第26話:専属メイドができました。

 自室に戻った俺はソファーへ。側に袋を置いてプラスαで貰った茶色い紙、みたいなものを見てみる。


そこには魔物の名前と討伐証明部位がズラッと書いてあった。


 なになに……スライムは核である魔石、ゴブリンは片耳、ウルフは毛皮も使えるので丸々でもいい……なるほど。


 その魔石でなんの魔物かを、判断できたりするものなのか? あと部位の一部って魔物は、その部位が欠損すると生きられないのか? なんでその部位を指定しているのかは分からないが、まあ持っていけば証明になるのなら気にしなくてもいいか……。


 でも魔物によっては加工できたり薬の素材になったりするから大事な情報らしい。冒険者はこれ全部覚えてるのかな? 直ぐに全部は厳しいので、その紙を持ち歩くことに決定。


《魔石の研究が進んでいるんじゃないかしら? 魔石の説明するならまず、〖魔素まそ〗の話をしなくてはいけないわね。》

女神さまが説明くれるみたいだ。


魔石の研究……魔素?


《魔素っていうのは空気中に含まれる、酸素とかと同じようなものって考えればいいわ。この世界では魔法が使えるでしょう? それにはこの魔素が関係しているの。》

この世界では空気と同じく必要不可欠なものよ。と女神さま。


《なるほど、元の世界に魔素なんてないから魔法は使えなかったと……》


《そう。でね、その辺りの詳しいことは、学校で習うだろうからはぶくとして、魔物の体内にはその魔素が心臓で凝固ぎょうこしてしまっているの。だから魔物は魔石を取られると生きていられない。これは全ての魔物に共通することよ。》

それが原因で、適正魔法の基本属性が使えないのよ。と女神さま。


《それは人間には起きえないことなんですか? 心臓で魔素が凝固っていうのは……。》


魔物であり得るなら人間であり得ないなんてことは……


《人間と魔物では同じ心臓でも作りが違うから大丈夫よ。人間は魔素を魔法発動の糧にできるけど、魔物は心臓に吸収してしまう性質なの。》


なるほど。しかし……


《そもそもなんで魔物なんて人を喰らう生き物がいるんですか?》

そこからして謎だ……。


《それは解明されてない、ってなってることだから学校では習わないわね……。魔物がどうできているのかは、学校で習うとして……魔物が存在する理由はね、なのよ。種族関係なしにね》


人同士の争いを減らすため……。


《ほら、人って直ぐ戦争とかするじゃない? それで勝手に滅びるの。でも共通の敵がいれば味方にもなれるでしょう? そのために生まれた存在なの。》

命を粗末にとか言わないでね、世界存続のために必要なことだから。と女神さま。


 完全に神目線だが……言いたいことは分かる。人は人と争い、国同士での戦争に発展し、それが大きくなればなるほど規模もまた大きくなり、最終的には空気や陸地を汚染して、星そのものが駄目になる……それを防ぐための魔物。理にかなっているわけか。


《俺は魔物を食べる気満々なので、可哀想とか言わないです。》


オーク美味しかったし。


《ふふっ だからほら、人間が食べても大丈夫な存在でもあるの。ちゃんと食物連鎖に加えられているのよ》

食べられなかったら、ただの害でしかないからね。と女神さま。


ではその食物連鎖にのっとって、命に感謝し美味しくいただきましょう。


強者の発言ねと苦笑する女神さま。勇者ですからね。



 女神さまから魔物の説明をもらい納品袋を買い、所持金は銅貨十枚、銀貨五枚、金貨七枚の残金七六〇〇円になったが明日の準備は整った。


 現在時刻は──多分一四時くらい? まあ何時でもいいんだけど。暇……どうしようか。


 そう思ってソファーでくつろいでいる時、タイミングよく扉がノックされた。


「はい。」

ノックに対して返事する。


「お寛ぎのところ失礼いたします。少々お時間よろしいでしょうか。」


メイドさんだったので了承して部屋へ入ってもらう。


無いとは思うけど、クラスメイトだと怖いので確認はおこたらない。


「他の召喚者様方の初訓練が終わりました。これより皆様が訓練着から、洗濯を終えた元の服へ着替えられてから、陛下への謁見えっけんとなる予定でございます。シズヤ様も、ご同行した方がよろしいかと思いまして、お声がけさせていただきました。」

