〖殺人は犯罪〗です。これはです。この国で行った場合は極刑となります。未遂の場合は極刑とはなりませんが、殺人の意思があることに変わりはないので、何かしらの厳罰に処されるでしょう。最悪の場合、烙印らくいんを押され奴隷落ちとなり〖犯罪奴隷〗になります。」


 こくりと頷く委員長。人数や余罪によるけど、極刑ではなかった気がする……しかし、そこは元の世界と似ている。どの世界でも殺人は犯罪ということだ。そして奴隷か……。


「しかし〖犯罪奴隷の殺人〗については、それに該当しません。犯罪を犯し奴隷になっている者を殺しても罪には問われません。」


委員長がゴクリと唾を飲んだのが分かった。


 俺も嫌な汗が流れた。この世界……少なくとも、この国には奴隷制度があるということだ。


「次に〖犯罪奴隷以外の奴隷への虐待〗これは犯罪です。借金奴隷を虐待、酷使することは認められません。借金奴隷ということは、借金のカタや金銭の工面のため、自分を売っているだけ。ですので借金さえ返してしまえば、借金奴隷は一般人に戻ります。そんな人間を犯罪奴隷のように扱うことは罪となります。」


 奴隷にも、犯罪を犯して落ちた犯罪奴隷と、借金のために自ら売られた、借金奴隷というのがあるらしい。犯罪奴隷はともかく、借金奴隷は一時的なものなのか……。


「次に〖犯罪を犯した者以外を烙印無しで勝手に奴隷化する〗これは犯罪です。犯罪奴隷の場合は、国に公的に登録され消せない烙印を押されて犯罪奴隷となります。しかし借金奴隷の場合は、契約して消せる烙印を押し借金奴隷となります。これは孤児に多いのですが、契約して烙印を押さずに勝手に、奴隷として扱い売り買いすることは罪となります。」

これを取り締まらなければ、種族に関わらず弱き者は淘汰され、勝手に奴隷として売り払われてしまうので。とロイルさん。


 確かに、それを許したら人間や獣人、エルフなど特に女こどもは理不尽に、金にされるだろうな……。


「なるほど……元の世界には、奴隷制度はありませんでした。」

顔色の悪い委員長。


「そうでございましたか……でしたら尚更、お気を付けください。犯罪をあげていくと切りがないので、召喚者の方々に当てはまりそうなものですと、〖他国への勝手な情報提供〗これは犯罪です。反逆罪に該当するので、お気を付けください。こちらへ事前に報告、何を提供するか言っていただき、陛下より許可があれば問題はありません。」

それ以外は罪となります。反逆罪ですと極刑は免れません。とロイルさん。


またもや無言でこくりと委員長。


「他には〖城の物の勝手な持ち出し〗や〖城に許可なく人を招く行為〗……皆さまは、急遽一時的に城に滞在しておりますが、貴族や王族ではございません。よって〖不敬罪〗が適用されますので、貴族や王族への不敬なんかを気を付けていただければ、一応……大きな問題は無いかと。」

後で今言ったことを含め、犯罪をまとめた書類をお渡ししましょう。とロイルさん。


「……分かりました。ありがとうございます。」


「ああ、それと不敬罪については該当しません。ですが、まだ皆さまの誰が勇者様か分からないので……気を付けるに越したことはないでしょうね。」

にこりとロイルさん。


ひぇっ 一瞬目が合った気がした……。


「ですね。それと、もう一つ……もしも犯罪を犯した人がいた場合、ですが連帯責任となりますか? それとも当人のみが対象となりますでしょうか?」

不安そうな顔の委員長。


 確かに、例えば中崎が何か犯罪を犯したとして、無関係の人まで巻き込まれるとしたらたまったもんじゃない。連帯責任ならこれまで以上に、不穏分子中崎の行動を注意してみていないといけないだろう。


 クラスメイト達のパパみたいになっているとはいえ、委員長は中崎の親ではない。つきっきりで見張ることなんて、不可能だしやりたくはないだろう。


「そうですね……その場合は、状況次第で話し合いましょうか。対象が一人であれば当人の問題ですが、複数での犯行の場合は似たような考えの、不穏分子がいるということですからね。お咎めなしは問題かと。」


「……分かりました。」


一応はまとまった感じか?


 委員長は気付いているのだろうか? 貴族は金で解決できる、という要素が残っていることに。一度もとは言ってない。種族は関係ないが、貴族かどうかは関係あるということだろう。わざと言ってない感じがする。


 貴族制度があるのなら〖貴族の義務ノブレス・オブリージュ〗、権力や財力それに社会的地位があるので、良くも悪くも一番金に関わるのだから当然か……。


 中崎の頭次第だが、貴族に取り入って犯罪を犯した場合は……いや、今は考えるのをやめておこう。フラグになったら嫌だし。


「召喚者が犯罪を犯した場合のことも書き起こして後ほどお渡しいたします。」


「お願いします。」


「ではこれにて賠償の話は終了といたします。貴族の皆さまで質問がある方がいらっしゃいましたら発言をどうぞ。」


ロイルさんが騎士に挟まれ並んでいる男性たちに言うと一人が挙手をした。


「ローザン侯爵こうしゃく、何か?」


挙手した三〇代半ばくらいの男性はローザン侯爵というらしい。


「先ほど勇者が誰か分からない、と言っていましたがソウマ殿が勇者というわけではないのですかな?」


「それについてはまだ……ソウマ殿が勇者の可能性も無いとは言えないが、現在誰が勇者であると断言することはできません。」


 ロイルさんの返答を聞いた侯爵さまは、なるほど……。と言って黙った。それを見てロイルさんはこれにて話を終わらせようとまとめる。


「それでは皆さま、この度はお時間いただきありがとうございました。これにて謁見を終了したいと思います。」


 ロイルさんの言葉を合図にして、先ほど入ってきた大きな扉を騎士が二人がかりで開ける。


騎士団長に、出るぞ。と言われて俺たちは後に続き謁見の間を出た。



 何よりホッとしたのは、中崎が国王さまの前でやらかさなかったことだ。一応それはまずいことだ、という判断力はあるらしい。

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