こちらお持ちしました。とメイドさん。


説明くれた後に洗濯済みの制服一式を渡された。


 あーまたほら、話が進んで勝手に決まってる……俺が勝手に別行動だから、自業自得だし仕方ないけど……。


「分かりました。俺も行きます。」


制服に着替えますかーと思うけど部屋を出る気配がないメイドさんに向き直る。するとメイドさんは綺麗に一礼。


「それともう一つ、これからシズヤ様専属のメイドとなりました。カトレア・ヴィンディコーネと申します。宰相閣下からお聞きかと思いますが、よろしくお願いいたします。」

呼び方はカトレアで構いません。とメイドさん。


名乗られて初めてきちんと顔を見る。


 染めたのではなく、地毛と思われる綺麗な金髪に近い茶髪で、端正な顔立ちをしている女性。しかも家名があった! ただのメイドさんじゃないだろっ! 貴族? 貴族がなにゆえメイドさん?


ロイルさん……貴方、次は何を企んでいらっしゃる?


 あとすっかり忘れていた頃に! 心の準備させてくださいよ! はぁ……まあ、もう心の中で何言っても仕方ないので現実を受け入れますか。


「ええ、聞いてはいます……。改めて、シズヤですよろしくお願いします。」

自己紹介後に一礼する俺。こういうの言いながらはダメだった気がする。


「それと、私はシズヤ様専属のメイドとなりますので……夜も、呼び出されれば断ることは致しません。」

何やら言いづらそうにする、メイドさん改めカトレアさん。


 はて? 夜に用事なんかないけど……もしかして検証の手伝いを申し出てくれてる? でも、もう人間で試せることないしな……強いて言うなら屍なら必要だけど。


《シズヤ、夜って言ったら……》

何故かもごもごする女神さま。どゆこと?


俺一人が分かってないの? 頭を傾げるしかないんですが。取り敢えず──


「──もう人で試せることはないので大丈夫ですよ。」


「え……人で、試す……?」


絶句した感じのカトレアさん。なんで?


《おバカ……》

呆れた感じの女神さま。なんで!?


「はい……ロイルさんに協力してもらったのでもう大丈夫です。」


「えっ 宰相閣下と、ですか!?」

あんぐりしてるカトレアさん。あご外れそうだ。


ん? 何やら話が噛み合ってない気配。


「はい。ロイルさんと転移して問題ないようでしたので……」


「え、転移……ですか?」


「え、はい。えっと……なんの話してます?」


「えっと……」

また言いづらそうにもごもご。それじゃ分からんて。


「専属ってことは俺の魔法についても聞いてますよね?」


「はい。シズヤ様が勇者でその魔法が転移魔法というものであること等聞かされております。」


「ふむ……で、魔法の検証は夜に行うことが多いんで、協力を願い出てくれているのかと思ったんですが……何やら話が噛み合ってない様子。一体なんの話だと思ってたんですか?」


 俺こんなに喋ったの初では? ってくらい喋ってる気がする。そんなことないか。


「あ……えっと……私の勘違いで……」

急に真っ赤になるカトレアさん。本気でわけが分からないでござる。


「えっと、落ち着いてください。取り敢えずソファーへどうぞ」


あわあわするカトレアさんをソファーに座らせる。


 紅茶とか出せたらいいんだろうけど、生憎とこの部屋には存在しない。あとでティーセット一式揃えようかな……。


 取り敢えずこれくらいなら戻せばいいかな、とコップと水を転移させる。イメージでは厨房から拝借した。本当はどこからとかは知らない。元の場所に戻すイメージで転移するので許してください。


 お水どうぞと差し出すとありがとうございます……と飲んでくれた。自分が用意したものを飲んでくれると嬉しい。やっぱりティーセット揃えよう。決定!


それから少しすると落ち着いたようでコップをテーブルに置くカトレアさん。


「取り乱し申し訳ありません……。私が話していたのは……同衾どうきんのことでございます。」


……同衾──って確か……そんなん俺が取り乱すわっ!


「いや、いやいやいや! そういうのは好きな人とするものです! 俺は頼まないので安心してくださいっ!」

ギョッとするとは、まさにこのことかってくらい驚いた!


 ロイルさん!? かは知らないけど、この感じ誰かの命令だな? 俺に迫られたら断るなって言われてるな! やめろまったく。俺はそんな節操なしじゃありませんよ? 


「ですが……」


「俺は誰とでも、そういったことをするような男ではないです。好きな人とだけ合意の上でします。ですので、可能性で言ったら俺たちが、両思いにならない限りないので、そのつもりでいて下さい。」

いつになく真剣な顔になる俺。



 なぜかカトレアさんは、また顔を赤くして下を向いてしまった。ホント女性は難しいな……。

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